2020年1月17日金曜日

2020年代がはじまった

2020年がはじまった。
いささか時機を失した感があるが、「歳旦三つ物」の拙吟を。

俳諧の裾野広がれ初山河
鼠算式ふえる年玉
密使来て石の上にも三年と

鼠の川柳を探してみたが、これというものが見つからないので、柴田宵曲の『俳諧博物誌』(岩波文庫)から鼠の俳句をご紹介。

西寺のさくら告げ来よ老鼠  暁台
春風や鼠のなめる角田川   一茶
鼠にもやがてなじまん冬籠  其角
しぐるるや鼠のわたる琴の上 蕪村
皿を踏む鼠の音のさむさかな 蕪村

ルナールの『博物誌』に対して柴田宵曲は動植物の俳句を渉猟している。
「鼠」以外では「兎」の章がおもしろかった。

猿どのゝ夜寒訪ひゆく兎かな   蕪村

其角の「句兄弟」にも触れている。

つくづくと画図の兎や冬の月   仙化
つくづくと壁の兎や冬籠     其角

前者は冬の月の面に兎のかたちを認めたもの、後者は壁にかけた兎の絵とも読めるが、自分の影法師が壁にうつっているのが兎の形に見えると読んだ方がおもしろいという。

連句と川柳について、昨年から今年に向けての展望を改めて述べておきたい。
連句(俳諧)については総合誌的なものが存在しない現状なので、日本連句協会が発行している「連句」(隔月刊)のほか、各地で開催される大会の作品集を集めるしかない。私の手元にあるのは次のようなものである。昨年の大会開催日をあわせてご紹介。

『2019えひめ俵口全国連句大会入選作品集』(2019年4月開催)
『第二回あつたの杜連句まつり』(2019年5月開催)
『第十三回宮城県連句大会作品集』(20019年6月開催)
『第43回国民文化祭・にいがた2019、連句の祭典入選作品集』(2019年11月開催)
鹿児島県連句協会では設立三周年を記念して形式自由の募吟を行い、『全国連句大会応募作品集』(2019年12月開催)を発行。

日本連句協会では年鑑を発行しているほか、「連句」の広報・拡散のためにYouTubeを作成している。初回が小島ケイタニーラブ、第二回が文月悠光。第三回は女性講談師の日向ひまわり。現在ここまで公開されているが、第四回のSHINGО☆西成。第五回のミュシュランガイド掲載の料理人、今村正輝出演の分も近日公開されると思う。「#ミーツ連句」で検索していただくと、どなたでもご覧いただける。

連句でも「発信」「拡散」という発想がようやく出てきた感があるが、川柳でも森山文切のように「川柳の営業をやる」と公言する川柳人が出てきた。

昨年末に届いた「川柳杜人」264号(2019年冬)に「終刊のあいさつ」が掲載された。発行人の都築裕孝による文章で、昭和22年10月創刊で72年になること、同人は創刊以来いつも10人前後の少数で活動してきたこと、同人の高齢化により「杜人」の発行・維持が困難になってきたことなどが書かれている。ただし今すぐ終刊になるのではなく、2020年冬発行の268号が最終号になるという。「杜人」についてはこの時評でも何度か取り上げてきたし、私自身この川柳誌から多くのことを学んできた。最近では若手川柳人の原稿を掲載するなど、誌面の活性化がはかられていたのに残念だ。あと4号、大切に読みたい。
同人作品から。

琴線にいたずらするの御法度よ   広瀬ちえみ
さよならが言えない鳥を飼っている 大和田八千代
犯人はワタシだったの紅葉狩    佐藤みさ子
お久し振りねだけど今年の雪虫ね  浮千草

2020年代に入り、終わってゆくものと新しく生まれてゆくものがある。
時間の流れとはそういうものだろう。
21世紀に入ってからすでに20年が経過した。この20年の間に川柳ではどのようなことがあったのか。振り返ってみる作業が必要だし、そこから新たに出発することも必要だろう。
昨年末に発行された『石部明の川柳と挑発』(新葉館ブックス、堺利彦監修)を読むと、この20年の川柳活動が歴史になりつつあることを感じる。
墨作二郎・石部明・渡辺隆夫・海地大破・筒井祥文はすでにいない。
「川柳スパイラル」誌も創刊から足かけ三年目に入る。1月19日(日)に開催される「文フリ京都」に出店するが、かつて「バックストローク」に掲載した「新・現代川柳の切り口」を冊子にまとめたものを販売する。「川柳における身体性」「ゼロ年代の川柳表現」「『私性』と『批評性』」「『柳多留』にかえれとは誰も言わない」「川柳における感情表現」「川柳とイロニー」の六章を収録し、タイトルを『ゼロ年代の川柳表現』とした。お立ちよりの機会があれば、手に取ってご覧いただければ幸いである。

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