2010年にこの時評をはじめたときは、時評の対象となるような川柳作品、川柳句集、イベントなどが少なくて苦労したが、近年は川柳の句集が多く出るようになって、逆にそのスピードに追いつかない。管見に入ったものだけになるが、今年の主な出来事を振り返っておきたい。
今年、川柳のフィールドで最も発信力が強かったのが暮田真名である。9月に発行されたエッセイ『死んでいるのに、おしゃべりしている』(柏書房)は依然、話題になっているし、このところ暮田の名を文芸誌などで見かけない月はない。まず「文学界」11月号の特集「あなたはAIと何を話していますか」にエッセイ「ねりちゃんとひとりきり」を書いている。「すばる」11月号のシンポジウムには川柳側のパネリストとして神野紗希、堀田季何らと参加。このシンポジウムは詩歌文学館で開催されたものの記録で、ユーチューブでも期間限定で視聴することができる。あと「芸術新潮」12月号にも「GOAT」とのコラボで名前が出ている。
ここで取り上げておきたいのは「鱗kokera川柳賞」についてである。先日、第1回鱗kokera川柳賞が発表され、暮田真名・なかはられいこ・平岡直子による審査結果が公開された。
大賞は伊野こうの「口からアスパラガス」、暮田真名賞は島崎の「地上波」、なかはられいこ賞は八上桐子「きのう」、平岡直子賞は野に咲くお花「わたしのワンピース」である。
共通の話題が手術台の上 島崎
股ぐらをひらいてひろいひろい昼 八上桐子
楽しいな。わたしお荷物だったから 野に咲くお花
「文学界」2026年1月号に水城鉄茶が詩「ストレスとスイング」とエッセイを発表している。水城はいま現代詩に注力しているようだが、彼の詩行のなかには川柳としても読める要素が含まれていると思う。
今年は川柳句集の発行も続いた。管見に入ったものだけ挙げておく。兵頭全郎『白騎士』(私家本工房、1月)、西田雅子『そらいろの空』(ふらんす堂、3月)、川合大祐『ザ・ブック・オブ・ザ・リバー』(書肆侃侃房、5月)、宮井いずみ『理数系のティーポット』(青磁社、8月)。また、投稿連作アンソロジーとして『川柳EXPO 2025』の存在も見逃せない。
白騎士の匂い黙ってくれたまえ 兵頭全郎
雨ばかり降る窓の位置かえてみる 西田雅子
フーダニットの針が挿さってゆく水風船 川合大祐
理恵ちゃんが捨てたんだって熱帯魚 宮井いずみ
歌集も三冊挙げておきたい。山中千瀬『死なない猫を継ぐ』(典典堂、1月)、上川涼子『水と自由』(現代短歌社、8月)、笹川諒『眠りの市場にて』(書肆侃侃房、8月)。山中には川柳も作った時期があり、歌集にも収録されている。
宇宙服を脱がないでここは夜じゃない部屋じゃない物語を続けて 山中千瀬
どの言葉を捨てたか捨てたから言えない 山中千瀬
目をひらき夢の廃墟となるからだ 夢にからだの性別がない 上川涼子
ココシュカの《風の花嫁》を飾るだろう死後の白くて無音の部屋に 笹川諒
川柳の評論集では『LPの森/道化師からの伝言』(石田柊馬作品集、書肆侃侃房、4月)がもっと読まれてもいいと思っている。石田は現代川柳を牽引してきたひとりで、彼の仕事の上に立って、現代川柳をさらに展開させていく必要があるからだ。
キャラクターだから支流も本流も 石田柊馬
その森にLP廻っておりますか
瀬戸夏子は石田柊馬作品集の帯に「含羞のダンディズムに導かれてわたしたちは現代川柳の真髄を知ることになる」とメッセージを書いている。瀬戸が「女人短歌」についてまとめた一書が『をとめよ素晴らしき人生を得よ』(柏書房、8月)。
早春のレモンに深くナイフ立つるをとめよ素晴らしき人生を得よ 葛原妙子
「水脈」が終刊になり、現代川柳の時代が終わりつつあり、2020年代後半はこれまでとは違った光景が見られるようになるかも知れない。かつて私は句会・大会で消費され消えてゆく川柳を「蕩尽の文芸」と呼んだことがあった。句会だけでなく、ネット句会でも同様の現象が起きているが、日々生産されるおびただしい数の中から記憶にのこる川柳作品が現れるのを待ちたいと思う。
