2023年5月13日土曜日

二つの詩型・現代詩と川柳

「現代詩手帖」5月号に第61回現代詩手帖賞の受賞作品が掲載されている。受賞者は芦川和樹(あしかわ・かずき)と水城鉄茶(みずき・てつさ)。
水城は1992年生まれ。2013年ごろから詩を書きはじめている。今回の受賞作「同じうたをうたう」から一部分を紹介する。

おまえは七五調で詩を書き始めた
かわいくて無残なスープ
階段から零れてくるビー玉の七色
大学ノートの罫線を守らなかった
ぼくはわたしたちになって尊い何かに引きずられ始める

定型とそこからはみ出す部分について触れているのだろうか。「おまえ」「ぼく」「わたしたち」の人称代名詞の使用にも微妙なニュアンスがある。詩の一部分だけ抜き出すのがよいかどうか分からないが、全体像は「現代詩手帖」をお読みいただきたい。
水城鉄茶は川柳も書いていて、「川柳スパイラル」に投句をはじめたのは12号(2021年7月)からだった。

みずうみがみずうみをひんやりとさく (12号)
まばらなる拍手のなかの禁錮刑    (13号)
猫耳に血が 暗転 金属の音     (14号)
キムタクの内部で月を焼いている   (15号)
サ終する時も別所にいてほしい    (16号)
シーマンのままで面接してしまう   (17号)

毎号いろいろな書き方を試みている。抒情的な句もあり、人間の暴力性への風刺、固有名詞やパソコンやゲームなどの現代的用語を用いるなど、多彩な書き方だ。水城は定型と現代詩という二つの形式をもつ表現者である。

3月18日に京都で開催された第2回らくだ忌川柳大会の発表誌が発行された。森茂俊の巻頭言「伝統川柳と現代川柳の融合」が好文章である。森は「伝統川柳」と「現代川柳」は対立せず、同居できるものと確信すると述べ、今回の「らくだ忌」の大会は「現代川柳はもちろん伝統川柳の良さも知る選者にも来ていただきたかった。そしてそれは実現した」と書いている。主催者側の大会開催意図がよくわかる文章である。
各題・天位の句から紹介しておく。

巨大蟹襲来近し野点かな     いなだ豆乃助(湊圭伍選)
くちびるはスワンボートの二周半 宮井いずみ(暮田真名選)
スナックの隅で宿題してました  高橋レニ(真島久美子選)
無い袖のあたりはきっと晴れている 大嶋都嗣子(八上桐子選)
虫下し飲んだらぶらりしませんか 榊陽子(新家完司選)
大阪城二つくらいの電気椅子   大嶋都嗣子(くんじろう選)

グローブジャングルジムは月の裏 真島凉

この句について、きゅういちのは次のように鑑賞している。
〈「グローブジャングルジム」から「月の裏」を兼題「二周半」で取るのは選者にはかなり勇気のいる作業ではなかったか?掲句にはどこかノスタルジーが漂う物語を思う〉
グローブジャングルジムは地球儀型の回転式ジャングルジム。「二周半」という題から回転・ジャングルジム・地球・月と連想を飛ばして一句をまとめている。非凡な発想だ。

葉ね文庫で手に入れたパスカの自由律俳句集『集金が来ない』から。パスカとはパステルカーテンということだろうか。良質の自由律作品だと思う。 

わざわざ選んだ日の風が強い  パスカ
暗い人の中では明るい方だと思っている
乗ってきた観光バスはどれだ
道は合っているが不安
知らない武将の弟の話をされている
前の人がレジで揉め出した
声だけが枯れている花屋
パンダの黒目が難しい

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