2021年4月2日金曜日

俳句と川柳アーカイブ

「ねむらない樹」6号の特集「現代川柳の衝撃」でひとりの作者が川柳と短歌の実作を並べているのが興味深かった。作者は川合大祐・暮田真名・柳本々々・飯島章友・正岡豊・初谷むいの六名。川柳五句、短歌五首が左右のページに取り合わせられている。まず川合の作品を一句・一首紹介しよう。

汐留でリンパを売っていて冬か             川合大祐
丸焼きをつくれずにいるだけのこと地図の上での犀川の犀

たまたまだが、地名を用いた作品を並べてみた。汐留でリンパマッサージをしているのか。それとも琳派の作品を売っているのか。何だか分からないが「リンパ」を売っている。金沢市街を流れている犀川。室生犀星の故郷でもある。その犀川に犀がいて、どうも丸焼きにはしにくい。地名を使って遊んでいる。 下段に添えられている短文で、川合は川柳をはじめたのが2001年だといっている。そして20年続いた原動力のひとつとして樹萄らきの句がカッコよかったことを挙げている。
今までにも取り上げたことがあるが、手元に「川柳の仲間 旬」の2002年1月号があり、特集・人物クローズアップに川合大祐が取り上げられている。「自動ドア誰も救ってやれないよ」「愛するも憎むもひとりロビンソン」などの句が掲載されている。ちなみに川合がカッコいいと思った樹萄らきの当時の句を書きとめておこう。

三日間脳ミソ貸してあげようか   樹萄らき
手を高く上げて見の程知りましょう
落ちている本を拾った手に手錠
いただいたDNAはチャランポラン

川合の第二句集『リバー・ワールド』(書肆侃侃房)が近日中に発行されるという。第一句集『スロー・リバー』(あざみエージェント)も改めて読まれているようだ。

ひつじ雲から博才を隠してる    暮田真名
ミレニアム・ベイビーだけのおまつりに6人欠けてもサッカーしよう

短文「川柳は上達するのか?」は評判になったようだし、近刊予定の「文学界」5月号にコラム「川柳は人の話を聞かない」が掲載されるという。「当たり」は大橋なぎ咲との新コンビが注目され、『補遺』に続く第二句集も準備中だというから、暮田の今後の活動に目が離せない。

わたしを星が追いかけている    柳本々々
暴風雨きみが話してくれたのは「わたしを星が追いかけている」

2015年9月の「第三回川柳カード大会」のときに柳本と対談したことがある。このときも柳本に自選五首と自選五句を選んでもらったのを思い出した。そのときの作品から。

リンス・イン・魂(洗い流せない)    柳本々々
のりべんがきらきらしつつ離れてく銀河鉄道途中下車不可

このときの対談「現代川柳の可能性」は「川柳カード」10号に掲載されている。
この調子で紹介してゆくと長くなるので、飯島章友と正岡豊については「ねむらない樹」をご覧いただきたい。飯島は「川柳スープレックス」(3月4日)に「現代川柳にアクセスしよう」を書いていて、現代川柳の入り口を示すものとして便利である。正岡の短文は定金冬二についてだが、これとは別に「獏と川柳」という文章をグーグルドライブに挙げている。正岡のツイッター(2月27日)からも入れるのでご一読をお勧めする。

終末論うさぎに噛まれた跡がある     初谷むい
うさぎ屋さんがめっきり開店しなくなる 終末のうわさを信じてる

初谷むいには「川柳スパイラル」4号のゲスト作品に川柳10句を寄稿してもらったことがある。そのときの一句。

愛 ひかり ねてもさめてもセカイ系   初谷むい

川柳と短歌は形式が違うから同一作者が両形式の実作をしても読者にはよく分かるが、川柳と俳句を同一作者が実作したらどうなるだろうということを考えた。特集としては成立しにくいかもしれない。
俳句と川柳の取り合わせについて、20年ほど前に角川春樹が編集発行していた「俳句現代」という雑誌があったことを思い出した。「俳句現代」2000年6月号の特集が「俳句と川柳」であり、角川春樹が組んだ川柳人は時実新子だった。このときは見開きの右ページに俳人の作品、左ページに川柳人の作品が掲載されている。それぞれ10句。俳句からは能村登四郎・森澄雄・佐藤鬼房・稲畑汀子・岡本眸・有馬朗人・角川春樹、川柳からは橘高薫風・尾藤三柳・高鶴礼子・情野千里・倉富洋子・峯裕見子・時実新子。豪華な顔ぶれである。川柳側の高鶴礼子以下の5人は当時の「川柳大学」の会員。7組全部は紹介できないので、4組だけ各1句を引用しておく。

自から美醜を尽くし落椿     能村登四郎
革命さはじめてコーラ飲んだ日は 橘高薫風

流し目にわれも流し目冷し酒   森澄雄
遠近法を食いつくす窓の孵化   尾藤三柳

開館のその後を問はれ梅椿    稲畑汀子
世界地図の下で鮫くる夜を待つ  情野千里

三歩行き二歩退く象に春遅々と  有馬朗人
わかれきて晩三吉が膝の上    峯裕見子

峯裕見子の「晩三吉」(おくさんきち)は晩生の赤梨で冬の季語。季語を人名のように使って恋句の雰囲気を出していて、彼女の作品のなかでもよく知られている。
この特集では時実新子と角川春樹の対談のほか、「俳句と川柳の峻別を・再び」(復本一郎)、「似て非なるもの」(高橋悦男)、「俳句と川柳―同根にして異質なるもの」(関森勝夫)、「俳句と川柳の問題」(宗田安正)、「俳句は俳句らしく」(杉涼介)などの文章が掲載されている。復本一郎の『俳句と川柳』(講談社現代新書)が出て、柳俳の議論がやかましかったころのことである。今度読み返してみておもしろいと思ったのは磯貝碧蹄館の「川柳の味もまた好し」で、碧蹄館には川柳の実作もあり、川柳句会にも参加している。

女体転落月はしづくをしたたらす  磯貝眞樹
頬打たれながら女が墜ちてゆく   中村富山人

席題「人間失格」で牧四方選。「日本川柳」(昭和25年4月)より。眞樹(しんじゅ)は碧蹄館の柳号。中村富山人は中村冨二である。
今回は「ねむらない樹」からの連想で20年前の「俳句現代」に及んだが、過去の雑誌を探しているうちに、「鹿首」12号(2018年7月)が出てきた。この雑誌は詩・歌・句・美の共同誌である。八上桐子が「川柳招待席」に「ごくらくちんみ」20句を寄稿している。杉浦日向子の『ごくらくちんみ』に出てくる珍味とお酒をふまえたものらしい。二句だけご紹介。

  とうふよう×泡盛ロック
青ざめる空も前ほど疼かない    八上桐子

  いぶりがっこ×秋田地酒
面差しの皺しばし読まれてしまう

「鹿首」12号の「短歌招待席」には川野芽生の「借景園」20首が掲載されている。このとき私はまだ川野の作品の凄さに何も気づいていなかった。

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