2025年12月27日土曜日
2025年12月19日金曜日
2025年回顧(連句篇)
ある連句人の一年を日記ふうに紹介する。
2025年1月5日(日)
第17回わかやま連句会。和歌山城ホールにて開催。出席者8人。 「国民文化祭わかやま」のあと2022年に発足した連句会で、奇数月の第一日曜に和歌山市で開催されている。毎回、和歌山ゆかりの文学者・文化人についての話があり、そのあと連句実作を行っている。この日は初句会なので、連句のルールについて確認をした。
新しき海へ漕ぎ出す日記始 宏
(ちなみに3月以降の例会では、高野聖、祇園南海、「小梅日記」、浜口梧陵、佐藤春夫の『車塵集』を取り上げた。)
1月13日(月・祝)
京都府連句協会新年会。京都府連句会は古都連句会、ふたば会、三金会、千代の会の4グループがあるが、全体会として新年会のほか春の陣(3月)、五山送り火連句大会及びみやこの陣・夏の陣(8月)が開催されている。
2月2日(日)
第48回大阪連句懇話会。京都・旧三井下鴨別邸にて開催。下鴨神社近くの雰囲気のある建物の二階で、連衆15名。この会場はなかなか予約がとりにくいが、たまたま冬の時期に予約できた。実作はすらすらと歌仙一巻を満尾。
春隣糺の森に集いけり 正博
終了後、賀茂川と高野川の合流地点の三角公園で時間を調整したあと、懇親会。
2月15日(土)
わかくさ連句会。JR奈良駅前の「はぐくみ文化センター」にて開催。奈良県連句協会では「わかくさ連句会」「あしべ連句会」が開催されているが、私は「わかくさ連句会」の方に時々参加している。連句会の前に猿沢の池の前にある喫茶店で珈琲を飲むのも楽しみのひとつ。
隠国の長谷の青空山芽吹く
名残の雪の細き街道
3月9日(日)
「連句海岸」開催。2023年から年に2回程度、明石の林崎松江海岸「CURRY HOUSE Babbulkund」にて開催されている連句会。当日は3座にわかれて連句実作。「連句海岸」については門野優氏のnoteに記事が掲載されているので検索してください。
連句会終了後、明石の魚の棚に繰り出して懇親会。
3月23日(日)
日本連句協会総会・全国大会。深川の芭蕉記念館にて開催。総会のあと7座にわかれて連句実作。
(日本連句協会発行の「会報 連句」8月号に記録が掲載されている。)
5月15日(日)
第二回関西連句を楽しむ会。大阪上本町・たかつガーデンにて開催。
1990年代から2000年代にかけて、近松寿子(茨の会)・岡本星女(俳諧接心)・品川鈴子(ひよどり・ぐろっけ)・澁谷道(紫薇)の四氏によって「関西連句を楽しむ会」が運営されていたが、2006年を最後に中断。以後、関西の連句グループはそれぞれ独自の歩みを続けているが、昨年「第二次関西連句を楽しむ会」として再出発した。第二回の今回は、ゲストに鈴木千惠子氏(「猫蓑会」会長)を迎えて「式目の研究」のトーク。途中から、門野優・山中広海・相田えぬ・綿山憩など若手連句人が対話に参加した。
若葉風吹くや西から東から 正博
来年の第三回目は会場を須磨寺に移して5月17日に開催予定。
7月27日(日)
義仲寺にて同人連句会開催。毎月第四日曜日に開催されている。
私は年に2回程度参加。歌仙を巻く貴重な機会で、膝送りが多く、付句の練習になる。
8月18日(月)
みやこの陣・夏の陣、開催。五山送り火連句会の方には参加できなかったが、各地の連句人が京都に連泊して連句を楽しんでいる。私は日帰りで参加。
10月4日(土)
第35回さきたま連句会。川口市メディアセブンにて開催。この連句大会にははじめて参加する。いささか旧聞に属するが、川口市は映画「キューポラのある街」で有名だ。駅周辺を散策。
爽涼やベッドタウンの東口 正博
10月13日(月祝)
第19回浪速の芭蕉祭。大阪天満宮・梅香会館にて開催。
