「川柳杜人」は2020年12月に終刊したが、このたび杜人同人による合同句集『杜Ⅱ』(川柳杜人社)が発行された。同人9人の作品が各50句収録されている。一人一句紹介する。
巻の一水がきれいに澄んでいる 都築裕孝
輪郭はないが隣にいるみたい 浮千草
さよならが言えない鳥を飼っている 大和田八千代
みえないもの奪うみえない手 加藤久子
花咲いて喉の奥まで見せている 佐藤みさ子
右に二度ずらせば窓は開くのだが 鈴木逸志
あのときはトンボのようなわかれかた 鈴木せつ子
春になる土を被せておくだけで 鈴木節子
蝶殺め詩人は蝶の詩を書いた 広瀬ちえみ
同人のうち加藤久子と佐藤みさ子は『はじめまして現代川柳』(書肆侃侃房)に参加、広瀬ちえみは第三句集『雨曜日』(文学の森)を昨年刊行した。
都築裕孝が「発刊によせて」で次のように書いている。「かつて『杜人』は当時の五十歳から六十歳代のいわば現代川柳の草創期にあった同人たちが当時は珍しいと思われていた合同句集を初めて編んでいます。『杜(もり)』です。昭和五十四年(1979)発刊。布張りの上製本で、〝杜の都仙台〟を象徴する深緑色をしています」
この『杜』を私は見たことがないが、都築の文章によると、同人は宮川絢一、芳賀甚六(芳賀弥一)、丹野迷羊、添田星人、今野空白、大友逸星、伊藤律の七名で序文を石曾根民郎、跋文を福島真澄が書いているという。
「杜人」の歴史について私はこのブログの「大友逸星と『川柳杜人』の歩み」(2011年5月20日)、「『杜人』創刊250号」(2016年7月1日)などで書いているので、ここでは簡単に触れておく。「杜人」は昭和22年(1947)10月、新田川草(にった・せんそう)によって創刊された。創刊同人は、川草のほかに渡辺巷雨、庄司恒青、菊田花流面(かるめん)。その後、添田星人と大友逸星の星・星コンビが加わったほか、田畑伯史、今野空白など著名な川柳人を輩出した。新田川草は、深酒の果てに昭和47年(1972)死去。
今回は今野空白の『現代川柳のサムシング』(近代文藝社、1987年)について書いておきたい。タイトルの「サムシング」は川上三太郎から来ている。明治43年、三太郎19歳のときのエッセイに「私は日本人の皮肉、滑稽、洒落などといふものに興味を覚えない。自分の内部の強い色彩の、充実した感触を川柳に盛り込みたい。誦し終って心の奥に、サムシングの一角が深く刻まれ、現実の苦痛をもっとも痛切に現はしたものをと願ふ。これらの感じを現はし得て、私自身を慰めてゆくのである」と書かれているのを踏まえている。空白の本は「川柳の大衆性」「伝統川柳と革新川柳」「五七五(リズム・間・型)」「ユーモアと笑い」「川柳と詩性」など多岐に渡っているが、特に「女性川柳作家」の章を紹介しておきたい。これは女性の川柳人に対するアンケートをまとめたもので(「川柳杜人」昭和51年8月)、質問事項は次のようになっている(旧かなづかい)。
(1)貴女が川柳を作られた動機は何でしたか。
(2)貴女は何故短詩型文藝の中で、川柳を選びましたか。
(3)貴女がこれからの川柳に期待し、抱負を持ってゐるものは何でせうか。
(4)貴女は「ユーモア」「穿ち」「諷刺」「人間性」「詩性」等の中で何を最も重視しますか。
(5)今の川柳會で失望又は希望を抱いてゐるものは何でせうか。
(6)その他何でもお感じになってゐる事をお聞かせ下さいませ。
解答そのものはそれほどおもしろいものではないが、福島真澄がズバリ次のように言っている。「時代の趨勢として、女性の川柳作家が増加して、その女性達が従来の川柳の何ものかを打破して作品を新たに書き加えつつある現在、従来の川柳観で女性作家の意識を分類せんとするのは、女性側に抵抗がありませう。意識調査とか収集とかは、駈け足のダイジェストになりやすいですから」
あと、「女性作家川柳抄」というのが付いているのが当時の資料となる。
我もまた一夜の蟲の牝たらむ 春野清鼓
言葉とどかず背中あわせの冬に居る 来住タカ子
子を連れて人間くさき狐かな 時実新子
ひとり唄どこまで春の地図買いに 村井見也子
お母さんまぶしいから月をたたんで下さい 三浦以玖代
カラーソックスの君といて秒針を止める 小野範子
ままごとひめごと朴の葉あかき兄の耳 福島真澄
風速を読んで煙になる落葉 佐藤良子
慣らされる自我だなぞと思うまい 佐々木イネ
ぼうぼうと鬼を放ちて安らぎぬ 伊藤律
最後に伊藤律の作品を挙げておく。彼女の文語作品が評価されているが、晩年は口語作品も書いている。
しばれ満月素足のあつき雪おんな 伊藤律
未明より未明へ赤い梯子売り
てのひらの艦隊遠退き満月老人
戒名をくべて生家よ光らねば
黎明へわれ鷹匠となりぬべし
津軽地吹雪新墓ひとつ呼応せり
わたくしをかんなでけずる・ひらひら・ひら
にんげんとあそんだばかりにしろぎつね
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