「川柳スパイラル」24号の特集は「句集の時代」である。
かつて石田柊馬は「読みの時代」の次に「句集の時代」「アンソロジーの時代」が来ると言った。予言的な発言で、近年、現代川柳の句集が続々と発行されている。
石田柊馬作品集『LPの森/道化師からの伝言』ではこんなふうに書かれている。
「個人の句集、あるいは集団の合同句集がいま続々と発刊されている。これはただ印刷器機などの簡易化だけが要因ではない。その上に立った消費行動のひとつではあるが、消費活動としてその中に自己を自己として確認できるなにか、なのである。新しく買った衣服を身につけた鏡の中に、自分の存在を見るように。川柳は句集の時代に入ったのかもしれない」
2000年4月に「オール川柳」に発表された文章である。樋口由紀子の『容顔』が1999年4月に発行され、2000年7月にはアンソロジー『現代川柳の精鋭たち』が出ている。書店にまとまったかたちで現代川柳の句集が並ぶようになったのは、2005年のセレクション柳人シリーズの刊行あたりからだろう。「句集は墓碑銘」と言われた時代に比べると、川柳句集の発行はずいぶんハードルが低くなった。
さて、「川柳スパイラル」の特集では、兵頭全郎『白騎士』について雨月茄子春が、川合大祐『ザ・ブック・オブ・ザ・リバー』について柳本々々が、『川柳EXPO2025』については編者・まつりぺきん、『LPの森/道化師からの伝言』について小池正博がそれぞれ書いている。
兵頭全郎の第二句集『白騎士』は今年1月に発行された。評者の雨月茄子春はこんなふうに書いている。
「季語や七七を持たないうえに前句を失ってしまった川柳は、必然的にその読みの手がかりを読み手の想像によって補わせる。結果として、僕たちは川柳を真相からかけ離れたところで恣意的に推理し、推理それ自体をゲーム化して楽しんでいる。意味ありげで、文脈を読み取れそうなふてぶてしい態度をしている全郎の句は、読みのゲーム愛好家たちにとって絶好の推理披露会場だろう。しかし、そこ広げられる推理は全くの見当違いだ。なぜならそこには意味も文脈も存在しないからである。そこには徹底してロジックがない。犯人が示されたあとも推理は続く。全郎は空転する読みのゲームを、『意味や文脈を持たない前句の復元』という形でさらに混沌化させ、現代川柳にテロルを引き起こした」(「兵頭全郎のテロル))
川合大祐の第三句集『ザ・ブック・オブ・ザ・リバー』の刊行は今年5月。句集を編むのに協力した柳本々々は「ぼくがかわいさんから教えてもらっているのは、定型っていうのは生きることにいつも巻き込まれている。でもその巻き込まれ方もふくめてあなたにてがみとしてとどく。それが定型詩であり川柳なんだよ、と」(「しんだりいきたり」)と述べている。
『川柳EXPO2025』上下2冊は4月発行。まつりぺきんは「三年目の『川柳EXPO』」で「裾野の広がり」「他ジャンルへの影響」「様々な川柳の交流」の三項目をあげて、「少なくとも「川柳の連作を投稿する」行為へのハードルが下がり、裾野が広がってきていることは感じられます」「技術の進歩により、「どのように」表現するかというツールはどんどん充実してきています。誰でも表現者になれる時代です。その中で「何を」表現するのか、だと思います」「川柳観、川柳歴、年齢層、作品の発表方法といった垣根が取り払われつつある印象を、個人的には受けています」などと述べている。
『LPの森/道化師からの伝言』(石田柊馬作品集)については編者の小池正博が紹介している。前半が川柳句集、後半は川柳評論。柊馬の川柳評論は多くの人に読んでほしいが、ここでは句集から4句挙げておく。
高齢者と呼ばれナスカの地上絵よ 石田柊馬
少年もコンビニも美しい突起
キャラクターだから支流も本流も
その森にLP廻っておりますか
同人のエッセイでは「作らないことをやめる、まで」(小沢史)、「句集」(宮井いずみ)、「ハイブリッド系のひとりごと」(石川聡)がそれぞれ川柳との向き合い方がうかがえて興味深い。
ゲスト作品は俳人の相田えぬと若手川柳人のnes。相田は現俳協の会員で、連句にも関心をもち5月の「関西連句を楽しむ会」にもゲストとして参加した。nes はネットで川柳句会アイリスを主宰しているが、リアルの句会でもときどき顔をあわせることがある。
冷房をつけて世界は横たわる 相田えぬ
VRChatの毛蟹 病んでいるの? nes
あと同人作品からも紹介しておこう。
展翅する揚羽紋白十二指腸 小沢史
隕石落ちる恐竜絶えるごめん 猫田千恵子
コカ・コーラ旅団壊れ明るい部屋 川合大祐
吐き出せぬ語から夜毎に冬虫夏草 石川聡
いつも絵を捨てる知らない駐車場 西脇祥貴
表紙には雪に寝転ぶ棄民の子 まつりぺきん
徴兵を終えオナニーの手が余る 湊圭伍
ヤバイっすそうすちわっすコイントス 宮井いずみ
倦怠期知性改善しませんか 小池正博
中指の一人歩きの午前二時 浪越靖政
「きっと」も「しっぽ」も「もっと」もひとりぼっち 畑美樹
現身と影が重なるその瞬間 悠とし子
葉桜が濃いというならるすにする 兵頭全郎
夏近しあなたの荒れを見て過ごす 清水かおり
落雷にシュガー滅びゆくまで 林やは
9月14日に文学フリマ大阪が開催され、「川柳スパイラル」もブースをだして、川柳と連句の本と冊子を販売する。翌日の9月15日は「川柳スパイラル」大阪句会。お目にかかれれば嬉しい。
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