浪速の芭蕉祭は2007年にスタート。創始者は岡本星女。第二回以降、二年に一回、形式自由の作品募吟を行ったが、募吟は第10回で終了。以後は、ゲストとの対談と連句実作というかたちをとっている。 当日は12時半から本殿参拝の予定だったが、参拝者が立て込んでいて少し遅れる。祝詞や巫女の舞う神楽などがあり、私は例年、玉串奉納をしているが、はじめて参加する方には新鮮な経験だろう。「技芸上達」の絵馬を所定の場所に掛ける。今回はゲストに、まつりぺきん氏を迎えて「ネットを利用した作品の募集と発信」について対談。連句ではネットを利用した発信がまだ弱いようだ。
繁盛亭月はどっちに出ているか 正博
11月21日(金)
大分県民芸術文化祭「連句大会」。中津市民文化会館にて開催。
大分県の中津は福沢諭吉ゆかりの地として知られている。はじめて訪れたので、大会開催までの時間に街中を散策。早朝なので福沢諭吉記念館はまだ開いておらず、中津城も外観だけ眺めることができた。天守がちょうど東を向いて立っているのが印象的だった。
冬の城朝の光を浴びて建つ 正博
12月13日(土)
文京区民センターにて草門会。このところ参加できていなかったが、翌日の俳諧時雨忌とあわせて東京に二泊三日する。今年最後の連句三昧。途中までだった歌仙の続きを巻き上げたあと、捌きをするよう言われたので、非懐紙を巻く。
歳末や胸に飾りをつけながら 正博
『野ざらし紀行』の「年暮ぬ笠きて草鞋はきながら」を踏まえたつもり。
ふだんやらない「季移り」の句が出て勉強になった。
12月14日(日)
俳諧時雨忌。芭蕉記念館にて開催。長年、草門会が主催してきた歴史のある連句会だが、昨年から日本連句協会の主催となった。宿泊した両国から芭蕉記念館まで徒歩で移動。あいにくの雨だが、この日は討ち入りの日である。吉良邸のあたりに義士会のテントが出ている。途中、要津寺に立ちよる。ここは嵐雪一門の拠点で、嵐雪墓、雪中庵供養碑などがある。 連句会では旧知の人たちと一座できて、雑談しながら楽しく歌仙を巻くことができた。連句は座の文芸なので、一巻を巻くと同時に、各地の連句人との交流が大切になる。旧交をあたためるだけではなく、新しい人との出会いもあるのが共同制作の魅力である。
2025年1月5日(日)
第17回わかやま連句会。和歌山城ホールにて開催。出席者8人。 「国民文化祭わかやま」のあと2022年に発足した連句会で、奇数月の第一日曜に和歌山市で開催されている。毎回、和歌山ゆかりの文学者・文化人についての話があり、そのあと連句実作を行っている。この日は初句会なので、連句のルールについて確認をした。
新しき海へ漕ぎ出す日記始 宏
(ちなみに3月以降の例会では、高野聖、祇園南海、「小梅日記」、浜口梧陵、佐藤春夫の『車塵集』を取り上げた。)
1月13日(月・祝)
京都府連句協会新年会。京都府連句会は古都連句会、ふたば会、三金会、千代の会の4グループがあるが、全体会として新年会のほか春の陣(3月)、五山送り火連句大会及びみやこの陣・夏の陣(8月)が開催されている。
2月2日(日)
第48回大阪連句懇話会。京都・旧三井下鴨別邸にて開催。下鴨神社近くの雰囲気のある建物の二階で、連衆15名。この会場はなかなか予約がとりにくいが、たまたま冬の時期に予約できた。実作はすらすらと歌仙一巻を満尾。
春隣糺の森に集いけり 正博
終了後、賀茂川と高野川の合流地点の三角公園で時間を調整したあと、懇親会。
2月15日(土)
わかくさ連句会。JR奈良駅前の「はぐくみ文化センター」にて開催。奈良県連句協会では「わかくさ連句会」「あしべ連句会」が開催されているが、私は「わかくさ連句会」の方に時々参加している。連句会の前に猿沢の池の前にある喫茶店で珈琲を飲むのも楽しみのひとつ。
隠国の長谷の青空山芽吹く
名残の雪の細き街道
3月9日(日)
「連句海岸」開催。2023年から年に2回程度、明石の林崎松江海岸「CURRY HOUSE Babbulkund」にて開催されている連句会。当日は3座にわかれて連句実作。「連句海岸」については門野優氏のnoteに記事が掲載されているので検索してください。
連句会終了後、明石の魚の棚に繰り出して懇親会。
3月23日(日)
