雑誌「東京人」4月号は「川柳」特集を組んでいる。誌名からわかるように東京中心の視点なので、関西の川柳については田辺聖子が岸本水府のことを述べているのと、時実新子が取り上げられているだけである。あとは古川柳とかサラリーマン川柳。もう少し現代川柳についてのページがあったら買ったのに。
東日本大震災から一年が経過して、諸誌には震災をめぐる言説が掲載されている。「現代詩手帖」3月号に佐々木幹郎が「未来からの記憶」を書いているが、これは昨年11月に神戸で開催された「現代詩セミナーin神戸2011」の講演を再構成したものである。
さて、3月11日に仙台で「故大友逸星・故添田星人追悼句会」が開催された。たまたま震災一年目の日と重なったが、逸星は昨年4月16日に86歳で、星人は昨年10月27日に81歳で亡くなっている。この二人の巨星については本ブログ(2011年5月20日・2012年1月20日)にそれぞれ書いている。
私は前日から仙台入りし、仙台空港からJR空港線で仙台駅に向かった。空港も駅も被害にあったが、すでに復旧している。ただ、空港の向こうに残存する立木を見ると一年前にテレビの映像で見た情景がよみがえってくる。
11日の追悼句会は黙祷ではじまった。山河舞句により開会の言葉があり、逸星さん・星人さんの写真の前に花が飾られ、献杯をする。二人ともお酒がすきで、星人さんは酒のつまみとして自宅で育てていたミョウガにもときどきビールをやっていたという。
宿題「星」(本村靖弘・中西ひろ美共選)
「低い」(野沢省悟・樋口由紀子共選)
「脱ぐ」(加藤久子・佐藤岳俊共選)
席題は「二個の松ぼっくり」を見てのイメージ吟である。見事に大きな松ぼっくりで、逸星・星人を自然に連想させる。入選作品はいずれ「杜人」誌に発表されることだろう。
席題以外は事前投句で、選も事前に終っている。会場では食事をとりながら披講を聞くことになった。追悼句会ならではのことである。
あと、会の終わりごろに穴埋め川柳(逸星・星人のそれぞれ15句の穴埋め)と前句付があった。前句付は「にんげんがややおもしろくなってきた」(逸星)の前句に七七の短句をつけるもの。むさしと松永千秋が選をした。
広瀬ちえみの「お礼のことば」があり、会は午後四時ごろに終了した。出席者名簿には44名の参加者の名があるが、それ以外にも参加された方があり、もう少し多かったようだ。欠席投句者は28名。
当日、大友逸星遺句集「逸」、添田星人遺句集「天空」をいただいたので、以下に紹介する。どちらも広瀬ちえみの編集。
まず、「逸」から。序文は山川舞句「衰えを知らぬ川柳細胞」。
せんべいを箱ごとつぶす花ふぶき 逸星
咲いている寒いと一言つぶやいて
骨折の訳は言えない笑うから
葬儀屋が来て台風に目を入れる
どんぶりが嫌と言わないから入れる
うっかりと握り返してしまったが
バス停をずらす誰も居ないので
2009年6月、「川柳人生60年大友逸星・川柳人生50年高田寄生木記念句会」が川柳触光舎主催で行われ、野沢省悟編の『記念句集』が配られた。広瀬ちえみは他選の句集がもっとあってもいいと思い、この句集の編集をはじめたという。逸星も喜んで題字を書いたりしたが、生前には間に合わなかった。158句収録。ここには編者が一読者として純粋におもしろいと思う作品が集められている。広瀬は次のように書いている。
「逸星には逸星の独特な型があると思った。これが存外強固である。その型に俗、人間愛、生と性と死、社会風刺を、そしてやさしさと毒を流し込む。型がはずされると同時に生まれるのが逸星川柳だ。それは職人技と言っても過言ではない。大胆な発想と繊細な人間観察を駆使した逸星の作品を拝借して、私は私の空想の世界を楽しんだ。心なしかやさしい句集になったような気がする。逸星さんには『僕の句集ではないようだな』と笑われそうだ」
アメリカのパンツを穿いて動けない 逸星
真珠湾までテープを巻き戻す
股間から憲法九条そそり立つ
この国はよく洗濯をする家だ
戦争と地震のどちらかに○を
逸星はこういう時事句・社会批判も巧みであった。
句集の最後には「辞世の句」が掲載されている。
川柳の尻尾に掴まりながらどぼん 逸星
続いて星人句集「天空」である。
天空の運河ときめく初明り 星人
金魚から人が生まれて笑い出す
青鷺の風生む前の身づくろい
投げ込み寺に春を投げ込む
ろくろから自分自身が立ち上がる
りんご齧ると霧がこぼれる
悪童がたくさん熟れるあんずの樹
この句集には星人自筆の色紙16句を含む95句が収録されている。星人には『川柳作家全集 添田星人』(新葉館)があるが、その後、星人は周囲の勧めもあって自筆句集を出そうとしていたようだ。遺品には200枚近くの自筆の色紙があり、追悼句会の会場にも展示されていた。
上掲の句に七七句(十四字・短句)が見られるのは彼が連句にも造詣が深かったことを示している。
平成23年10月1日「杜人句会」最後の作品から。
つまらないギャグだな鼻毛だけ伸びる 星人
都築裕孝は句集の序文で、星人が愛してやまなかったものが金魚と夫人であることを述べ、次のように言う。「目の不自由な彼女に夫の星人は『お前の目になってやる』と言っていたという」こういう言葉はなかなか言えるものではない。
「杜人」には逸星・星人の薫陶を受けた個性的な同人たちが集っている。東北・仙台にあってこれからもユニークな川柳発信を続けてゆくことだろう。
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