仙台で発行されている川柳誌「杜人」の創刊250号(2016年夏号)が先日発行された。巻頭の「ごあいさつ」で発行人の山河舞句は次のように述べている。
〈 杜人社の創立は昭和22年10月です。スタート時の同人はわずかに4名。いずれも、娯楽の少ない戦後の混乱期に、ラジオ文芸や新聞柳壇に惹かれて川柳を始めた二十歳前後の若者でした。
昭和22年、月刊誌から始まった「川柳杜人」は、顧問として川上三太郎、前田雀郎、大谷五花村を迎え、句会の選者や川柳講演をしてもらったり、また「番傘」の岸本水府や「ふあうすと」の椙元紋太、福島の白石朝太郎、川柳非詩論で知られた石原青龍刀などにも評論を書いてもらうなど、全国的に注目されるようになりました。 〉
「杜人」の歩みについては私もこの時評(2011年5月20日)で書いたことがあるが、簡単に振り返っておこう。
「杜人」は昭和22年(1947)10月、新田川草(にった・せんそう)によって創刊された。創刊同人4人とは、川草のほかに渡辺巷雨、庄司恒青、菊田花流面(かるめん)。杜人の句会は川草の経営するパン屋の2階でやっていたという。
その後、添田星人と大友逸星の星・星コンビが加わったほか、田畑伯史、今野空白など著名な川柳人を輩出した。新田川草は、深酒の果てに昭和47年(1972)死去。
「杜人」の指向するところを山河舞句は次のように書いている。
〈 「川柳杜人」は、伝統的に勝手気儘な自由なグループです。一人ひとりの個性がはっきりしている集団です。画一的ではないスタイルをそれぞれが指向しています。 〉
創刊250号を記念して誌上川柳句会が行われ、その結果が発表されている。
兼題は「朝」「着」で、それぞれ三人の選者による共選。各選者の特選を選者名とあわせて紹介しておこう。
仏壇はあるしドラマは始まるし 木暮健一 (野沢省悟選)
一匹になった金魚に朝が来る 福力明 (八上桐子選)
朝を待つ象の鎖骨にふれながら 瀧村小奈生 (佐藤みさ子選)
かたぐるま真っ赤な夕陽着て帰る 黒木せつよ (藤富保男選)
蕗の薹母は生涯木綿着て 松岡玲子 (𠮷田健治選)
ゴム草履が流れ着いたらもう無敵 樋口由紀子 (広瀬ちえみ選)
「朝」の方には「仏壇」「一匹になった金魚」「象の鎖骨」に対するそれぞれの選者の思い入れの深さがうかがえる。「着」の方は、藤富と吉田が「取り合わせ」の句を選んでいるのに対して、広瀬が「切れのない句」を選んでいるのがおもしろいと思った。各選者による選評が付いているので、ご興味のある方は本誌をお読みになっていただきたい。
以下、アットランダムにピックアップしておく。
朝礼の途中で一人二人孵化 芳賀博子
口開けて朝日七秒いただいた 深谷江利子
ニンゲンに戻ろう朝が来る前に 浮千草
思いだし笑いが朝になりました 赤松ますみ
向こう岸を少しのぞいてから起きる 山田ゆみ葉
平等に朝が来るとはかぎらない 鈴木逸志
土中から出てくるここは朝ですか 広瀬ちえみ
いま朝を連れてくるから待ってろよ 樹萄らき
瓶詰の朝を大さじ1と1/2 楢崎進弘
朝礼のみんな卵を産みたいの きゅういち
不時着のトマトを愛とまちがえる 吉岡とみえ
着くまではさやえんどうでおりますね 丸山あずさ
たどり着かないようにあなたを迂回する 瀧村小奈生
試着室なかなか妻が出てこない 鈴木逸志
存在を着崩している排卵日 きゅういち
船着場までは真っ赤な服でいく いわさき楊子
カンガルーキック着払いで届く 森田律子
着々と太郎は森になってゆく 江口ちかる
絢爛とかぶく僧千人の大法会 松永千秋
傘ないねんと計画的不時着 岡谷樹
192名の投句者があり、一人二句だから各題384句の選となる。さまざまな傾向の句が集まり、共通のベースは何もないから選はたいへんだっただろうが、「画一的でないスタイル」を指向する「杜人」にふさわしく多様な作品が集まったようだ。現時点での現代川柳の幅を展望するのに有効だと思われる。
それにしても、250号とは息の長い営為である。来年は創立70年を迎えるという。これからも「開かれた杜人」の誌面と活躍を期待したい。
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