日本連句協会総会・全国大会。深川の芭蕉記念館にて開催。総会のあと7座にわかれて連句実作。
(日本連句協会発行の「会報 連句」8月号に記録が掲載されている。)
5月15日(日)
第二回関西連句を楽しむ会。大阪上本町・たかつガーデンにて開催。
1990年代から2000年代にかけて、近松寿子(茨の会)・岡本星女(俳諧接心)・品川鈴子(ひよどり・ぐろっけ)・澁谷道(紫薇)の四氏によって「関西連句を楽しむ会」が運営されていたが、2006年を最後に中断。以後、関西の連句グループはそれぞれ独自の歩みを続けているが、昨年「第二次関西連句を楽しむ会」として再出発した。第二回の今回は、ゲストに鈴木千惠子氏(「猫蓑会」会長)を迎えて「式目の研究」のトーク。途中から、門野優・山中広海・相田えぬ・綿山憩など若手連句人が対話に参加した。
若葉風吹くや西から東から 正博
来年の第三回目は会場を須磨寺に移して5月17日に開催予定。
7月27日(日)
義仲寺にて同人連句会開催。毎月第四日曜日に開催されている。
私は年に2回程度参加。歌仙を巻く貴重な機会で、膝送りが多く、付句の練習になる。
8月18日(月)
みやこの陣・夏の陣、開催。五山送り火連句会の方には参加できなかったが、各地の連句人が京都に連泊して連句を楽しんでいる。私は日帰りで参加。
10月4日(土)
第35回さきたま連句会。川口市メディアセブンにて開催。この連句大会にははじめて参加する。いささか旧聞に属するが、川口市は映画「キューポラのある街」で有名だ。駅周辺を散策。
爽涼やベッドタウンの東口 正博
10月13日(月祝)
第19回浪速の芭蕉祭。大阪天満宮・梅香会館にて開催。
浪速の芭蕉祭は2007年にスタート。創始者は岡本星女。第二回以降、二年に一回、形式自由の作品募吟を行ったが、募吟は第10回で終了。以後は、ゲストとの対談と連句実作というかたちをとっている。 当日は12時半から本殿参拝の予定だったが、参拝者が立て込んでいて少し遅れる。祝詞や巫女の舞う神楽などがあり、私は例年、玉串奉納をしているが、はじめて参加する方には新鮮な経験だろう。「技芸上達」の絵馬を所定の場所に掛ける。今回はゲストに、まつりぺきん氏を迎えて「ネットを利用した作品の募集と発信」について対談。連句ではネットを利用した発信がまだ弱いようだ。
繁盛亭月はどっちに出ているか 正博
11月21日(金)
大分県民芸術文化祭「連句大会」。中津市民文化会館にて開催。
大分県の中津は福沢諭吉ゆかりの地として知られている。はじめて訪れたので、大会開催までの時間に街中を散策。早朝なので福沢諭吉記念館はまだ開いておらず、中津城も外観だけ眺めることができた。天守がちょうど東を向いて立っているのが印象的だった。
冬の城朝の光を浴びて建つ 正博
12月13日(土)
文京区民センターにて草門会。このところ参加できていなかったが、翌日の俳諧時雨忌とあわせて東京に二泊三日する。今年最後の連句三昧。途中までだった歌仙の続きを巻き上げたあと、捌きをするよう言われたので、非懐紙を巻く。
歳末や胸に飾りをつけながら 正博
『野ざらし紀行』の「年暮ぬ笠きて草鞋はきながら」を踏まえたつもり。
ふだんやらない「季移り」の句が出て勉強になった。
12月14日(日)
俳諧時雨忌。芭蕉記念館にて開催。長年、草門会が主催してきた歴史のある連句会だが、昨年から日本連句協会の主催となった。宿泊した両国から芭蕉記念館まで徒歩で移動。あいにくの雨だが、この日は討ち入りの日である。吉良邸のあたりに義士会のテントが出ている。途中、要津寺に立ちよる。ここは嵐雪一門の拠点で、嵐雪墓、雪中庵供養碑などがある。 連句会では旧知の人たちと一座できて、雑談しながら楽しく歌仙を巻くことができた。連句は座の文芸なので、一巻を巻くと同時に、各地の連句人との交流が大切になる。旧交をあたためるだけではなく、新しい人との出会いもあるのが共同制作の魅力である。
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