ゼロ年代後半の出来事としては「セレクション柳人」(邑書林)の刊行が挙げられる。従来の川柳句集は自費出版や結社内で配付されることが多く、全20冊規模のシリーズとして書店の店頭に並ぶことはなかった。「セレクション歌人」「セレクション俳人」と並んで「セレクション柳人」が刊行されたことに意味があり、ISBNも付いていて一般読者への流通が可能となった。句集の出版が最終目的ではなく、そのあとどのように読者に届けるかということが意識されるようになったのは画期的であった。
2005年に入って訃報が続いた。2月27日、石森騎久夫没(90歳)。4月24日、橘高薫風没(79歳)、5月7日 高橋古啓没。
石森騎久夫は名古屋の川柳グループ「創」の代表。『空間表現の世界』(1999年、葉文館出版)の「あとがき」には次のように書かれている。「かねがね私は、川柳が名実共に短詩型文学の一翼を担える高さに行き着くためには、豊かな『文学性志向』を強く押し進めなければと思いつづけています。従って作品の読み方も、その視点に立って、作者の思い、感動の空間的表現の完成度を重視しています」
橘高薫風については、この時評(20011年4月15日)で論じているのでご覧いただきたい。
高橋古啓は「点鐘の会」で親しく接した人で、彼女は代表作を問われたときに「私がこれから書く作品が代表作だ」と言って句集を残さなかった。「グループ明暗」25号(2005年9月)掲載の「高橋古啓作品抄」から。
逢いたさは薬師如来の副作用 高橋古啓
かくも長き痙攣闘魚の終幕
みねうちで倒せるならば抜きなさい
5月に『渡辺隆夫集』『樋口由起子集』が刊行されて「セレクション柳人」がスタートした。以下、6月に『石田柊馬集』、7月に『小池正博集』、10月に『前田一石集』『櫟田礼文集』、11月に『野沢省悟集』、12月に『広瀬ちえみ集』『田中博造集』『畑美樹集』『細川不凍集』と続く。
9月15日、丸山進句集『アルバトロス』(風媒社)。
中年のお知らせですと葉書くる 丸山進
父帰る多肉植物ぶら下げて
生きてればティッシュを呉れる人がいる
9月21日、石曾根民郎没(95歳)。松本市在住で印刷業を営み、川柳「しなの」の発行のほか各種の川柳書の印刷によって川柳界を支えた。句集『山彦』(1970年、しなの川柳社)から。
山近しわが身のうへを守るごと 石曾根民郎
蝶はわが影のいとしさから狂ひ
一枚の構図鴉を動かせず
9月23日、「川柳学」創刊号。堺利彦「中村冨二と『鴉』の時代」など。
2006年3月11日、アウィーナ大阪にて「セレクション柳人」発刊記念川柳大会が開催された。第一部『セレクション柳人』句集の読み。コメンテイターは『渡辺隆夫集』『畑美樹集』を小池正博、『樋口由起子集』を吉澤久良、『石田柊馬集』を飯田良祐、『小池正博集』『広瀬ちえみ集』を野口裕、『前田一石集』を石田柊馬、『櫟田礼文集』を樋口由紀子、『野沢省悟集』を広瀬ちえみ、『田中博造集』を堺利彦、『赤松ますみ集』を畑美樹、『筒井祥文集』を渡辺隆夫、『細川不凍集』を石部明、というようにそれまで発行された13句集の一気読みを試みている。第二部の句会の選者は浪越靖政、古俣麻子、なかはられいこ、墨作二郎、石部明。
10月10日、田口麦彦編著『現代女流川柳鑑賞事典』(三省堂)。田口は『現代川柳必携』(2001年9月)、『現代川柳鑑賞事典』(2004年1月)、『新現代川柳必携』(2014年9月)を三省堂から出している。
2007年4月1日、青森の野沢省悟が「触光」を創刊。終刊した「双眸」を発展させたもの。
3月30日、川柳発祥250年記念出版として、尾藤三柳監修、尾藤一泉編『川柳総合大事典第三巻・用語編』が雄山閣から出版される。続いて8月31日に尾藤三柳監修、尾藤一泉・堺利彦編『第一巻・人物編』が刊行されたが、それ以後他の巻は出ていない。
10月、現代川柳「隗」(山崎蒼平)が41号で終刊。
11月25日、佐藤みさ子句集『呼びにゆく』(あざみエージェント)。
さびしくはないか味方に囲まれて 佐藤みさ子
たすけてくださいと自分を呼びにゆく
正確に立つと私は曲がっている
2008年4月12日、石部明はバックストロークの大会とは別に、第一回BSおかやま川柳大会を開催(BSはバックストローク)。石部明のスピーチは「あなたの意見で川柳は変わる」。以後2011年4月の第4回まで続く。
10月12日、『番傘川柳百年史』(番傘川柳本社)。
2009年1月、川柳結社「ふらすこてん」創立。前年12月の解散した「川柳倶楽部パーセント」を発展的継承したもの。
4月30日、小池正博・樋口由紀子編著『セレクション柳論』(邑書林)。「セレクション歌論」「セレクション俳論」が出ないのに柳論が刊行されたのは、短歌・俳句に比べて川柳では評論が少ないので、収録するにあたっての取捨選択が容易だったからかもしれない。
9月5日、佐藤美文著『川柳は語る激動の戦後』(新葉館)。
11月10日、田口麦彦著『フォト川柳への誘い』(飯塚書店)。
11月25日 小池正博「川柳・雑俳と俳句」(『俳句教養講座第三巻・俳句の広がり』角川学芸出版所収)。
2010年7月20日、大岡信・田口麦彦編『ハンセン病文学全集9俳句・川柳』。
10月、「詩のボクシング」で川柳人のくんじろうが全国チャンピオンに。
2011年2月10日、渡辺隆夫句集『魚命魚辞』(邑書林)。3月10日、小池正博句集『水牛の余波』(邑書林)。二句集の発行を受けて、7月17日に『魚命魚辞』『水牛の余波』批評会がアウィーナ大阪で開催された。
3月14日、新家完司著『川柳の理論と実践』(新葉館)。
4月11日、樋口由紀子著『川柳×薔薇』(ふらんす堂)。
6月10日 田口麦彦著『アート川柳への誘い』(飯塚書店)。
9月17日、「バックストロークin名古屋」開催。テーマは「川柳が文芸になるとき」。司会・小池正博。パネラー・荻原裕幸、樋口由紀子・畑美樹・湊圭史(現・湊圭伍)。
11月25日、「バックストローク」36号で終刊。
すでにテン年代の2011年に入っているが、ゼロ年代の現代川柳の流れは「バックストローク」の終刊をもって一区切りとすると理解してのことである。こうして見てみると、川柳の世界で何も起こらなかったわけではなく、さまざまな動きがあったことがわかる。ただそれが一般の読者に十分伝わらなかったのは事実である。川柳の発信力が高まり、川柳書の出版を引き受ける出版社も徐々に増えてきている。これらのゼロ年代の試みを受けて、次のテン年代の現代川柳の冒険がはじまってゆくことになる。
追記 BSおかやま川柳大会は「バックストローク」の終刊後、2012年4月14日に「FielB BSおかやま句会」の主催で第五回が開催された。
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