2013年12月20日金曜日

今年の10句

今年も残り少なくなった。
1年間を振り返って、印象に残っている10句を選んでみた。
今年の10秀というような大げさなものではなく、私にとって愛着のある句を選んでみた。

銅像になっても笛を吹いている     久保田紺 (「川柳カード」3号)

分かりやすい句のように見えるが、よく読んでみると味のある作品である。
まず「銅像」に対する批判や揶揄と受け取れるのは、「笛吹けど踊らず」ということわざがあるからだ。銅像になってもまだ笛を吹いている人物に対するからかいである。
けれども「笛」という楽器がとても好きな人物だったとすると、銅像になってからも好きだった笛を手放さない世俗を超越した姿が思い浮かんでくる。
いずれにせよ、人間を見る目が厳しく裁いているのではなくて、ペーソスを感じさせるものとなっている。

着地するたび夢精するオスプレイ    滋野さち (「触光」34号)

政治批判を句にすることはけっこう難しい。状況の表面だけをなでるにとどまってしまうことが多いからだ。
この句は時事句の中でも射程距離が深いところに届いているように感じた。
「オス」という言葉の連想から、擬人化や狂句のように受け取る向きもあるかも知れないが、狂句に仕立てるなら作者は別の表現をとるだろう。凌辱する側の姿を冷徹に描くことによって、凌辱される側の痛みが伝わってくるのだ。

あんたこそ尾崎漁港のシャコである    井上一筒 (「川柳カード」4号)

川柳は一人称または三人称を使うのがふつうだが、たまに二人称を用いた句がある。
「あんた」は読者個人でもあり、人間一般とも受け取れる。
けれども「あんたこそ」と言われると、自分のことを言われているのかとドキリとする。そういう押しつけがましさがこの句にはある。
尾崎漁港は大阪府阪南市にある。釣り場としても有名のようだが、本当にシャコがとれるのかは知らない。

美容院変えた訳など語ろうよ    草地豊子 (「川柳カード」4号)

女性にとって美容院は行きつけの店があるから、そんなに簡単に変えることはないだろう。
谷崎潤一郎の『細雪』に世話好きの美容師(女性)が出てくる。蒔岡家の四姉妹のうち三女の雪子の見合い話を持ち込んでくるのが、行きつけの美容師である。美容院が混んでいるときなどは、ちょっと急ぐからと言って順番を早めてもらったりするのだが、見合いのために上京したとき、東京の美容院ではこの手が通用しなくて長時間待たされるエピソードがある。
この句では、何かの事情があって美容院を変えたのである。ちょっとした感情的な行き違いがあったのかも知れないし、気に入らない髪型を押し付けられたのかもしれない。その訳を女友だちに語っている情景は彷彿とする。
たぶん、こういう状況は美容院に限らない。それまでの習慣や考えを変えたくなるときがあるのだ。
「流される様に出来てる参議院」「この国は高野豆腐が搾れない」など草地豊子には批評性に満ちた作品も多い。

おばあさんがこねこねすると面子が揃う  内田万貴 (「川柳木馬」138号)

おばあさんは何をこねこねしているのだろう。それが何であるにせよ、おばあさんが何かをすると仲間が集まってくる。集まってくるのはおばあさんたちかも知れないし、おじいさんかも知れないが、世代を越えた人々が揃うのかも知れない。このおばあさんにはそういう力がある。
堺利彦は「川柳木馬」の句評で「解らないけど面白い」句として取り上げている。

おとうともあにも羊でつまらない   松永千秋(「井泉」54号)

作中主体は誰なのだろう。弟も兄も羊なのだから、語り手も羊のようだが、羊以外のものが語っているのかも知れない。
羊をメタファーとして読むのではなく、何か別の存在になりたいあるときの心情を表現したものと受け取れる。

音ひとつたてずに人をとりこわす     佐藤みさ子(「MANO」18号)

佐藤みさ子は宮城県在住。
東日本大震災をテーマに詠んだ句のひとつである。
ベースにあるのは作者の怒りであるが、静謐な表現が逆に怒りの深さを伝えてくる。

蒲団から人が出てきて集まった     樋口由紀子 (「川柳カード」2号)

毎朝、人は蒲団から出てきて一日の活動を始める。ごく普通のことだが、この作者が詠むと当たり前のことが当たり前でなくなり、ある違和感をもって伝わってくる。
それぞれの蒲団からそれぞれの人がぞろぞろと出てきて、何かのために集まったのである。改めてイメージしてみると、人間とは変なものである。

冬鳥がいるいる痛くなるほどに   広瀬ちえみ (「川柳カード」2号)

冬はバードウォッチングのしやすい季節である。
夏は葉蔭に隠れているので鳥が見つけにくいが、冬は木の葉も落ちて鳥の姿がよく見える。特に水鳥は池や川に大量に浮かんでいるので、目にしやすい。
この句はたぶん水辺の鴨たちの仲間を目にしたのだろう。

ヒトラーユーゲントの脛毛にチャコはすがりつく   山田ゆみ葉 (「川柳カード」4号)

先週紹介した、チャバネゴキブリのチャコを登場させたキャラクター川柳のひとつ。
「キャラクター川柳」という名称は大塚英志の『キャラクター小説の作り方』にヒントを得て使っている。
ワイマール共和国がヒトラーの第三帝国へと変質していった歴史をチャコは思い出させてくれる。

0 件のコメント:

コメントを投稿