2016年1月15日金曜日

なかはられいこが発信してきたこと

最初に宣伝させていただくが、昨年5月に開催した「現代川柳ヒストリア+川柳フリマ」を今年も5月22日に大阪・上本町の「たかつガーデン」で開催することになった。
前回は「川柳誌でたどる現代川柳の歩み」という展示を行ったが、今回は川柳句集の展示をする予定である(解説・石田柊馬)。また、ゲストに歌人の山田消児を招いて対談をおこなう。前回より広い会場を確保しているので、フリマにもたくさんの出店スペースがとれると思う。詳細は改めて専用ホームページ(いまはまだ昨年のままだが、時期が近づけば更新の予定)などでご案内するので、川柳人だけでなく、短詩型文学に関心のある方々のご参加をお願いしたい。

川柳のフリマといえば、2003年12月に「WE ARE!」の大会が東京で開催されたときにフリマがあって、歌集を何冊か買い込んだ記憶がある。そのとき私はフリマの必要性をまだよく理解できていなかった。遅まきながら、いま「川柳フリマ」をやろうというのである。
なかはられいこには川柳文芸が衰退してゆくことに対する危機意識があった。朗読もその打開策のひとつだった。最近になって、2003年当時の彼女の様子を伝える文章を目にする機会が重なったので紹介しておく。

俳人の松本てふこは「わからないけど好き」(「川柳カード」9号)でこんなふうに書いている。
〈川柳を初めて意識したのはいつだっただろうか。大学生の頃にポエトリーリーディングをやる友人に連れられて様々な朗読のイベントに行ったのだが、そういったイベントのひとつでなかはられいこ氏の朗読を聞いた記憶がある。なにぶん十年以上前のことで、少年のように凛々しく華奢ななかはら氏が歌うようにからだを揺らして朗読していたこと、その声を聞きながら「川柳って上五、中七、下五に何とも言えない断絶があるんだなー」と思ったこと、それくらいしか記憶がない〉

飯島章友も「杜人」248号で次のように語っている。
〈2003年当時、東さんがマラリーに出演するってんで、何人かのぷらむ会員で観にいったわけよ。そのとき、出演者のほとんどが歌人というなか、なかはられいこさんと倉富洋子さんが川柳ユニット「WE ARE!」として出演していて、川柳を朗読してたんだ。正直いうと、オレもそれまではご多分に漏れず、「川柳なんて定型を利用したダジャレだろ?」くらいに思っていたんだなぁ。ところが、二人の川柳は違っていた。「これは十七音の短歌だ」と直感したね。落差が大きかったぶん驚きもハンパなくて、それでまあ、作句するかしないかはともかく、川柳って文芸を知りたくなったわけだ〉

飯島が述べているのは「マラソン・リーディング2003」のことで、当時彼は東直子主宰の「ぷらむ短歌会」で短歌に触れていたようだ。
また、瀬戸夏子の話によると、「早稲田短歌会」の部室には誰が持ってきたのか『脱衣場のアリス』が置いてあったそうだ。『脱衣場のアリス』には荻原裕幸や穂村弘も関わっているから、その関係で歌人にも興味を持たれたのかもしれない。それを部員が回し読みする機会があったのだ。
当時、なかはらは現代川柳の最先端にいて、私はその活躍ぶりを遠くから眺めているばかりだったが、なかはらが蒔いた種が時を経たいま、現代川柳のひとつの支柱になっていることに感慨を覚える。

昨年12月に発行された「川柳ねじまき」2号から、なかはられいこ作品を引用しておこう。

いとこでも甘納豆でもなく桜      なかはられいこ
ともだちがつぎつぎ緑になる焦る
気のせいか夕陽のせいか語尾がへん
湿布貼ったとこからすっと船が出る
HOMEに戻る狩野派の雲連れて

会員の作品と作品評のほかに、「ねじまき句会を実況する」で「読み」を中心とする句会の様子を伝えている。また今号には半歌仙が掲載されているが、捌きの瀧村小奈生は連句人としても活躍している。今年は国民文化祭が愛知県で開催され、10月30日に連句の祭典が熱田神宮で行なわれることになっている。今年の名古屋は川柳も連句も熱いのだ。
巻末で、なかはらはこんなふうに書いている。
「川柳にかかわってそろそろ三十年になる。初心のころは書いても書いても書きたいことは尽きないように思えた。でも尽きるのだ。だから、それ以後は、川柳というツールを使って何を言いたいのか、何かを言うためのツールが俳句や短歌や詩ではなく、川柳であるのはなぜか、を考えることになった。それをいまだに考え続けている。答えは、もう少しだけ手を伸ばせば届くところにあるような気がすることもあるし、逃げ水のように追っても追っても届かないような気がすることもあって、飽きない」
「誌上であれネットであれ句集であれ、作品を発表すれば一句一句は旅をする。そして数年後、何十年後のかなたから未見の読者を連れてきてくれることがあるのだ」

何事も直線的には進んでいかないものである。なかはらがやろうとしていたことは、10年後の今日になって目に見えるかたちで結実しつつある。たとえそれが限られた範囲であるとしても、続けてゆくことは大切である。

さて、『15歳の短歌・俳句・川柳』(ゆまに書房)が近いうちに発売される予定。第1巻「愛と恋」(黒瀬珂瀾編)、第2巻「生と夢」(佐藤文香編)、第3巻「なやみと力」(なかはられいこ編)、全3巻のアンソロジーである。詳細は、ゆまに書房のホームページで見ることができる。刊行が楽しみである。

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