『連句年鑑』令和6年版(日本連句協会)が発行された。前年度の記録として毎年発行されているが、国民文化祭の入選作品や全国の連句グループの作品のほかに評論やエッセイも掲載されている。「芭蕉が北枝にもたらしたもの」(綿貫豊昭)は蕉門十哲のひとりで伊勢派のルーツでもある立花北枝と芭蕉の出会いについて詳述している。「試みの非懐紙」(狩野康子・永淵丹・鹿野恵子)は橋閒石の創始した非懐紙についての実践的なレポート。「季寄せの中の水生生物」(木村ふう)は水生生物の研究者であり連句人でもある木村が魚や貝などの生態と季語との対応を検討している。季語の水生生物は食べられるものが多いのは人間生活との関係でうなずける。地域差の問題や、ある生物がなぜその季節の季語になっているか、また季語と季節があわなくなっている要因を表やグラフも使って興味深く説明している。鰆(サワラ)は三春の季語だが関東と関西で旬が違う、源五郎鮒は三夏だが旬は冬から春にかけて、帆立貝は三夏だが旬は初秋から初夏(冷凍品は一年中)など、ふだん気づかない情報が書かれている。
昨年の国民文化祭・石川の文科大臣賞受賞作品(半歌仙「遡りては」)から。
遡りては流されて春の鴨 名本敦子
やまあららぎの尖る銀の芽 久翠
暮れ遅し陶土練る背に月射して 杉山豚望
ジュニアの部の作品(表合せ六句「人気者」)から。
ストーブや期間限定人気者 柚男
来てくれるかなサンタクロース 侑空
TWICEの日本公演楽しみに 真帆
7月20日、昨年に続き郡上八幡に出かけた。毎年この時期に開催される「連句フェスタ宗祇水」に参加するためである。名古屋から美濃太田に出て、中山道の太田宿を見学した。公武合体のときに皇女和宮がこの道を通ったことで知られる。本陣は門だけしか残っていないが、脇本陣の一部が見学できる。すぐそばに木曽川が流れていて、太田の渡しは難所として知られていた。長良川鉄道に乗って郡上八幡へ。郡上踊りが7月13日からはじまっていて、夜に広場へ行ってみたが、うまく踊れない。
翌21日は9時から宗祇水の前で発句奉納。今年は事前に何も言われていなかったので安心していたが、その場で発句を頼まれ焦る。
再会の下駄の響きや梅雨明ける
会場のまちなみ交流館で三座に分かれ歌仙を巻いたあと、夜は懇親会。その後、今夜も郡上踊りへ。体力も落ちているのか、やはりうまく踊れない。インバウンドの双子の女性が踊りの輪にいるのが印象に残る。今年は10月に国民文化祭が岐阜で開催されるので、また郡上に来たいと思う。
「俳句界」7月号(文学の森)の特集は「潜在意識と俳句」。無意識という言葉もあるが、潜在意識という言葉を使うと、「かたちのないものを形としてとらえる」(鴇田智哉)というニュアンスになるのだろう。
レポートのページに今年3月18日に京都の三木半で開催された「みやこの陣・春の陣」のことが紹介されている。歌仙「春の陣」の巻(捌・北原春屏)から。
賀茂川の流れは絶えず春の陣 小池正博
物陰緊と小草生月 北原春屏
仏暁の提琴の音の朧にて 西川菜帆
京都府連句協会の主催で、8月17日には「夏の陣」が開催されることになっている。
鹿児島県連句協会の会報「櫻岳」第8号が発行された。同会は設立八年目を迎える。顧問の梅村光明が連句新形式「六条院」について書いている。『源氏物語』に出てくる光源氏の邸宅・六条院に因み、一連六句で四連。各連を「春邸」「夏邸」「秋邸」「冬邸」と呼ぶ。例に挙がっている「恋螢」の巻は当季が夏だったので、夏邸からはじまり、秋・冬・春と四季順行。
夏邸 恋螢十指で編みし籠の中 赤坂恒子
透けて恥づかし月に羅 上田真而子
ジャスミンの淡き香りを抱きしめん 木村ふう
身を焼く思ひ筆にゆだねて 岡本信子
囁きは天使に悪魔白昼夢 星野焱
人工知能統べる王国 梅村光明
最後に注目すべき連句書を紹介しておこう。青宵散人『ゴメンナサイ芭蕉さん丸裸』(幻冬舎)。タイトルには裏題(まじめな題)として『芭蕉さんの俳諧 その苦悩と志』とある。こういう題名の付け方がすでに俳諧的。この著者にはかつて『芭蕉さんの俳諧』(編集工房ノア)があった。『冬の日』(狂句木枯しの)の付句の案じ方について、『奥の細道』大垣 木因との確執 ふたみの別れ、各務支考のこと、など興味深い話題が満載である。