時評を更新できないまま、一か月が過ぎてしまった。週刊ではなくて月刊になりつつある。この間のことを日記風に書き留めておく。
6月〇日
「解纜連句会」に出席のため東京へ。会場は高円寺の庚申会館。別所真紀子さんの捌きでソネット二巻を巻く。関西では鈴木漠さんの方式でソネットが巻かれることが多く、脚韻を踏む。韻は抱擁韻・交叉韻・平坦韻の三種類がある。この日は抱擁韻と交叉韻の二巻。ソネットは四連の十四行詩だから、抱擁韻の場合はabba/cddc/eff/eggとなる(交叉韻の説明は省略)。「解纜」33号から別所さんの説明を引用しておく。
「連句でソネット形式を始められたのは杏花村塾時代の珍田弥一郎氏であったが、押韻はしなかった。連句の場合、五七五、七七の音数律があり、かつ日本語は頭韻が音楽性を持つので当初脚韻は踏まなかったようだった」「詩人の鈴木漠氏は活字表現としての押韻を唱えられていて、現在の連句界では漠氏に従っている。それもひとつの在り方であろう」
高円寺界隈ははじめてだったので、商店街を探訪。昼食にはベトナム料理のフォーを注文。連句会終了後、数人で居酒屋に行き、さらにひとりでお酒も飲める異色の古書店に入る。なかなかおもしろい街だ。
6月〇日
「草門会」に出席。山地春眠子さんの捌きでソネットを巻く。この日は珍田弥一郎方式で韻は踏まない。珍田弥一郎によるソネットの説明を紹介しておく。
「ソネット俳諧を試みて何回目かになるが、ひとつはっきりしてきたことがある。十四行四章は四面の鏡からなる部屋だということだ。これが円形の鏡・円形の部屋にならないためには、各面のつなぎ目が明確に切れていなければならない。切れの強さが次の鏡を立てさせる。そして四面それぞれが同じ色彩・同じ動きであってはならぬこと」(山地春眠子『現代連句入門』による)
ソネットといっても、それぞれのルーツがあり、創作イメージが異なっている。春眠子さんには現代連句の歴史についていろいろ質問したが、『草門帖・7』に「東京義仲寺連句会~草門会」の年譜がまとめてあり、参考になる。
6月〇日
日本連句協会の主催でリモート連句大会。コロナ禍でリアル句会の開催がむずかしくなったときにZoomを使ったリモート連句大会がはじまった。今年はその三回目。8座36名の参加があり、私の担当した座は5名。半歌仙を巻く。リモート連句は遠方の連句人とも一座できるというプラス面がある。リアルの座に比べて雑談などのコミュニケーションがとりにくいところもあるが、一巡したあとは膝送りにしたので、順番が回ってこない人といろいろ話をすることができた。
6月〇日
明石の林崎海岸にあるカレー・ハウス「Babbulkund(バブルクンド)」で連句会。会名は「連句海岸」で主催者は門野優。店名は稲垣足穂の小説「黄漠奇聞」にちなむ。前に海水浴場があり、海開きはまだだが、泳いでいる人もいる。連句会は捌きの私と主催者を除いて定員六名。半歌仙を巻く。連句会終了後、海辺の散策と懇親会。夕陽が美しい海岸だということだが、この日は雲が出ていてはっきり見えなかった。
7月〇日
和歌山県民文化会館で「第9回わかやま連句会」を開催。参加者11名。毎回、連句実作の前に和歌山県にちなんだ文芸の話をしている。南方熊楠・佐藤春夫・小栗判官と熊野古道などを取り上げてきたが、この日は中上健次と熊野大学の話をする。紀州熊野サーガについては『岬』『枯木灘』を中心に登場人物の系図をもとに紹介。熊野大学については、茨木和生や谷口智行など熊野大学俳句部・「運河」などにも触れた。国民文化祭わかやまを契機にはじまった「わかやま連句会」だが、会を重ねるごとに和歌山の文芸に対する理解が深まってゆく。
7月15日
かねて行きたいと思っていた関の弁慶庵を訪ねる。美濃太田から長良川鉄道で関へ。駅から徒歩数分のところに惟然にゆかりの弁慶庵があり、惟然記念館になっている。惟然は芭蕉の弟子で口語俳句の祖と言われる。私は惟然のはじめた風羅念仏に興味があったので、記念館でテープをかけてもらった。
古池やかはづ飛びこむ水の音 なもうだなもうだ
鐘は上野か浅草か なもうだなもうだ
京なつかしやほととぎす なもうだなもうだ
こんな調子で芭蕉の発句を和讃形式にしたもので、十二番まであるが、一番から六番までが惟然の作、七番以降は寺崎方堂作だという。弁慶庵ではすでに伝承が絶え、義仲寺のほうに保存会があるという。
弁慶庵をあとにして、郡上八幡へ向かう。この夜はおどり発祥祭で旧庁舎記念館前で郡上踊りの輪に参加した。
7月16日
第36回連句フェスタ宗祇水。朝、宗祇水の前で発句奉納。「かわさき」「春駒」「三百」の座のそれぞれの発句が披露される。そのあと会場に移動して歌仙を巻く。座名は郡上踊りにちなんだもので、私は「三百」の座に参加。夕方までに巻き上がったあと、再び宗祇水に集合して、巻き上がった歌仙を読み上げるかたちで奉納する。
7月17日
朝、ひとりで宗祇水に行き清流の河鹿蛙の鳴き声を聞きながら缶珈琲を飲む。これで郡上ともお別れだ。高速バスに乗って岐阜へ。郡上八幡になじんだ感覚が岐阜の大都会の雰囲気を受けつけなくなっている。すぐに大垣へ向かった。
水門川沿いの句碑を見ながら「奥の細道むすびの地記念館」へ。芭蕉が大垣を四度訪れていることや谷木因のことなど認識を新たにした。日本連句協会の「会報 連句」6月号の巻頭に紹介されている「はやう咲九日も近し菊の宿」を発句とする歌仙のうち最初の十二句までを刻んだ連句碑も確認できた。
7月〇日
「江古田文学」113号が届く。特集・連句入門。特別講座篇・座談会篇の佐藤勝明は大垣の「むすびの地記念館」の展示の監修者でもある。座談会は日芸江古田キャンパスで行われて、佐藤氏のほかに浅沼璞・高橋実里・日比谷虚俊が参加している。連句界からは佛淵健悟〈「一茶連句入門書」入門〉、小池正博〈「現代連句入門書」入門〉、二上貴夫〈虚栗集「詩あきんど」の巻〉などが掲載。連句人必読の一冊となっている。