2016年2月19日金曜日

「オルガン」4号のことなど

「オルガン」は2015年4月創刊。生駒大祐、田島健一、鴇田智哉、福田若之、宮本佳世乃の5人による季刊俳誌で、いま4号が出ている。毎号、同人作品と座談会で構成される。

ゴスロリ少女財布に溜め息が白い   福田若之
火事跡に階段の蠢いてゐる      宮本佳世乃
水鳥や眠りのつひの眩しさの     生駒大祐
滝凍てて夜な夜な途方もない配膳   田島健一
ぬるい膝からつはぶきの場所へ出る  鴇田智哉

4号の座談会のテーマは「震災と俳句」。宮本佳世乃からの質問状「あなたは震災句についてどう思いますか、また、どのように関わっていますか」について5人で話し合っている。その内容は深めてゆけば、時評や評論のテーマになるようないくつもの問題性を含んでいる。

興味深かったのは鴇田が引用している高木佳子の文章(「現代詩手帖」2013年5月)。
いわき市在住の歌人である高木に電話をかけてきた人がいて、「今は仮設住宅にお住まいで?」と訊いたという。高木の住んでいるのは高台で津波被害にあっていないし、線量も低かったのだ。電話をかけてきた人は「じゃあ、普通に暮らしていらっしゃる?」と怪訝そうだったという。その人のなかには「被災歌人」という構図が出来上がっていたのだ。

この話を紹介したあとで鴇田はこんなふうに言う。
「この高木さんみたいに、そう相手から期待されると、期待に応えなきゃ悪いとか、応えられなくてすみませんみたいな、変な感情が生じてしまうこともある」「文字として書かれている俳句とか短歌そのものは変わらないのに、添えられている地名で何かが変わる。そこで変わっていいの?っていう疑問もあるんだよね」
地名や作者名によってテクストの読みがずいぶん変わってしまうことは震災作品でなくても経験するところである。

読者の問題について、田島はこんなふうに言っている。
「読者にとっては、自分がわかる枠組みのなかで俳句を読みたいっていうのはあるよね。読み手が『この句はよくないです』って言った場合には、『自分が期待していない言葉がここにある(あるいは、ない)』、っていうことでしょ」

あと、次のような発言も記憶に残った。
「僕は、脆弱な言葉と脆弱でない言葉があると思っていました。時事的な言葉は脆弱で、桜みたいな言葉は強固だと。それが、そうじゃない場合もありうるってことですね」(生駒大祐)
「ある言葉を詠まないっていうあり方は、裏返して言えば、スマホを詠んだら何でも新しい句だと思っているあり方と、そう変わらないんじゃないかって。スタンスは違っても、じゃあそこで書かれるべきものは何なんだ、って問題はどっちにしろ残るよね」(田島健一)

『点鐘雑唱』は「現代川柳・点鐘の会」(墨作二郎)が毎年発行しているアンソロジーで、その年の「点鐘」誌掲載作品と点鐘勉強会作品から抽出している。2015年版は昨年一年間の作品をまとめたもの。その中からいくつか紹介する。

自己主張の導火線が錆ついている      阿部桜子
あなたの夢を一度も見ないカタツムリ    石川重尾
遠慮するなと誕生日がやってくる      一階八斗醁
地球儀のどこもかしこも蛸足配線      笠嶋恵美子
弟がちくわの役を降ろされる        北村幸子
鉄砲を担ぐと積乱雲になる         進藤一車
旅ひとり手稲の雪を見ているか(桑野晶子の死)  墨作二郎
戦争が出来る憲法の裏メニュー       瀧正治
「聞き耳」はこちらと象の後ずさり     平賀胤寿
重なって重なってから枯れる        前田芙巳代
咳すれば山頭火よりパブロン        渡辺隆夫
死ぬ前に鞠子の宿のとろろ汁        渡辺隆夫

「第20回杉野十佐一賞」が発表されている。
詳細は「おかじょうき」のホームページを見ていただくとして、高得点句を何句か紹介する。

毎週金曜 息の発売日           佐久間裕子
息止めて止めて止めて止めて欅       瀧村小奈生
六条御息所的今夜             笹田かなえ
テラってギガってナノらない息なんだ    中西亜
すうはあすうはあなめらかにくさる     宮沢青

印象的だったのは広瀬ちえみの選評である。
「川柳は現在行き交っていることばに左右されていると思った」
「固有名詞を使うときはその言葉自体がすでに抱えている背景を一句のなかで料理しなければならないことを強く意識するべきだと私は思う」
「俳句には季語(時間の積み重ねがある)があるが、それと固有名詞とはちがう。川柳で使われる固有名詞はどちらかといえば作者の生きている現在を呼吸している。しかし一句のなかにピタリと嵌まったときは大きな力を持つのが固有名詞である。川柳におけることばの流通を良くも悪くも考えさせられた」

俳句や川柳における「作者」「読者」「ことば」の問題は、実作と連動するさまざまな局面で深められてゆきつつある。

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