2012年10月12日金曜日

浪速の芭蕉祭のこと

時雨忌(芭蕉忌)にちなんで各地で芭蕉祭が開催されている。
もちろん新暦・旧暦の問題があるから、新暦の10月に行う場合と旧暦を新暦に換算して12月に行う場合とがある。たとえば、伊賀上野の「しぐれ忌連句大会」は10月11日開催、 東京義仲寺連句会の「俳諧時雨忌」は12月16日の開催である。
さて、大阪天満宮における「浪速の芭蕉祭」は平成19年10月に第一回が開催され、今年で6回目を迎える。今年は連句・前句付・川柳の募吟を行ったところ、連句の部93巻、前句付の部314句、川柳の部335句の応募があった。選考の結果、連句29巻、前句付23句、川柳28句が入選している。主催者は大阪天満宮に所属する講(こう)のひとつである「鷽(うそ)の会」で、鷽とは鳥のウソである。俳句では「鷽替え」などの季語がある。
10月9日(日)には大阪天満宮・梅香学院で表彰式と連句実作会が催され、31名の参加者があった。また、「第六回浪速の芭蕉祭献詠連句・前句付・川柳入選作品集」が作成され、大阪天満宮に奉納される。

この募吟の特徴は「形式自由」というところにある。ふつう連句作品の募集は歌仙とか半歌仙とか二十韻などという形式を決めておこなわれるのだが、「浪速の芭蕉祭」ではどんな形式であろうと自由である。従って、百韻や歌仙などの伝統的形式の作品もあれば、オン座六句・スワンスワン・テルツァリーマなどの新形式もある。今年は「五十鈴川」「襲」というまったくの新形式も飛び出した。これらの多様な作品を同じ土俵の上に乗せて評価するのだから、選者も大変だが、実験精神に満ちた刺激的なおもしろさがある。

連句の部の大賞作品は、佛渕健悟選のお四国「詩篇」、臼杵游児選のオン座六句「嬶座」である。選者は二名であるが、いっさい相談することなく、それぞれ独自に選ぶ。従って大賞が二つ出ることになる。
まず、「お四国」の方から紹介すると、四国八十八か所の巡礼に見立てて八十八句から成り、阿波表→阿波裏→土佐表→土佐裏→伊予表→伊予裏→讃岐表→讃岐裏と進行する。回る順は変えてもよいらしい。創始者・梅村光明の説明によると「四国八十八カ所巡りに因み、阿波・土佐・伊予・讃岐の国々をそれぞれ表と裏に分け、森羅万象を詠み込んでいく。阿波表から神祇・釈教・無常・述懐を嫌わない。また、各国の表裏それぞれに必ず一句はゆかりの句を入れること」ということだ。長いので半分だけご紹介。独吟である。

阿波表 若書きの詩篇溶け出す花氷      梅村 光明(夏花)
     白シャツ似合ふ夭折の友           (夏)
    この街は路面電車も無くなつて         (雑)
     駄菓子屋なれど傘も商ひ           (雑)
    口癖に名字帯刀自慢する            (雑)
     鳴門金時後を引く味             (秋)
    代替り更地に上る盆の月            (月)
     朝顔の鉢すべて不揃ひ            (秋)
阿波裏 登校の横断歩道児ら守り            (雑)
     噂飛び交ふ新任教師             (恋)
    遠距離も恋の模様と割り切らん         (恋)
     ハートマークをいつもメールに        (恋)
    献血の回数すでに十指越え           (雑)
     人類起源聞けば納得             (雑)
    秘密裡に渡航禁止の国に住み          (雑)
     残る燕と会話楽しむ             (冬)
    冬の月路地裏抜けて銭湯へ           (冬月)
     鏡のビルに映る塔あり            (雑)
    懐メロが食ひ扶持なりとギター弾き       (雑)
     飛行機嫌ふ理由告白             (雑)
    眉山を少し彩る遅桜              (春)
     海苔干し終へて憩ふひととき         (春)
    気が付けば目借る蛙と同様に          (春)

続いて臼杵游児選の大賞の「オン座六句」は浅沼璞の創始によるもので、新形式といってもすでに二十年ほどの歴史がある。この作品も五連まであるのだが、長くなるので三連までご紹介。三連は自由律の連になっていて、そこが読みどころのひとつである。

オン座六句「嬶座」の巻   渡辺祐子 捌

一連 白牡丹くづるる際の余韻かな         祐子
    空を剪り取るはつなつの玻璃        真紀
   少年は紙飛行機を折りあげて         千晴
    輪読の声リビングの横          美奈子
   月見して天動説の光浴び           将義
    蔦のからみに謎の解けざる        八千代

二連 真田石でんと守りし上田城           晴
    嬶座といふは尻の面積            義
   十人の児をなすまでは現役よ          奈
    鷹鳩と化す薄化粧して            代
   雪解けの河に地雷の流れ来る          祐
    当たりくじまたあの売場から         義

三連 聖徳太子は実在しなかっただなんて今更     奈
    右の頬をひっぱたく             晴
   ボケと突っ込みが哀しき性を演じ        同
    やってられへんねん             義
   着膨れているから主観に辿り着けない      同
    凶器にもなる氷柱              祐

前句付の部では前句「酔えば手品のタネ明かす癖」に対して五七五の付句を付ける。下房桃菴選の大賞・次席作品は次の通り。

大賞(大阪天満宮・鷽の会賞)

初めての女の子にはちょっとモテ      島根県邑智郡 源瞳子

次席

金曜の夜は早寝の賢い児          仙台市 阿部堅市
街角でそっと籤買う霊媒師         越前市 白崎ひろ子

松江在住の下房桃菴は島根大学の教授をしていたころに学生の前句付作品集を刊行し、以後、前句付の普及に努めている。号の桃菴(とうあん)は「答案」の洒落であろう。山陰中央新報の「レッツ連歌」欄選者を担当して現在に至る。『レッツ!連歌』は第三集まで刊行されている。
平成9年に松江で「松江おもしろ連句会」が開催されたときに、私も松江を訪れた。今回大賞を受賞した源瞳子はそのとき私の座に入って連句を巻いている。あれからもう15年ほどが経過したことになる。彼女には今度も私の座に入ってもらった。
ほかに前句付の募集としては矢崎藍が高校生を対象に「とよた連句まつり」を続けているほか、「宗祇白河紀行連句作品賞」がある。
当日、下房からもらった「松江ユーモア連歌大賞」の作品集から引いておく。

   (前句)こんなところに城があったか
  姫様に尻尾があればご用心       山口真二郎

川柳の部は兼題「押す」、樋口由紀子選である。

特選    警告が出て押す理容院の椅子    井上一筒

準特選   透明になりたい人が押すボタン   徳長怜子
ぎゅっと押しつけて大阪のかたち  久保田紺

特選作品について、樋口由紀子はウラハイ(「週刊俳句」の裏バージョン)の「金曜日の川柳」(10月12日)で取り上げている。準特選の「ぎゅっと押しつけて大阪のかたち」について、久保田紺は「浪速の芭蕉祭」の授賞式で、発想のもとにあったのは「大阪寿司」であると語った。最初の発想がどうであれ、どのようなイメージで読んでもいいと思う。「大阪のかたち」ってどんなだろうというのがこの句のおもしろさだからだ。

「浪速の芭蕉祭」は連句人を中心とした集まりだが、前句付と川柳も含めて広く付合文芸に関心のある人々の場になればおもしろいと思っている。当日は七五三参りや結婚式もあり、大阪天満宮は人の波であふれていた。古本市も開催されていた。人が集まるということにはそれなりの意味があるのだ。

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