2020年12月26日土曜日

2020年回顧

年末になった。コロナ禍で大変な一年だったが、現代川柳の動向について振り返っておきたい。以前も書いたことがあるが、戦後の現代川柳に関して私は次のような区分を考えている。

現代川柳第一世代 中村冨二・河野春三から墨作二郎・時実新子まで
現代川柳第二世代 石部明・石田柊馬から渡辺隆夫まで(1930年代~1940年代生まれ)
現代川柳第三世代 筒井祥文から清水かおりまで(1950年代~1960年代生まれ)
ポスト現代川柳世代 飯島章友・川合大祐から柳本々々・暮田真名まで(1970年以降)

今年は特に上記の第三世代の川柳人が収穫期に入り、句集や川柳本がまとめられた。
まず3月に樋口由紀子が『金曜日の川柳』(左右社)を上梓した。「拾われる自信はあった桃太郎」(田路久見子)から「独り寝のムードランプがアホらしい」(永田帆船)までの333句収録。これに樋口の鑑賞文が付く。「週刊俳句」ウラハイに毎週金曜日に連載されたものだが、現代川柳を紹介するのに果たした役割は大きい。連載は現在も続いている。
5月に広瀬ちえみの第三句集『雨曜日』(文学の森)が発行された。広瀬ちえみにはファンが多く、川柳のおもしろさを堪能させてくれる句集となっている。

うっかりと生まれてしまう雨曜日  広瀬ちえみ

10月には『はじめまして現代川柳』(書肆侃侃房)の刊行。35人の川柳人の作品が各76句ずつ掲載されているアンソロジーである。「サラリーマン川柳」「健康川柳」などとは別に「現代川柳」というものが書き継がれてきたことを発信する意味では、一般読者にとって「はじめまして」ということになるだろう。
第三世代の収穫期ということは、次のポスト現代川柳世代が現代川柳を牽引していくべき時期に入ったということでもある。今後さらに、川柳句集・アンソロジー・川柳評論・現代川柳史などの川柳書がまとめられていくことが望まれる。

川柳誌についても触れておこう。
「水脈」56号の巻頭で浪越靖政が「飯尾麻佐子と柳誌『魚』」を書いている。「魚」→「あんぐる」→「水脈」という川柳誌の系譜のなかで、「魚」の存在は繰り返し語られるに値する。手元にある「魚」の創刊号(1978年12月)で飯尾マサ子(この時点では「マサ子」と表記)は次のように書いている。

「現川柳界を改革しているのは女である。
 これは最近の柳誌の巻頭で読んだ。これを重く受けとめたのは女性であった筈である。
 戦後の川柳界へ著しい女性の進出がつづき、これについて川上三太郎師は『女性川柳という空地を開拓せよ!しかもこの開拓はわれわれ男性がいくらやろうと思ってもやれないことなのだ』
 それから十余年が過ぎたのである。
 男性が男のおもいをうたい、女性がおんなのおもいをうたうことは当然なことで、そのことを以て男性川柳・女性川柳と分類することには疑いがあるが、敢て女性作家が集った目的には、重大なタイトルがあるわけではないが、多少なりとも女のある意識が存在することは確かである。
 現在女性川柳の大半が、男性の側によって、評価されている。」

現在の時点からみて、ここに書かれていることには様々な問題性があると思われるが、いま詳しく考えている余裕はない。ただ、飯尾には女性川柳人が置かれている状況と課題がよく見えていたのだと思う。浪越の文章に引用されている飯尾の言葉を読んでいくと、彼女がやろうとしていたことの先駆性が理解できる。

「川柳杜人」268号が届いた。1年前から予告されていたことではあるが、これが終刊号になる。73年の歴史に終止符がうたれるが、惜しまれつつ終刊するのは川柳誌のひとつのあり方だろう。

みんな捨ててしまった言葉は空へ  加藤久子
模様替えしている時をあっ雪虫   広瀬ちえみ
ざわざわとひそひそひそと裁断す  佐藤みさ子

関西では高槻川柳会「卯の花」が終会となった。12月句会の会報153号によると、コロナ禍で今後の見通しが立たないなかで、句会の継続を断念したという。
交野市で開催されていた「川柳交差点」も来年1月の句会で幕を閉じるとそうだ。
川柳句会にはさまざまなタイプがあるが、「卯の花」や「交差点」は結社の句会よりも少し自由で誰でも参加できる句会として人気を集めた。呼び方が適切かどうかは分からないが、結社句会でもなく、実験的な句会でもない、中間的な句会として参加者を集めた。それが終わるというのは、やはり時代が変わってゆくのだろう。

榊原紘(歌人)・暮田真名(川柳人)・斉藤志歩(俳人)の三人で何か始めるというのをツイッターで読んだのが11月下旬。それが12月に入って、ネットプリント「砕氷船」が発行され、すでに第二号まで出ている。このスピード感は若い世代ならではのことだ。「砕氷船」第二号では暮田が俳句を、榊原が川柳を、斉藤が短歌をというように、ジャンルをチェンジして作品を詠んでいる。

冬麗それなら鰐を飼うといい   暮田真名
ネロの火を逃れてハチ公前で会う 榊原紘
レジでもらうチューインガムはレジで噛む明日の服は今日用意する  斉藤志歩

あとネットプリント「ウマとヒマワリ」11号から、平岡直子の川柳。

登山には宛名を書いて返してね  平岡直子

終ってゆくものもあれば始まってゆくものもある。これも流転する世界の姿だろう。2021年に向かって胎動はすでにはじまっている。

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