3月15日に高槻市で開催された「第四回らくだ忌」に雨月茄子春が来ていて、句集『おともだちパンチ』を入手した。表紙絵では女の子二人が台所に立っていて、ひとりはこちらを見ている。イラストは、かわいみな。湊圭伍の解説が付いている。
以前、中崎町のラーメン屋で会ったときに句集を出すという話を聞いていたので、楽しみにしていた。楽しそうな句集であることは、湊圭伍が書いている。
巻頭の「名探偵」10句の中から5句引用する。
柵越えの名探偵にご用心 雨月茄子春
焼きたての名探偵はふたつまで
かつて名探偵だった雪が降る
左手も名探偵も添えるだけ
キタムラサプーソ、名探偵さ
「名探偵」の題詠で、自己紹介的に川柳の実力を示している。ひとつの題で多彩な切り口から言葉を並べてみせている。最後の句だけ意味不明だが、名探偵コナンが「君は誰?」と訊かれて「江戸川コナン、探偵さ」と答えるノリだろう。
カラダにピース。(大好きでしたな)カラダピス
途上国途中国途下国許可局
ふざけるのも大河にしてよ(魚もいる)
あらすじはいらないお造りさえあれば
例として「おみごと」などが挙げられる
「九十九句と一句」から引いたが、作者が川柳のことをよく知っていることがうかがえる。意味ではなくて言葉から川柳を作るというアプローチや「途上国」があれば「途下国」があるはずだという言葉遊び。大河だから魚もいるという視点のねじれやズラし。「例として」の前に何かが省略されているという「前句付」の感覚など、技術的な裏付けが何となく感じられるのだ。
作者の方法意識が読みとれるのが『90’s』よりの章で、2024年9月に発行された林やは編集の冊子に掲載されたもの。「暮田真名著『宇宙人のためのせんりゅう入門』で紹介されているクレダ流川柳の作り方を、ちゃんと実践した人ってまだいない説があるのでやりました」ということだった。
額縁法(ある単語が一番引き立つように作る)
「放塾」 放塾がナナをひとつの歌にした
コーディネート法(ある単語をもう一つの要素でコーディネートする)
「おくちミッフィー」 阿蘇にでっかいおくちミッフィー
逆・額縁法(既存のフレーズを用いてつくる)
ゴッホよりふつうに水平線がすき
吟行句もある。川柳は題詠が主流で、机の前で句を作ることが多いが、外にでて吟行をするケースもある。宮崎の西都原古墳の句を紹介しよう。
植樹ついでに野立てをしよう
ちょっとおしゃれしたくなったら考古学
チキン南蛮風味の矢尻
走れ!第五回はにわんグランプリ
ハンディな句集だが、多彩な内容と方法の句が収録されている。
「この本には、僕が2022年から2025年のあいだに作った川柳を295句載せました実際の川柳句会、大会に顔を出し始める以前のものがほとんどです」「なお、ここで言う『川柳』は、基本的には暮田真名に影響を受けて作られ始めた『暮田以後』の、特にネットを中心に書かれている川柳を指します」(「あとがき」)
「暮田以後」という表現、(他の人も使っているのかもしれないが)私が最初に目にしたのは雨月茄子春の文章からである。彼はまたこんなことも言っている。
「しかし一点、僕は超えてはいけないラインがあると思っている。それは『破綻してはいけない』ということ。コロケーションを試すのも、無為な発話をするのもいい。けど、その先にちゃんと『きみ』がいなければならないと思う。言葉をこねくり回していたらなんかできました、読んでみて反応ください。じゃあ駄目だってこと。何も語る気のない、何の感情も乗っていない、『きみ』がいなくても構わないような破綻したパッチワークなら、僕は絶対に見破れる」
こういうところ、私が雨月茄子春を信用している理由である。ネットで発信されているさまざまな川柳に、おもしろい作品もあればつまらない作品もあるのは、リアル句会で上質の作品と退屈な作品があるのと同様である。いまは過渡の時代で、今後もベテランや新人の句集・アンソロジーが次々に発行されていくのを期待している。
2025年4月11日金曜日
2025年4月4日金曜日
林やはと柴田千晶
「川柳スパイラル」23号が発行された。
新同人のエッセイ、林やは「あなたと」と猫田千恵子「流されるままに」が掲載されている。林やはについては清水かおりが「同人作品評」でこんなふうに書いている。
「 夢幻さが流れるからだ抱かれたい 林やは
以前、川柳界に俳句の柴田千晶のような手触りの句が少ないと書いたことがあったが、林やはの作品にその手触りを感じている。生の過程での性の感覚を言葉に置き換えながら、どこか詩的でもある。さりげなく使われた口語が読者に感性の交歓を促してくる」
