「BRUTUS」1008号が「一行だけで」という特集を組んでいる。「明日のための言葉300」と銘うって短歌・詩・俳句・川柳・歌詞などから言葉が選出されている。川柳からは小池正博・なかはられいこ・竹井紫乙・飯島章友・川合大祐・柳本々々・暮田真名・ササキリユウイチの8名がそれぞれ推薦する一句を選んでいる。
春を待つ鬼を 瓦礫に探さねば 墨作二郎
紀元前二世紀ごろの咳もする 木村半文銭
作二郎は小池の、半文銭はササキリの選出。川柳以外にも短歌・俳句などのページも興味深いのでお読みいただきたい。
まつりぺきん編集の『川柳EXPO2024』(発行・川柳EXPO制作委員会)も評判になっている。これは投稿連作川柳アンソロジーで、昨年の『川柳EXPO』に続く第二集になる。ひとり20句の投句で68名、1360句の川柳作品が収録されている。冒頭に掲載されている二名の作品を紹介しておく。
日記には「トロイメライ事故」と記す 笹川諒
こえ、発しないで、ののしり、口づけて 林やは
5月19日には東京で文学フリマが開催されたが、私は参加できなかった。同日、大阪で「関西連句を楽しむ会」が開催され、そちらの方がいそがしかったからだ。これはどういうイベントかというと、1990年代から2000年代にかけて、近松寿子(茨の会)・岡本星女(俳諧接心)・品川鈴子(ひよどり・ぐろっけ)・澁谷道(紫薇)の四氏によって「関西連句を楽しむ会」が京阪神の寺社や大学を会場として毎年行われていた。2006年を最後に幕がひかれ、以後、関西の連句グループはそれぞれ独自の歩みを続けているが、2020年代のいま再び集まる機会があればと企画されたものである。
ゲストに瀬戸夏子を迎え、パワーポイントを使って連句の紹介をした。その後、実作の五座に分かれ、非懐紙・十二調・五十鈴川・自由律半歌仙・二十韻を巻いた。それと並行して笠着俳諧を行い、参加者が適宜句を付けてゆき、半歌仙が完成した。笠着俳諧は寺社の祭や法会に行われ、参詣人などが自由に参加できた、庶民的な連歌・連句である。着座した連衆(れんじゅ)以外は、立ったまま笠もぬがずに句を付けたので、この名がついた。当日の半歌仙を次に紹介しておく。
笠着俳諧 半歌仙「夏始」の巻
夏始ことばの園はここかしら 正博
渾身の名でとりどりの薔薇 章子
こころもち額縁みぎに傾いて 奈里子
歴代校長みんな髭づら ふう
月の舟ジャングルジムと遊んでる ともこ
割ってみたきは風船葛 陶子
虫売のブラックニッカには飽きて 奈々
目当ての部屋へ摺り足で行く 焱
若き日の未完の恋ぞ八十路なお 美恵子
微温めのお茶を入れ替えようか 樹
独居の鍋底みがくもんもんと 紫苑
模様に秘めたその能力を 瞑
シベリアの囚われ人に凍てる月 直子
熱燗を待つ祖父のテーブル 遊凪
鉛筆を手元に置いて句をひねる 弦
吊り橋長く渡りきれない 正博
花咲かば母の在りし日思い出す 弦
肌良き石に凭りて眠らん 章子
当日は連句フリマもあり、雑俳として能登・輪島の段駄羅と岐阜の狂俳を紹介した。段駄羅は輪島塗の職場文芸として受け継がれてきた言葉遊びで、五七五の中七を同音異義語にして、前半と後半の転換の妙を楽しむ。
甘党は 羊羹が得手/よう考えて 置く碁石
段駄羅の代表作としてよく引用される作品。中七「ようかんがえて」が掛詞になっていて、連句の三句の渡りのように前後で転じる。被災した輪島に対する応援の気持ちで紹介してみた。