2018年1月12日金曜日

川柳を売るということ―文フリ京都をひかえて

年末年始、ケーブルテレビでドラマの再放送を何本か見たが、その中で「重版出来」がおもしろかった。黒木華が演じる新米社員がコミックの出版社の編集部に配属され、漫画家の担当になったり書店を回ったりする。元気な彼女に影響されて、「幽霊」というあだ名のやる気のない営業担当が本気になってゆく話など、夢物語だと思いつつ引き込まれるところがあった。よい作品が必ず売れるとは限らないが、編集者と営業と書店の店員が連携すれば、本は読者に届くというのである。「重版出来(じゅうはんしゅったい)」というのは売り上げが伸びた本の再版が决まることを言うらしい。逆に、売れ残った本が工場で裁断されてゆく場面もあった。

従来、川柳の同人誌は販売ということを考えていなかった。
同人は同人費を払って作品を掲載してもらい、掲載誌を受け取って満足するというシステムで、一般読者に読んでもらう機会というのは少ない。購読者は「誌友」と呼ばれて、会費を払うことでその同人誌を支援するのである。雑誌経営はおおむね赤字である。
純粋読者が存在しないから、作品は他者としての読者が読むのではなく、作者自身や周囲の川柳人がおもしろいと思うような作品であれば良いのである。
柳誌を販売しようとすれば、ます一般読者が読んでもおもしろいような作品と文章を掲載する必要がある。販売できるだけの内実が必要となるのだ。
結局、どのような読者を想定して柳誌を発行するかという問題で、同人・会員を主とするか、川柳や短詩型文学に関心をもつ一般読者をターゲットとするか、両者を折衷した中間的な川柳誌とするかの選択を迫られる。もし、売ることだけを目的とすれば、大衆的な川柳誌になる。
以前、若手の歌人だったか俳人だったかが、「私の書くものは作品であると同時に商品だ」というようなことを書いているのを読んで、反発を感じたことがあるが、それはそれでひとつの覚悟を示していたのだろう。

句集の場合はどうかというと、贈呈が中心であり、不特定多数の読者が書店で川柳句集を買うというルートはほぼ存在しない。
まず、句集を発行するところにハードルがあって、かつては短歌・俳句なら出すが川柳句集は出さないという出版社が多かった。現在は川柳句集を発行する出版社も少数ながら存在するのでありがたい。
主な川柳本を紹介しておくと―
川柳アンソロジーとして『現代川柳の精鋭たち』(北宋社・2000年)が便利だったが、この出版社はもう存在しない。句集シリーズとしては邑書林の「セレクション柳人」(全20巻・ただし一部未刊)が比較的手に入りやすい。別冊として『セレクション柳人』も発行されていて、現代川柳論に興味のある方は読んでいただきたい。あと、「あざみエージェント」が川柳句集を出しており、左右社から「かもめ舎川柳新書」、東奥日報社から「東奥文芸叢書・川柳」が出ている。飯塚書店からは田口麦彦の『フォト川柳への誘い』『アート川柳への誘い』『スポーツ川柳』など。川柳ハンドブックとしては『現代川柳ハンドブック』(雄山閣)、事典としては『川柳総合大事典』(雄山閣、ただし4巻のうち2巻のみ出版)がある。あと、三省堂から『新現代川柳必携』『現代川柳鑑賞事典』『現代川柳女流鑑賞事典』が出ている。
手に入りやすいのは、『15歳の短歌・俳句・川柳』(ゆまに書房)で、この本の川柳の部分からおもしろいと思った川柳人の他の作品へと関心を広げてゆくのがよいと思う。
このように川柳関係の書籍は絶無ではないが手に入りにくいので、過去の資料を調べようとすれば国会図書館や関西では大阪市立中央図書館へ行くしかない。岩手県北上市の現代詩歌文学館にも川柳資料がある。

川柳を売るということに話を戻すと、書店を通じた流通があまり期待できない現状では、「文学フリマ」などで直接販売するのもひとつの方法である。1月21日の「第二回文フリ京都」には「川柳スパイラル」として出店するが、これは「川柳界から唯一の出店」である(このフレーズは毎回繰り返しているが、状況は変わらない)。なぜ川柳の出店が他にないかというと、高齢化している川柳人は若い人々が多く集まる文フリの存在を知らないか、知っていても関心がないからである。出店してもあまり売れないので、文フリに出店するくらいなら大規模な川柳大会で本を直接販売した方が目先の効率はよいということになる。
では川柳のフリマに特化して実施すればいいのではないか。そう思って、私は2015年・2016年に「川柳フリマ」を二回実施した。川柳本を出版している数社の協力をえ、ゲストに歌人を招いて対談も行い、川柳人以外にも関心がもてるようなイベントになるよう心がけた。ある程度の人数が集まり、本も少しは売れたのだが、出店料を抑え出店数もそれほど多くなかったので会計的に黒字にはならなかった。慈善事業では続けることができない。
今回の文フリ京都では「川柳スパイラル」創刊号や『川柳サイドSpiral Wave』『水牛の余波』などの川柳句集、川柳誌のバックナンバー、「タナトス」などのフリーペーパーを並べる。2ブース借りているので、川柳資料(非売品)も若干展示するスペースがある。私は連句人でもあり、『浪速の芭蕉祭・入選作品集』などの連句冊子も置く予定。「川柳と連句の店」の看板を掲げようと思っている。
本が売れなくても(売れればもちろん嬉しいが)、来場の方々には川柳の話をしに気軽にブースに来ていただきたい。

最後に、冒頭に書いたような本屋さんとの連繋について。「重版出来」は夢物語だが、最近では川柳に対して好意的な本屋さんもあるので、ルートを拡げる努力はしてゆきたい。
これまで川柳の流通は「投壜通信」のイメージで、孤島から壜に入れた手紙を流すようなものだったが、近ごろようやく普通郵便程度のイメージがもてるようになった気がする。

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