2021年10月16日土曜日

川柳の誌上大会

短歌が流行っているという。10月14日放送のカンテレ「報道ランナー」でも〈「#短歌」18万件超若者に人気再燃のワケ〉として紹介され、田中ましろ、なべとびすこが出ていた。う~ん、本当に流行っているんだなと実感する。

コロナが少し落ち着きを見せているが、この一年半ほどの状況は川柳の句会・大会に大きな打撃を与えてきた。川柳の世界は句会中心に回っているので、実際に集まることができないのは辛いところだ。終幕を迎えた川柳句会もいくつか存在する。川柳人はSNSなどの発信ツールが得意ではないので、リアルな句会・大会にかわる手段は多くない。そういうなかでよく行われているのは誌上大会という方法である。

「川柳たけはら」(編集発行・小島蘭幸)778号は竹原川柳会創立65周年記念誌上大会の入選句を掲載している。広島県の竹原は「安芸の小京都」と呼ばれるように江戸期の街並みがあり、テレビ・ドラマの撮影などに使われることもある。以前、竹原川柳会がドラマに出演しているのを見たことがあるが、それは俳句の句会のシーンなのだった。歴史のある川柳会で、この誌上大会には全国から776名の応募があったという。誌上大会というのは投句料を添えて応募し、結果を誌上で発表するから、リアルの川柳大会よりも結社にとって経済的負担が少ない。そのかわりけっこう手間がかかるので、「川柳カード」のときに一度誌上大会を開催したことがあるが、投句の打ち間違いなどのトラブルがあって苦情が多かった。
さて、「川柳たけはら」の誌上大会の課題「酒」「竹」「自由吟」のうち「酒」と「自由吟」から何句か紹介しよう。まず「酒」から。

酔筆の流れ流れて天の川      芳賀博子
転た寝の酒仙に羽衣をふわり    木下草風
神様はいいな御神酒に囲まれて   平井美智子
月光を着せても脱がせても酒屋   原田否可立
雨降れば雨の仲間が寄って飲む   森中惠美子
三次会寝てる奴らに歌うやつ    石橋芳山
月へ行くミッション抱いている地酒 赤松ますみ
杜氏から水は魔法をかけられる   みつ木もも花
たゆたゆと酒ゆらゆらと月明かり  くんじろう
山小屋の骨酒に酔う登山靴     美馬りゅうこ

次に「自由吟」から。

茶柱はこれから龍になるところ   西沢葉火
独裁者の景色はひとりだけ違う   濱山哲也
紙芝居まで遠すぎるすべり台    くんじろう
すみれいろのことばまみれになりたくて 吉松澄子
アンネの日記マスク外していいですか  弘津秋の子
安心まで神話になってしまいそう  大久保眞澄
応接間より物置がおもしろい    新家完司
また一人施設へ行くという便り   西出楓楽
蓋あけるまでは真面目な恋でした  米山明日歌
浮世絵の瞳は切れ長に世界見る   原田否可立

入選句のあと、大会参加者の氏名が都道府県別に掲載されている。大阪・兵庫などの関西と島根・鳥取・岡山・広島などの中国地方の参加者が多い。あと、四国では愛媛県が多くて、俳句王国だけではなくて川柳も盛んであることが分かる。ここに名前が掲載されている人々が「川柳界」を支えているのであり、誌面からではあるが川柳大会の雰囲気を実感することができる。

「湖」(編集発行・浅利猪一郎)13号には第13回「ふるさと川柳」の報告が掲載されている。この川柳誌は秋田県仙北市で発行されている。四月と十月の年二回発行。課題を全国から募集していて、今回の課題は「激」。応募者482名。12人の選者による共選なので、選者の傾向の違いと、どの選者に採られるかという興味がある。各選者は入選50句、佳作5句、秀句3句を選び、入選1点、佳作2点、秀句3点の合計点で順位を決定する。受賞作品を紹介する。

暴れたくなるわそよ風だったもの  赤石ゆう
激論にピリオド打ったのは夕陽   永井松柏
核のゴミあなたの庭に埋めますか  橋本敦子
白×白とても激しいものを秘め   前田ゆうこ
八月に今も激しく叱られる     大嶋都嗣子
号泣をした日も青い空だった    児玉浪枝
弱くなっていく激しくなっていく  三好光明
核ボタン飾りボタンでないボタン  柴垣一
歩こうかいろんな風に当るけど   佐々木智恵子
少年の激しい青がある絵皿     前田ゆうこ
この海の怒った貌を忘れない    竹村紀の治
一枚のメモに地雷が埋めてある   浪越靖政

私は句会否定論者ではないので、川柳句会が嫌いではない。同じ課題で他と競うことになり、どのようにユニークな句を詠むか、同時に選者に分かってもらえるかどうか、ひとりで作句する場合と異なって、いろいろな要素が入ってくる。今回紹介した二誌から川柳大会の雰囲気を少し思い出すことができた。

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