2021年9月3日金曜日

関係性の文学(連句・川柳・俳句)

去る6月6日に日本連句協会主催の全国リモート連句大会が開催されたが、そのレポートが「俳句界」(文学の森)9月号に掲載されている。日本連句協会の会報「連句」8月号に吉田酔山が書いている報告によると、参加者は79名、東京・大阪をはじめ新潟・北陸・大分・岡山など各地在住の連句人が15座に分かれて連句を巻いた。「俳句界」に掲載されたのは半歌仙「走り梅雨」の巻(高尾秀四郎捌き)、二十韻「二度目の芒種」の巻(牛木辰夫捌き)、獅子「梅雨晴れや」(東條士郎捌き)の巻の三巻。獅子という形式は一般には馴染みがないかもしれないが、表裏各4句(4×4=16句)で一花一月。ここでは半歌仙「走り梅雨」の巻から紹介する。

 おもちゃのこびと七つ並べて   山中たけを
園庭の雲梯照らす月明かり     平林香織
 ふと草むらに鳴くは鈴虫     高尾秀四郎
越後より来ぬか来ぬかと新ばしり  吉田酔山

念のため前句と付句の関係を見ておくと、前の二句は七人のこびとのイメージから月の座へ。三句の渡り(三句目の転じ)については、月明と鈴虫の世界から酒どころ・越後から新酒の到来を待ち望む人物へ転じている。引用では分かりにくいが、「鈴虫」の句は表の六句目で、「新ばしり」の句は裏の一句目。表では出せない地名を詠んで、裏に移ったことを明確に打ち出している。
藤原定家の『毎月抄』に「すべて詞に、あしきもなくよろしきも有るべからず。ただつづけがらにて、歌詞の優劣侍るべし」とあるが、言葉そのものに良し悪しはなく、すべては言葉と言葉の関係性の世界である。

コロナ禍でリアル句会・大会が開催できないこともあって、ネットを利用した川柳句会が目につくようになってきた。暮田真名の「ぺら句会」は先日結果が発表されたが、湊圭伍が「海馬万句合」を募集中で、締切りは9月15日。「17人の選者による17題のネット句会」として評判になった「ねじまき句会」(なかはられいこ他)も結果が発表されている(ただし大賞の発表は9月30日)。ユニークなネット句会が現代川柳を活性化させる一助となるかも知れない。

上記の17人の選者のひとりである八上桐子が「ねむらない樹」vol.7(書肆侃侃房)に川柳作品12句を寄稿している。

一輪の椿が占める四畳半      八上桐子
三つ編みのうしろへ伸びてゆく廊下
藤へ首そらすかたちのままに灰

「古い家」というタイトルで、旧家の四畳半や廊下などの場所が設定されている。「椿」「藤」は季語ではなく、場の雰囲気を醸し出すために使われているのだろう。八上には「藤という燃え方が残されている」という句があり、『はじめまして現代川柳』の解説で私は「炎は上に立ち昇ってゆくが、藤の花房は下へと垂れ下がってゆく。それも一種の燃え方だという」と書いている。ここでは更に燃えたあとの灰になっているが、灰になったのは藤そのものではなさそうだ。八上の作品は葛原妙子トリビュートとして書かれたもの。他に紀野恵、井上法子、鴇田智哉などが作品を寄せている。鴇田は〈『朱霊』の魚に寄す〉とベースになる歌集を明らかにしているが、八上の場合は何だろう。特定の歌、歌集ではなくて葛原妙子の全体的なイメージを踏まえたものだろうか。
「ねむらない樹」vol.7の特集1は「葛原妙子」(「女人短歌」についても詳しく取り上げている)、特集2が「川野芽生」。いずれも興味深い内容である。

水かぎろひしづかに立てば依らむものこの世にひとつなしと知るべし 葛原妙子

「川柳木馬」169号の招待作品は広瀬ちえみの40句。新作かと思ったら昨年発行された句集『雨曜日』(文学の森)からの抄出だった。

遅刻するみんな毛虫になっていた   広瀬ちえみ
笑ってもよろしいかしら沼ですが
夜行性だから夜行性に会う
咲くときはすこしチクッとしますから
うっかりと生まれてしまう雨曜日

作家論が欲しいところだが、誌面には何も書いていないので、「凜」86号に石田柊馬が掲載している文章を紹介しておく。
〈昨年、句集『雨曜日』(広瀬ちえみ)が刊行された。先の句集刊行から「もう十五年も経ちました」と作者。それ以前にも個人句集や共著が在って、何れも収載作品の作句の時期があきらか。「いい年をして、夢を見ながらふわふわ生きて来たように思います」と「あとがき」にあるが、先に出た合同句集やアンソロジーと共に読み返せば、現代川柳の諸々の活動シーンに広瀬ちえみの存在が欠かせないことが歴然〉
「木馬」誌の会員作品から。

シマウマもキリンも睡魔もてあます  小野善江
言い訳がとまらなくなる雛の檀     同
讃美歌が悲鳴に変る日曜日      古谷恭一
ドーナツを残して女逃げてゆく     同
じゃんけんで負けてランプの鳥になる 大野美恵
山ひとつ百字以内に要約せよ     清水かおり
何語しゃべっても顎は気にしない   山下和代
押しあいへしあい溶けてゆくんだね   同
そんなんじゃ残り時間は食べられる   同

「じゃんけんで負けて」というフレーズは安易に使わない方がいいと思う。

「触光」71号。「特高が見た川柳」(野沢省悟)、「高田寄生木賞を読んで―アンソロジーについて」(広瀬ちえみ)、「おしゃべりタイム」(芳賀博子)まど。「第12回高田寄生木賞」の募集は2022年2月末日締切。掲載作品から。

東京五輪返上過去の事ですが   津田暹
摩崖仏人は神より素晴らしい   濱山哲也
三島由紀夫の胸毛に触れたことがない 野沢省悟
追い風も向い風もないホーム   岩渕比呂子
白く咲いたのね黙って咲いたのね 小野善江
消えてゆく虹の時間とキーワード 青砥和子
ほほえみの無果実墓の前にいる  勝又明城

俳句短歌誌「We」に、しまもと莱浮の川柳作品が掲載されている。彼は熊本市在住の若手川柳人。

笛を盗られて鴉に戻る     しまもと莱浮
立場上二年で和訳した縫い目
まだ卵殻だけがいきつづけている

俳誌も紹介しておくと、「LOTUS」48号は「多行形式の論理と実践」を特集。同人作品から。

花人を大軽率鳥は右繞して     九堂夜想
にび光るハシビロコウも地震雲    同
万物に抱かれし貴腐の姉ならん    同
地のなかは草木の寓話でいつぱいだ 志賀康
野の花よ眼を逸らしたらもう会えぬ  同
わが指を巻く哄笑の蔓であれ     同

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