2013年10月25日金曜日

第7回浪速の芭蕉祭

大阪天満宮における「浪速の芭蕉祭」は平成19年に第1回が開催され、今年で第7回目になる。第2回から募吟を始め、第3回の中断をはさんで第4回から毎回募吟を続けている。今年は93巻の連句作品の応募があった。
大阪天満宮にはいろいろな講があるが、連句講の「鷽の会」があり、「浪速の芭蕉祭」を主催している。鷽は天満宮ゆかりの鳥であり、俳句にも「鷽替え」という季語がある。
応募作品の中から2人の選者によって大賞・次席・三席・佳作が選ばれる。合議制ではなくて、選者がそれぞれの判断によって選ぶから、大賞・次席・三席は2編ずつになる。今回は佳作を含めた27編の作品が「入選作品集」に掲載された。
作品集の発行にこだわっているのは、連句の普及のためにはアンソロジーが必要だと考えているからである。募吟によって良い作品が集まればそれがそのままアンソロジーになる。形式自由の募吟だから連句諸形式の手引きとしても利用することができる。今年は百韻・米字などの長い形式の作品が上位に選ばれた。一方、新形式の応募も盛んで、新旧のバランスの中で刺激を与えあう場になりつつある。
10月6日には入選作品の発表と表彰式が大阪天満宮境内の梅香学院で開催され、連句実作も行なわれた。この時期は例年、古本市が開催されていて境内が賑やかなのだが、今年の古本市は一週間後らしく、落ち着いた雰囲気である。
12時半に本殿に参拝。私は「鷽の会」代表として玉串奉奠をするのだが、一年たつとやり方を忘れてしまうので事前に自分でイメージ・トレーニングをしておく。技芸上達を祈願し、巫女の鈴も神さびた雰囲気である。
梅香学院に戻って表彰式にうつる。
臼杵游児選の大賞・百韻「大綿虫」の巻(棚町未悠捌)、次席・スワンスワン「ががんぼよ」(矢崎硯水捌)の巻、三席・お四国「白衣」(おたくさの会)の巻。佛渕健悟選の大賞・米字「朱を走らせる」(和田ひろ子捌)、次席・【Hiphop RENKU】「MAHOROBA」(Hoo),三席・和漢行半歌仙「たてよこに」(赤田玖實子捌)。
ここでは、佛渕健悟選の次席となった【Hiphop RENKU】を紹介しよう。

