2026年9月11日金曜日

『鏡像事変』

「川柳スパイラル」27号はゲスト作品として南雲ゆゆ、水埜青磁、空野つみき、加那屋こあ、馬場叶羽の句をそれぞれ10句掲載している。1句ずつ紹介する。

この儒艮、マーク・ロスコの黙示では?  南雲ゆゆ
いっけな~い!で建立されしプラクラや  水埜青磁
人形に青信号を塗る 剥がす       空野つみき
ホワイトノイズ混ざらない蝶もいる    加那屋こあ
そうだわと言って気球に乗っている    馬場叶羽

前の三人が川柳人、あとの二人が俳人である。
南雲ゆゆには句集『姉の胚』があり、第二句集『揶揄の¨』(やゆのうむらうと)』も10月に発行予定だという。水埜青磁、空野つみきとは今年3月の「らくだ忌第5回川柳大会」で出合い、作品を依頼した。加那屋こあは「俳句四季」の新人賞を受賞。「朝日新聞」8月5日付夕刊の「あるきだす言葉たち」に「ひかりのまま」12句が掲載されている(「ブローティガン読む夏掛にくるまって」)。馬場叶羽とは奈良の「わかくさ連句会」で知りあって、5月の「関西連句を楽しむ会in須磨」にも出席してもらった。
さて、いまネットを中心に精力的に川柳を発信している表現者にnesがいる。nesは「アイリス句会」を主催するネット系の若手川柳人だが、関西の幾つかのリアル句会にもときどき顔をみせている。彼が最近公開した「かんたん句会」はアカウント登録なしで川柳・俳句の句会を開催できるサービスで、頻繁に利用されているようだ。
nesが5月に発行した『鏡像事変~現代川柳アンソロジー』にはネット系の若手川柳人の作品が掲載されているので、「川柳スパイラル」のゲストと重なる作者を中心に紹介しておきたい。

くちづける度に瓦は落ちていく  下野みかも
花鋏 めぐりあってやってもいい 水埜青磁
バス停に人魚を棄ててずっと雨  空野つみき
数えるといつも奇数のこどもたち 桜庭紀子
地図をかく私がいない国のこと  野に咲くお花

下野は恋句を中心に30句をそろえている。現代川柳で恋の句はもっと書かれてもいいと思っている。ステレオタイプの表現ではなく、深化した現代的な恋の句が現れてほしい。
水埜の句、題詠ではないだろうが、「花鋏」が題(発想の起点)のような役割を果たしていて、そこからどのような方向に飛躍するかというのが読みどころだ。このような方法は雑排の冠句にもあって、「羊飼い まさか俺が狼とは」「宝石箱 いちどに春がこぼれ出る」などの例がある。「羊飼い」「宝石箱」が冠題。
空野の句、「バス停」は川柳でよく詠まれる場所だが、そこに人魚を棄てるという。端正で安定した句作だ。
桜庭の句、「川柳スパイラル」の句会でも高得点を集めた作品。新奇なことばは何も使われていないが、改めて言われると不思議な現実が表現されている。
野に咲くお花は「鱗kokera川柳賞」で平岡直子の目にとまったことで注目されたが、「かわいい」というコンセプトを中心にした日常詠が持ち味である。
「川柳スパイラル」27号では特集「現代川柳と私」のコーナーに水城鉄茶、下野みかも、桜庭紀子、野に咲くお花、森砂季のエッセイを掲載している。短詩型文学の場合は、作者のことがある程度わかっている方が作品を鑑賞しやすい。もちろん作者と作品を安易に結びつけた解釈は避けなければならず、作品の背後に作者の実人生を貼りつけたり、作者と作中主体を混同するような読みとは私も距離を置いてきたつもりだ。ただ、リアルで会ったことのない作者の創作環境を知ることで、その作者への関心が深まることも事実である。川柳を書き続けてゆくモチベーションを維持することが大切だ。

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