2017年12月15日金曜日

諸誌逍遥 ―11月・12月の川柳・短歌・俳句

時評をしばらく休んでいるうちに、相手取るべき雑誌や句集がたまってきた。
川柳はそれほどでもないが、俳句や短歌は活発に動いていて多岐にわたるので、駆け足で見ていこう。

「川柳木馬」145号は今年9月12日に亡くなった海地大破を追悼している。
清水かおりの巻頭言、古谷恭一の「海地大破・追想~人と作品~」のほか、海地大破作品集として154句を収録している。

蝉の殻半身麻痺のてのひらに      海地大破
たましいが木の上にあり木に登る
短命の家系をよぎる猫の影
とても眠くて楽譜一枚書き漏らす
夜桜に点々と血をこぼしけり

大破は「木馬」の精神的支柱であるだけではなく、全国の多くの川柳人にとっても心の支えだったと思う。
彼のあとを継承する「木馬」同人の作品から。

熟れ過ぎてここには翼つけられぬ    岡林裕子
ほんとうに求めるときは手動です    内田万貴
ここに来てここに座って木霊きく    大野美恵
愛咬の顎は地上に出られない      清水かおり
ゼラニューム手のかからない娘であった 川添郁子

11月の文フリ東京には行けなかったが、共有結晶別冊『萬解』を送っていただいた。
「俳句百合読み鑑賞バトル」「短歌鑑賞」から構成されている。BL読みがあるなら百合読み(GL読み)もあればおもしろいということらしい。短歌では山中千瀬や瀬戸夏子の作品が取り上げられている。

恋というほかにないなら恋でいい燃やした薔薇の灰の王国  山中千瀬
スプーンのかがやきそれにしたって裸であったことなどあったか君にも僕にも 瀬戸夏子

穂崎円は瀬戸の作品を次のように鑑賞している。
「感傷の甘ったるさや後悔の苦さはない。ただ今、スプーンの光に目を奪われ呆然としている僕がいるばかりだ。一度不在に気付いてしまったら、そうではなかった頃の自分に二度と戻れはしない」

「かばん」12月号は谷川電話歌集『恋人不死身説』の特集。

真夜中に職務質問受けていて自分が誰か教えてもらう      谷川電話
会いたいと何度祈ったことだろう 電車の窓にだれかのあぶら
恋人は不死身だろうな目覚めると必ず先に目覚めてるし

歌集評を木下龍也・初谷むい・佐藤弓生・柳本々々、山田航が書いている。
初谷むいは「すべて変わっていくこの世界の中であなただけが不死身であるということ」で、この歌集の「恋人のいる世界①」→「恋人のいない世界」→「恋人のいる世界②」という変遷をていねいに論じている。
柳本々々の「水の移動説」は「恋愛とは水の移動である」という説をとなえるが、これは「川柳スパイラル」創刊号における柳本の「竹井紫乙と干からびた好き」と表裏をなしている。谷川の短歌の水と竹井紫乙の川柳「干からびた君が好きだよ連れてゆく」を対照的にとらえているのだ。

「豈」60号の特集「平成29年の俳句界」。平成生まれの川嶋健佑が挙げているのは次の作品である。

青林檎からしりとりの始まりぬ     小鳥遊栄樹
遠足の終はりの橋の濡れており     黒岩徳将
会いたいな会いたくないなセロリ食う  天野大
春愁は三角座り、君が好き       山本たくや

一方、大井恒行は特集「29歳の攝津幸彦」で平成29年の29歳の俳人を「俳句年鑑」で調べたところ次の三人が見つかったという(「現在の29歳の俳人たち」)。

遠足の列に呑まれているスーツ     進藤剛士
朝焼けの象と少年泣きやめよ      山本たくや
蟬しぐれ自傷のごとく髪を染め     ローストビーフ

その上で大井は29歳のころの攝津幸彦たちの世代について振り返っているのだが、なかなか興味深い。

他にも紹介したいものがあるが、今回はこのへんで。

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