2026年2月6日金曜日

「オルガン」の10年

「オルガン」42号に宮井佳世乃が「2015年に『オルガン』を創刊してから、十年が経った」と書いているのを読んだ。もうそんなになるのかと驚いた。「オルガン」はそれぞれのメンバーが結社とは別に自由な個人として集まっている同人誌だ。俳句では「豆の木」、短歌では「外出」など、「オルガン」と同じような表現者のつながり方に共感するところがある。 手元に「オルガン」1号がある。2015年4月20日発行。マンバーは次の四人。「俳句がする、4つのオルガン」である。

白梅にして遠空を担ひけり    生駒大祐
記号うつくし空港の通路を蝶   田島健一
ぶらんこの鎖が空にまつすぐに  鴇田智哉
風船に入る空気のちとぎくしやく 宮本佳世乃

佐藤文香『君に目があり見開かれ』を読む座談会が掲載されている。
以後、俳句、座談会、テーマ詠という構成で、春夏秋冬の年四回の発行となる。
3号から福田若之が加わった。

うなずくからどんなに遠い滝だろう 福田若之

やがて生駒大祐が退会し、「オルガン」は四人で続けられる。宮崎莉々香が加わった時期もあるが、途中休会し、現在は復帰している。
私はこの時評でけっこう「オルガン」について書いていて、2015年7月31日、2017年1月27日、2018年7月7日などで紹介している。
2018年7月の記事は、「オルガン」の五人が大阪にやって来る、というもので、次のように書いている。
〈俳誌「オルガン」の宮本佳世乃・鴇田智哉・田島健一・福田若之・宮﨑莉々香の五人が大阪にやってくる。7月21日(土)に関西現俳協青年部勉強会「句集はどこへ行くのか」、22日(日)には梅田蔦屋書店で公開句会が開催される。21日の勉強会では、「オルガン」のメンバーのほかに久留島元や牛隆介、川柳人の八上桐子、五七五作家の野口裕が話題提供者として参加するのも興味深いところだ〉

「オルガン」のメンバーはそれぞれ句集を出しているので、句集から紹介しよう。

凍蝶の模様が水の面になりぬ     鴇田智哉『こゑふたつ』
こゑふたつ同じこゑなる竹の秋
人参を並べておけば分かるなり    鴇田智哉『凧と円柱』 
円柱の蟬のきこえる側にゐる
かなかなといふ菱形のつらなれり   鴇田智哉『エレメンツ』
いうれいは給水塔を見て育つ

二人ゐて一人は冬の耳となる     宮本佳世乃『鳥飛ぶ仕組み』
郭公の森に二人となりにけり
空港に歩いてゆける勾玉屋      宮本佳世乃『三〇一号室』
いちはつの花にさはれば文字の見ゆ

ふくろうの軸足にいる女の子     田島健一『ただならぬぽ』
鶴が見たいぞ泥になるまで人間は
見えているものみな鏡なる鯨
なにもない雪のみなみへつれてゆく

さくら、ひら つながりのよわいぼくたち  福田若之『自生地』
ヒヤシンスしあわせがどうしてもいる    
突堤で五歳で蟹に挟まれる
ひきがえるありとあらゆらない君だ

宮﨑莉々香については、「オルガン」から次の二句を挙げておく。

かもめすぐ春になりきれないからだ     宮﨑莉々香(「オルガン」9号)
ほたるかごみえないものがすべてこゑ         (「オルガン」10号)

「オルガン」にはときどき連句も掲載される。38号から脇起歌仙「ながい坂」の巻、のオモテ六句を引用する(捌・浅沼璞)。

ながい坂みぢかい草の春の夢   冬野 虹
 里に野原に頬白の声      四ッ谷龍
うらゝかに弁当のふた光らせて  浅沼 璞
 棚から古き新聞をとる     宮本佳世乃
宵闇のはるかな意識との出会   鴇田智哉
 そして九月の水たばこの香   福田若之

さて、「オルガン」42号では新メンバーに岩田奎を迎えた。宮本は次のように書いている。「同人誌といっても、同じような俳句を目指しているわけではない。各人がそれぞれのスタイルと俳句観を持ち寄っている。私にとってはメンバーの数だけ頂点があるような感覚だ。奎さんを迎えた今、オルガンは正六角形になった」

颱風の去りゆく裾に触るるのみ  岩田奎