2015年5月24日日曜日

現代川柳の縦軸と横軸

5月17日(日)に大阪・上本町の「たかつガーデン」で「現代川柳ヒストリア+川柳フリマ」が開催された。川柳のフリーマーケットとしては、かつて「WE ARE」が東京で開催して以来のことである。参加者74名、うち歌人が13名、俳人が7名。そのほかに受付を通っていない方が若干おられるかも知れない。
当日の挨拶文に私は次のように書いた。

「近年、現代川柳の句集の出版が盛んになってきました。
インターネットなどで注文することができますが、句集の作者と読者が直接交流できる場はそれほど多くありません。
一方で「文学フリマ」が開催され、短歌や俳句、現代詩やアニメなどの出版物を求めて読者が集まる状況が生まれています。またSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)による配信も盛んに行なわれています。
川柳にも時代に即応したコンテンツと配信のあり方が求められています。
本会が句会・大会とは別のかたちで川柳や短詩型文学に関心をもつ人々の交流の場となれば幸いです」

句会・大会とは異なるかたちで川柳の交流の場を作りたかったのである。そのためには、人・もの・情報が集まることが必要になる。
呼びかけに応じて出店したのは、川柳マガジン、あざみエージェント、邑書林、ジュンク堂上本町店、私家本工房、ねじまき句会などで、歌人の瀬戸夏子と平岡直子の二人も「SH」を作って参加してくれた。
フリーペーパーのコーナーも設け、柳本々々の「夢八夜」、川合大祐「異月都市」、「触光」(高田寄生木賞発表号)、「びわこ」、「点鐘雑唱」「SenryuSO」「くねる」「川柳宙」「川柳北田辺」などが無料配布された。フリーペーパーというよりフリーマガジンが多く、ご参加のみなさまにはお得感があったことだろう。あぼか堂の「アオイ575」は現代川柳界をテーマに描いた漫画で、川柳の句会にもっと若い人が増えたらいいなという作成者の熱意が伝わってくる。

フリマと平行して三つのイベントを企画。
第一部は「雑誌で見る現代川柳史」。コンセプトは「過去の川柳人の営為に対するリスペクト」である。
会場の展示コーナーには、「鴉」「天馬」「馬」「流木」「でるた」「縄」「無形像」「現代川柳」「せんば」「短詩」「森林」「海図」「鷹」「不死鳥」「川柳ジャーナル」「視野」「平安」「魚」「藍」などを展示した。「川柳文学館」と呼べるような施設が存在しない現在、過去の川柳誌を実際に手にする機会は多くない。実物を見ることで川柳の先人たちの息吹が伝わってくる。
中村冨二の「鴉」は二冊展示。表紙の鴉のイラストがかわいい。ざら半紙印刷なので、すでにぼろぼろになっており、手を触れていただけなかったのは残念である。合同句集『鴉』も展示したが、これは特に貴重なもので、「この句集は幻ではなくて、ほんとうに発行されていたのか」という声も聞いた。
貴重なものと言えば「せんば」1968年6月号。高柳重信の「赤黄男俳句と川柳」が掲載されている。この文章は重信の著作集にも未収録で、重信の研究者にもあまり知られていない。

第二部は句集紹介とサイン会。
この部分のコンセプトは「句集・フリペを仲立ちとする交流の場」である。
まず田口麦彦に登壇してもらい、今年発行された『新現代川柳必携』の紹介。
続いて、倉間しおりの『かぐや』の紹介。倉間は現在、高校二年生で勉強が忙しいようだが、「川柳スープレックス」を中心に活躍を続けてほしい。
あざみエージェントからは内田真理子句集『ゆくりなく』、竹井紫乙『ひよこ』、泉紅実『シンデレラの斜面』、平井美智子『なみだがとまるまで』などを紹介。『カーブ』は徳永政二の川柳作品と藤田めぐみの写真とのコラボだが、個々の句と対応させて写真を撮るのではなく、句集全体のイメージから写真を撮るという藤田のやり方が興味深かった。
邑書林はこの春、尼崎に移ってきたので、今後、関西川柳人との交流の機会も増えることと思う。
あと、瀬戸夏子・平岡直子にも登壇してもらって、話を聞けたのも嬉しいことだった。

第三部は天野慶と小池正博の対談「川柳をどう配信するか」。
この部分のコンセプトは「発信・配信」である。
川柳は句会・大会には数百人規模で人が集まるが、それはクローズな世界のなかでのことで、短詩型の読者に対するオープンな発信力はそれほど強くない。同人誌・結社誌は発行されていても、一般読者には届かないので、SNSなどのツールを利用して発信するのもひとつの方法である。
天野慶は昨年7月の「大阪短歌チョップ」のスタッフのひとりであり、ツイッターでも毎日短歌を発信しているので、川柳に対してもいろいろな提言をしていただけるものとお招きした。実際、彼女の話はとても刺激になって面白かったという声が多く、さっそくbotを始めた川柳人もいるようだ。
今回は配信の話に特化したので、川柳の中身の話にも少し触れたいと思って「現代川柳百人一句」(小池正博選出)を用意した。
9月12日の「第3回川柳カード大会」には柳本々々を迎えての対談が予定されている。この時には現代川柳の内実の話もできると思う。

さて、事前投句を募集したところ78句のご投句をいただいた。当日、会場で「お好きな句3句」をご投票いただき、結果はいずれ「現代川柳ヒストリア+川柳フリマ」ホームページに掲載されるだろうが、ベストスリーだけ発表させていただく。

12点 枝豆で角度がリリー・フランキー    榊陽子
9点  満水の桜並木の栓をぬく        岩田多佳子
8点  三分ほど笑った馬を降りた馬      筒井祥文

川柳の現在位置を確かめるには縦軸(ヒストリア)と横軸(短詩型文学全体のなかでの川柳)が必要だ。そういう意味では、川柳人だけでなく歌人・俳人の方々にもご参加いただいたのは嬉しいことだった。川柳人はけっこうシャイなところがあるので、はじめての場で思うように交流できないことがある。私自身もお話しできればよかったのにと悔やむことが多い。渡辺隆夫は「川柳は外交的でなければ生きてゆけないのである」と言ったが、その通りだろう。
みなさまに楽しんでいただこうと思って企画したイベントだが、いちばん楽しんでいたのは私自身かもしれない。自分でもおもしろいと思えないようなイベントでは意味がないのである。

0 件のコメント:

コメントを投稿