2021年7月23日金曜日

チュールスカートで海賊船に

「川柳スパイラル」12号が発行された。特集は「『女性川柳』とはもう言わない」。
招待作品として瀬戸夏子の短歌十首「二〇〇二年のポジショントーク」が掲載されている。 川柳では同人・会員のほかに8人の女性の表現者の作品が招待されているが、歌人では川野芽生、乾遥香、牛尾今日子の3人が現代川柳を書いているのが注目される。「歌人で川柳を書いてくれそうな人はいないだろうか」と暮田真名に相談したところ、川野と乾の川柳を読んでみたいということだったので、寄稿の依頼をしてみると快諾をえることができた。牛尾とは『はじめまして現代川柳』の出版後、メッセージのやりとりがあって川柳も書ける人だと思っていた。

チュールスカートのままで海賊船に乗る 川野芽生
誘おうかなわたしの国に誘おうかな   乾遥香
かしこくて感動的というわけだ    牛尾今日子

川野の句はファッションがテーマ。乾の口ごもるような表現は、川柳では断言が多いだけに新鮮だ。牛尾の句は完全な川柳文体になっていて、「かしこい」「感動的」が反語的な意味をもっているのは「~わけだ」という止めによって明確に伝わる。イロニーの表現である。ここでは川野の作品についてもう少し触れておきたい。
歌集『Lilith』によって第65回現代歌人協会賞を受賞した川野がどんな川柳を書くのか、興味深々だった。そもそも短歌では文語・旧かなを使用する彼女が川柳でどんな文体・表記を用いるのか。川野は口語・旧かなを選択している。
ファッションは苦手なのでネットで検索してみると、チュールスカートの画像がいろいろ出てくる。なるほどこの服装で海賊船に乗ることはないだろう。異なった時間・空間にあるものを言葉の世界で結びつけることによって、ズレや意表をついた驚きが生まれる。現代川柳ではときどき使われる手法だが、川野の句はそのような意外性をねらっているのではないだろう。「生きているだけで白いブラウスが汚れる」という別の句と比べてみると、「白いブラウス」の方は意味が分かりやすく、メッセージ性があるが、「現実なんて大嫌い」という発想は誰でも思いつくものでもある。「チュールスカート」の方がファッションとしても華麗だし、きっぱりとした意志の表明には爽快感がある。「海賊船」はペルシャ湾あたりにいる現実の海賊ではなくて、ネバーランドやファンタジーに出てくる海賊のイメージだろう。作者もこの句を10句のタイトルに選んでいる。
あと、特集評論は「女性による短歌が周縁化されてきた歴史に抗して」(髙良真実)、「俳句史を少しずつ書き換えながら、詠む」(松本てふこ)、「『女性川柳』とはもう言わない」(小池正博)の三本。
髙良は現代短歌のはじまりを1945年ととらえ、女性歌人に対する不当な評価を跡づけたあと、いま注目されている女性歌人として大森静佳と川野芽生を挙げている。髙良の論の根拠となる出典も丁寧に記されていて、アカデミックな文章も書ける人だ。
松本てふこは「俳壇」2021年5月号に、杉田久女に関する論考「笑われつつ考え続けた女たち〜杉田久女とシスターフッド〜」を発表している。久女については外山一機もネットの「俳句ノート」(2021年5月23日)で「杉田久女は語ることができるか」を書いている。松本は「俳壇」発表の文章の続きとして宇多喜代子の仕事なども紹介しながら、女性の俳人たちに光をあて、これからの書き手として『光聴』の岡田一実や箱森裕美、大西菜生を挙げている。
この号が川柳におけるジェンダー論のスタートとなることができるだろうか。

「文学界」8月号の特集は「ファッションと文学」。歌人では山階基と川野芽生が文章を寄稿している。川野の「この言葉をあなたが読まないとしても」には田丸まひる、野口あや子、石原ユキオの作品のほか平岡直子の短歌が引用されている。

床じゅうに服が積み重なっていて踏むと重油が出てくるのよね  平岡直子
でも蝶はわたしたちのことが怖いって 小さな星の化粧惑星

この文章の最後で川野は次のように書いている。
「ファッションは言語なのだが、人は案外言語をちゃんと読まない。これは自分のために着ているのだという宣言が、読まれるとは限らない。けれど、誰に読まれなくても、わたしはファッションという言語で詩を綴り、思想を記すだろう」

「短歌研究」8月号は水原紫苑・責任編集の特集「女性が作る短歌研究」。
出たばかりでまだ読み切れていないが、川野芽生が「夢という刃」で幻想文学とフェミニズムが矛盾しないことを述べているのは川野の読者にとって腑に落ちるところかもしれない。瀬戸夏子は「名誉男性」について屈折した自覚を、平岡直子は「『恋の歌』という装置」を書いている。
平岡といえば、ネットプリント「ウマとヒマワリ」13で短編小説を書いていて、ここでもファッションの話から始まっている。
〈わたしたちの服やお化粧には「男ウケ/女ウケ」という分類があって、前者はなにかが足りなく、後者はなにかが過剰なのかが特徴だ。「ちょうどいい」はない〉
テーマは「馬」?

現代川柳が短詩型文学の現在のテーマと少しでも重なっていればいいなと思っている。夏の夜の夢。

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