2022年4月30日土曜日

川柳誌あれこれ

暮田真名句集『ふりょの星』(左右社)、4月28日発売になり、大阪では梅田蔦屋書店でサイン本が平積みされている。フェア「はじめての詩歌」もはじまっていて、川柳人からは暮田のほか、なかはられいこも参加している。『ふりょの星』については反響を見てから、改めて触れる機会があると思う。
今回は川柳誌を中心に管見に入った冊子を取りあげることにする。
「湖」は浅利猪一郎の編集発行で秋田県仙北市から出ているが、4月発行の14号には第14回「ふるさと川柳」(誌上句会)の結果が掲載されている。課題は「無」。全国から533名、1310句の投句があった。12人の選者により、入選1点、佳作2点、秀句3点を配点し、合計点で順位を決定する。上位5句を挙げておく。

9点 無になれば跳び越せそうな鉤括弧  梶田隆男
8点 どうしても無職と書かすアンケート 二藤閑歩
7点 埴輪から一度聴きたい無駄話    加納起代子
7点   不愛想な大工多弁な鉋屑      植田のりとし
7点  僕は無名何を焦っていたのだろ   石澤はる子

どの選者がどの句を選んでいるかが興味のあるところで、佳作・秀句で点数をかせぐ句もあれば、まんべんなく入選をとって高得点になる場合もある。ここでは丸山進選と小池正博選の秀句を見ておこう。

秀句(丸山進選)
友がきも兎小鮒も居ぬ故郷   近藤圭介
無愛想な大工多弁な鉋屑    植田のりとし
埴輪から一度聴きたい無駄話  加納起代子

秀句(小池正博選)
埴輪から一度聴きたい無駄話  加納起代子
点景になって舞台の袖に立つ  越智学哲
無作為の美だろう釉薬の流れ  藤子あられ

選者によって取る句が重なったり違ったりするのが共選のおもしろさである。句会は「題」という共通の土俵のなかで競い合うもので、否定論者もいるが川柳の特質のひとつだ。

2005年、丸山進を講師に迎えて発足した「おもしろ川柳会」が17年・200回を数え、記念誌『おもしろ川柳200回記念合同句集』が発行された。「200回分のドラマ」で青砥和子はこんなふうに書いている。「川柳は、人間の喜怒哀楽や森羅万象を自由に詠めるのですから、恐れず、自分の思いを五七五の十七音にしたためてみることです。ただここで気を付けることがあります。それは、人目を気にして、句が美談やスローガンになってしまうこと」

黙食はずっとしている倦怠期    浅見和彦
落ちていた一円硬貨あざだらけ   佐藤克己
焼き鳥の煙魔界に入ります     中川喜代子
なぜ戦うこんなきれいな星なのに  金原朱美子
今ならば竜馬は月へ行ったはず   真理猫子
グーを出す引き下がらないように出す 青砥和子
性格はアルカリ性の友ばかり    丸山進

巻末に丸山進の「思い出の川柳」という文章が収録されている。
「1996・8月 仕事は現役のシステム屋で、全国あちこちの顧客へ出張が多かった。新幹線の中、週刊誌(文春)をよく読んだ。川柳コーナーがあり、初めて入選したのが時実新子選の『いい人は悲劇の種を抱いている』だった。これで病みつきとなり、投稿を続け何度か入選した」
定年退職後、公民館や体育館で夜勤の業務を行うようになり、公民館の職員から川柳講座を依頼される。2005年5月、川柳講座「おもしろ川柳」のスタート。
川柳への入り口と川柳人のひとつの軌跡を示しているので、丸山進の場合を紹介してみた。

もう一誌、丸山進が関わっているのがフェニックス川柳会(瀬戸)。この4月で10年の節目を迎えるという。「川柳フェニックス」17号から。

コロナがハブでワクチンがマングース  北原おさ虫
輪廻待つ列にうっかり並んだの     長岡みゆき
透明になってやりたいことはない    稲垣康江
うっかりと三角なのに丸くなり     三好光明
梨・葡萄元のサイズに戻りたい     安藤なみ
獣だけ欲しがる土地は持っている    高橋ひろこ
月光を飲んで治した夢遊病       丸山進

数年前の句集だが、最近読む機会があった青田煙眉(青田川柳)の『牛のマンドリン』(2018年、あざみエージェント)から。

蟻一匹 美しい本だった 上った  青田川柳
蝶蝶の春 空気の布団が濡れる
馬が算盤をはじいて戦後の荷を下す
コーヒーの中で少女の時計が射たれた
一つの寝袋に黙って森が入ってます
牛のマンドリンを聞く騎兵―秋の胃
橋がかり少年螢になったまま
目が咲いた一生かけて咲きました

山村祐は「牛のマンドリン」の句をシュールレアリスムの現代川柳として評価した。
川柳新書「青田煙眉集」(1958年11月)で彼は「新しい実験を試みること、川柳を通して現代の危機を描くこと、この二つは私自身にとっても創作上大切なことなのです」と書いている。
根岸川柳は「連唱」という形式を発案し、青田はそれを普及させようとした。連唱は連句とは異なり、約束ごとにとらわれず、発句から挙句までほのかな連鎖をもって自由に展開したものだという。句数は決まっていないようである。次に挙げるのは青田煙眉作品で、「川柳新書」掲載の連唱「時計の裏」、19句のうち最初の6句である。

洗面器濡れない雲を摑まえる
 鼻の奥から古いフイルム
生生流転、犬好きの犬だった
 胎児を嗅げば金網がある
東条の掛算に両手でイコール
 棒の孤独は―影が冬です

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