2021年12月18日土曜日

2021年回顧(連句篇)

今年は国民文化祭『連句の祭典・入選作品集』が二冊発行された。第35回国文祭みやざきは昨年開催されるはずだったのが一年延期になり、結局今年もコロナ禍で開催できなかった。第36回国文祭わかやまは予定通り今秋開催することができた。宮崎は『入選作品集』のみ発行。そんな事情で二冊の作品集ができているが、その中からいくつかピックアップして紹介してみよう(以下、宮崎の作品集を『宮崎』、和歌山の作品集を『和歌山』と略記する)。

寂しさのグラデーションや秋夕焼
 各駅停車やがて月の出
残菊のなほ誇らしき姿して
 一羽の雀いつも顔見せ
ランドセルカタカタ鳴らし小学生
 厚着にかすかナフタリンの香

『宮崎』の歌仙「グラデーション」の巻(文部科学大臣賞)から表六句。印象的な発句に続いて、脇は月の座。第三「残菊」に四句目「一羽の雀」を付けて次につなげる。五句目には擬声語を入れ、六句目は冬に。破綻なく穏やかな表六句になっている。

宇宙のみこんだか鯉幟
 無重力の麦笛
すべての遺伝子情報細胞に
 おとぎ話が好きな父
月を待ちかねる龍頭船は蕭条と
 金木犀が香り

『宮崎』の歌仙「宇宙のみこんだか」の巻(国民文化祭実行委員会会長賞)から表六句。自由律である。連句はふつう五七五の長句と七七の短句という定型を繰り返すが、この歌仙は36句自由律。オン座六句の第三連で自由律の連を設けたり、部分的に破調にしたりすることはあるが、全巻を通して自由律というのはめずらしい。発句・脇の極大から第三の極小に転じ、四句目の「おとぎ話」で日常に戻したあと月の座と金木犀の取り合わせで引き締めている。冒険的な意欲が評価された作品である。

薔薇の香に体内の水呼応して
 ひとつに結ぶ玉繭のごと
指揮棒が振られ始まる交響詩
アプリの地図に右往左往す

『和歌山』の二十韻「薔薇の香に」の巻(上富田町長賞)から表四句。宮崎が歌仙の募吟だったのに対して、和歌山の形式は二十韻。表4句、裏6句、名残りの表6句、名残りの裏4句の形式である。表が4句で終わるから展開が早くなる。発句が薔薇の香と体内の水の呼応、脇は発句を玉繭の比喩で応じる挨拶。第三では始まりを告げる指揮棒を詠み、四句目のアプリで軽やかに次につなげている。

逃避行琵琶湖湖畔の隠れ宿
 もぐらがひよいと頭もたげる
出る杭は打たれるものと知りながら
 職を賭けたる接待の席

『和歌山』の二十韻「指先の」の巻(文部科学大臣賞)の裏の部分から。表が穏やかに進行するのに対して、裏は序破急の破の部分になり、多彩な変化が求められる。俳諧性や世俗的な題材も詠まれるので、掲出部分は裏ぶりがよくあらわれている。
日本連句協会が毎年発行している『連句年鑑』は各結社や連句グループのメンバーの総花的な作品となる傾向があるのに対して、国民文化祭の応募作品は入賞を目指しているので、よくも悪くも連句人の秘術を尽くす場となっている。

コロナ禍で座の文芸としての連句が危機に瀕しているが、打開策としてリモート連句が浸透してきている。6月6日「第1回全国リモート連句大会」が日本連句協会の主催で開催され、東京、関西だけではなく新潟、北陸、大分、岡山など全国の参加者79名が15座に分かれて連句を巻いた。尻取り半歌仙「冷汗」の巻から。

青時雨リモート連句の一会かな
 仮名を打ち込む顔に冷汗
あせるなと新米教師励まして
 指摘鋭く冴えてくる脳
能面に月の光がふりかかり
 雁の鳴く音のひびく里山

尻取りになっていて、「かな」→「仮名」のように前句の最後の言葉を、別の語に詠みかえて付句の最初にもってきている。遊戯的な要素も連句の幅広さだろう。

今年はweb上の新しい試みとして、若手連句人の高松霞と門野優による「連句新聞」が立ち上げられた。すでに春夏秋冬の4号が公開されている。コラム、全国の連句作品(10グループ)、トピックス、連句カレンダーという構成で、ネット検索するとすぐ出てくるので、ご覧いただきたい。私が特に注目したのは夏号、堀田季何のコラムである。堀田は次のように書いている。
「連句は変容しつつある。
こう書くと、専門連句人の何割かは眉を顰めるに違いない。どういう意味だと。連句は常に時事や現代語を取り入れてきているが、それは新しさとは違うし、況して変容とは言わない。最近の連句本でも、そこに書かれている式目は、何十年前の連句本のそれとはほぼ変わらない。形式にしても、新しいものはたまに生まれるが、歌仙、短歌行、半歌仙が相変わらず多い。では、こう書こう。
連句は変容しつつある。少なくとも、流行は変わりつつある」
この続きは直接お読みいただきたいが、「現代連句のこれから」を考えるときに、向かいあわなければいけない課題が指摘されている。

現代連句作品は全国各地の連句人・連句グループによって日々量産され、ネット連句も盛んになってきているが、座の文芸の閉鎖性と連句界の発信力の弱さによって一般の文芸愛好者に届くことが少ない。日本の短詩型文芸は和歌・連歌・連句・俳句・川柳という歴史的な系譜があり、どこから入ってもつながっているところがある。連句文芸、付合文芸のさらなる発展が望まれるところだが、最後に今年15周年を迎えた「浪速の芭蕉祭」について触れておきたい。「浪速の芭蕉祭」は毎秋、大阪天満宮で開催されているが、今年はコロナ禍で見通しが立たなかったため、宣伝は控えて参加者限定の会員制で実施された。10月3日にプレ・イベントとしてZoomミーティングによる「現代連句のこれから(短歌・俳句・川柳、そして連句)」を開催。ゲストに平岡直子(短歌)、安里琉太(俳句)、暮田真名(川柳)を迎えてそれぞれのジャンルと連句について話し合った。10月10日は大阪天満宮梅香学院でリアルの実施。トーク「現代連句のこれから」(金川宏)に続いて、連句実作会が行われた。連句と他ジャンルとの交流はこれからの課題である。

0 件のコメント:

コメントを投稿