MAHOROBA Wakiokori by Hoo.
Started on 130503 finished on 130509

目には青葉 山ほととぎす 初鰹       Sodo
どこまでも 駆けて行こうぜこの夏を     Hoo

絵手紙 似顔絵 みんなが笑う
動物園では象さん洗う

ゆらゆらと お精霊さんの舟流し
浦々に 尾を引きながら流れ星

月の庵は草がぼうぼう
方々にある古つっかえ棒

renku renku renku Let's go

心まで CTスキャンじゃ覗けねえ
ちょっと待って 熱燗一杯 ねえお姐

小野小町は見返り美人
妄想のキス胸がジンジン

今日もまた 密かに飛ぶよオスプレイ
国政もゲームも大事さフェアプレイ

いじめ体罰ございませんと
寄付の壜へと出す1セント

renku renku renku Let's go

夜目が利き 晦日に探す杵と臼
嫁が君 ミッキーマウスに物申す

「あしたは来れる?」 答「いいとも!」
持つべきものは やはり良い友

まほろばを 驢馬に揺られて花万朶
甘茶仏 小さく天指すなんまんだ

安達太良山の空は春色
尾張うららか青柳ういろ

renku renku renku Let's go

発句は山口素堂のよく知られた句で、脇起こしであるが、脇句以下はすべて作者Hoo(木村ふう)の独吟である。作者は次のように述べている。
「新聞でヒップホップの歌詞は現代詩という記事(朝日2013年4月6日)を読み、連句でも早速挑戦してみました。ラップ風の韻を踏みやすいように『長長短短 長長短短』の8句をひとまとめとしてそれぞれに季を詠み込み、本巻はそれを三回繰り返しました。最低一花一月。特に定座は決めていません。一番ラップに会いそうな(と思っている)素堂句を発句として脇起りで始めました」
素堂がラップに合うというより、素堂のこの句がラップに合うそうである。
「入選作品集」では選評にもページを割いている。作品を選ぶだけではなくて、その作品のどこがよかったのかを検証することが実作を活性化させることにつながるからである。佛渕健悟は選評で次のように述べている。
「文の最後で韻(ライム)を踏むのがラップの特徴ですが、短詩型の五七五そのものがすでにラップに乗りやすいリズムであることを発見している日本のラッパーたちの実践には、連句の調べに新しい変化を促す契機もあるかも知れません。説教節や阿呆陀羅経的ノンシャランは現代連句のおもくれを砕くのに利きそうです」

もうひとつ、入選はしていないが反歌仙「佳き人」の巻を紹介しておきたい。「半歌仙」ではなく「反歌仙」であって、歌仙に対するアンチなのである。かつて「アンチ・ロマン」が小説の世界で次々と書かれたが、連句の世界にも実験精神が生まれてきたかという感慨をもった。歌仙だから36句あるが、ここではその前半18句だけ紹介しておく。連衆は赤坂恒子・木村ふう・梅村光明。

佳き人と思へば死ぬるまたひとり
菊を掻き分け饅頭配る
首に巻くよくよく見れば秋の蛇
スクランブルの交差点じぇじぇ!
スクランブルエッグが旨ひ洋食屋
青い目の妻大阪生まれ
ウラ
色っぽいまいどおおきにチャイナ服
三日月形のイヤリング揺れ
人気無き夜のプールで泳ぐ月
蝋燭灯して百物語
うらめしや回るお寿司が止まらない
アベノミクスに上がる血圧
年金がだんだん下がる国に居て
オスプレイ飛ぶ基地の初空
餅花に残るは母の指の跡
供物を作り奉る涅槃会     
白骨が砕けて散るは花吹雪
あなめあなめに悩む小町忌

この作品には次のようなコメントが付けられている。
「句数・体裁から見た形式は歌仙。歌仙を巻く時に適用される式目をことごとく破って歌仙を巻いてみた。歌仙の式目に反するので反歌仙。
進行の条件は前句に付いていることと 前句―付句の関係、もしくは三句の渡りに必ず障りがあること。無季の発句から始まって素秋、素春、二五、四三、新旧仮名混在等々狼藉の限りを尽くして歌仙を巻いてみた。苦労して詠み込んだ「障り」を見ていただきたい」
歌仙の表(オモテ)では神祇・釈教・恋・無常は避けることになっているが、発句はそれに逆らって「死」を詠んでいる。短句(七七句)では「四三(しさん)」と言って「4+3」のリズムを嫌うが、脇句はみごとに四三。秋の句の中では月の句がなければならず、秋三句のうち「月」の句がないものを「素秋」というが、これも敢えて素秋に(ウラに入って急に「月」が出てくるのも変である)。「秋の蛇」とは何なんだというところである。四句目と五句目に「スクランブル」という同じ語が使われていて、同字接着。六句目の「目」と三句目(大打越)の「首」が身体用語の差し合い。
このような調子で「反歌仙」が続いてゆく。
ルールを破るためにはルールを知悉していなければばらない。ルール(式目)を知らないで禁をおかすのではなくて、意図的な営為なのだ。そのことによって式目そのものの意味が改めて問い直される。
もちろん「入選作品集」には伝統的・オーソドックスな句もあり、高く評価されている。ここで敢えて実験的新形式を紹介したのは、それが硬直しがちな精神をブラッシュ・アップし連句の活性化につながると考えるからである。というより私自身とても楽しませてもらったのである。

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