林の川柳から柴田の俳句を連想し、詩的な感性を言いあてているのは清水の慧眼である。久しぶりに『超新撰21』(邑書林、2010年)を取り出し、柴田の句を読み直してみた。 (ちなみに『超新撰21』では柴田千晶の次に清水かおりの作品が収録されている。)
夜の海鋏のごとくひらく足 柴田千晶
縛られ地蔵目隠し地蔵朧にて
快楽はオートマティック紫荊
からつぽの子宮明るし水母踏む
円山町に飛雪私はモンスター
円山町は東電OL殺人事件の起きた場所である。柴田には『生家へ』(思潮社、2012年)という本もあって、俳句と詩のコラボを試みている。たとえば、こんなふうに。
「 縛られ地蔵目隠し地蔵朧にて
助手席には乱雑に領収書が積まれていた。男は無造作にそれを掴んでダッシュボードに押し込んだ。足元に落ちた領収書を拾うと『斎藤正』という名前が記されていた。斎藤さんというのですか? と尋ねたが、男は何も答えてはくれなかった。この男はほんとうに黒崎課長を知っているのだろうか、ふと疑問が浮かんだが、他に手掛かりはなかったので、男についてゆこうと思った」
「川柳スパイラル」23号の話に戻ると、読みどころのひとつは特集の「十四字作品集」である。十四字は短句、七七句とも呼ばれ、五七五定型と並ぶもう一つの定型である。38人の作品が掲載されている。
殉死に耳を舐められている nes
稲垣足穂宇宙万才 宇川草書
表ホワイト裏はブラック 津田暹
血は姉を吐く ヒャクネンマッタ 金川宏
蓋は開かない朧夜のこと 重森恒雄
沢田君まで寒いと言うか 宮井いずみ
本妻(5さい)負債(6さい) 西脇祥貴
編集後記には「今後も現代川柳のアンソロジーや句集が続々と刊行されることが期待される」とあるが、すでに次のような作品集が発行または近刊予告されている。
兵頭全郎『白騎士』
川合大祐『ザ・ブック・オブ・ザ・リバー』
まつりぺきん編『川柳EXPO2025』
石田柊馬作品集『LPの森/道化師からの伝言』
6月1日の「川柳スパイラル」大阪句会では石田柊馬の作品集についての話し合いも行われる予定である。
新同人のエッセイ、林やは「あなたと」と猫田千恵子「流されるままに」が掲載されている。林やはについては清水かおりが「同人作品評」でこんなふうに書いている。
「 夢幻さが流れるからだ抱かれたい 林やは
以前、川柳界に俳句の柴田千晶のような手触りの句が少ないと書いたことがあったが、林やはの作品にその手触りを感じている。生の過程での性の感覚を言葉に置き換えながら、どこか詩的でもある。さりげなく使われた口語が読者に感性の交歓を促してくる」
林の川柳から柴田の俳句を連想し、詩的な感性を言いあてているのは清水の慧眼である。久しぶりに『超新撰21』(邑書林、2010年)を取り出し、柴田の句を読み直してみた。 (ちなみに『超新撰21』では柴田千晶の次に清水かおりの作品が収録されている。)
夜の海鋏のごとくひらく足 柴田千晶
縛られ地蔵目隠し地蔵朧にて
快楽はオートマティック紫荊
からつぽの子宮明るし水母踏む
円山町に飛雪私はモンスター
円山町は東電OL殺人事件の起きた場所である。柴田には『生家へ』(思潮社、2012年)という本もあって、俳句と詩のコラボを試みている。たとえば、こんなふうに。
「 縛られ地蔵目隠し地蔵朧にて
助手席には乱雑に領収書が積まれていた。男は無造作にそれを掴んでダッシュボードに押し込んだ。足元に落ちた領収書を拾うと『斎藤正』という名前が記されていた。斎藤さんというのですか? と尋ねたが、男は何も答えてはくれなかった。この男はほんとうに黒崎課長を知っているのだろうか、ふと疑問が浮かんだが、他に手掛かりはなかったので、男についてゆこうと思った」
「川柳スパイラル」23号の話に戻ると、読みどころのひとつは特集の「十四字作品集」である。十四字は短句、七七句とも呼ばれ、五七五定型と並ぶもう一つの定型である。38人の作品が掲載されている。
殉死に耳を舐められている nes
稲垣足穂宇宙万才 宇川草書
表ホワイト裏はブラック 津田暹
血は姉を吐く ヒャクネンマッタ 金川宏
蓋は開かない朧夜のこと 重森恒雄
沢田君まで寒いと言うか 宮井いずみ
本妻(5さい)負債(6さい) 西脇祥貴
編集後記には「今後も現代川柳のアンソロジーや句集が続々と刊行されることが期待される」とあるが、すでに次のような作品集が発行または近刊予告されている。
兵頭全郎『白騎士』
川合大祐『ザ・ブック・オブ・ザ・リバー』
まつりぺきん編『川柳EXPO2025』
石田柊馬作品集『LPの森/道化師からの伝言』
6月1日の「川柳スパイラル」大阪句会では石田柊馬の作品集についての話し合いも行われる予定である。
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