11月3日、「2018きょうと川柳大会」に参加した。
この大会には一昨年から参加しているから、今度で三回目である。
事前投句の選者が竹内ゆみこ・平井美智子・小池正博・井上一筒の四人。
当日の選者は雨森喜昭・岩田多佳子・前中知栄・峯裕見子・新家完司。
私が事前投句の秀句にとったのは次の句。
きんつばの硬い四隅は方丈記 くんじろう
丸いきんつばもあるらしいが、硬い四隅というのだから四角いきんつばである。それが方丈記の四畳半の建物に変ってゆく。イメージの変容である。「AはB」という文体は川柳の基本構造である問答体。ふつう問答体では答えの部分に意味性があるが、この句では意味ではなくて四角のイメージから方丈記に飛躍している。川柳では食べ物が素材としてよく使われるが、方丈記といえば無常観。きんつばを食べながら無常観にまで至るというのは相当なものだと思った。
この大会は入選句を得点化して高得点の作者を表彰するというやり方をとっている。最高得点を獲得したのが森田律子で、来年の事前投句の選者に決定した。
ムギワラトンボ名誉顧問の背に止まる 森田律子
竜骨突起におたあさまの歯形
当日、峯裕見子と話す機会があった。彼女とは一時期、点鐘散歩会でいっしょになることがあったが、最近は会うこともまれになった。
峯裕見子の作品がまとまって掲載されているものとして、「川柳木馬」86号(平成12年秋)を取り出して読み直してみた。
牛乳と新聞止めてから逃げる 峯裕見子
私の脚を見ている男を見ている
猫の仇討ち金目銀目を従えて
そうさなあ手向けてもらうならあざみ
夕顔の種だと言って握らせる
そばかすが好きだと言ったではないか
わかれきて晩三吉が膝の上
菊菊菊桐桐桐とうすわらい
作家論を石部明と矢島玖美子が書いている。
さて、現在に戻って、「川柳木馬」(2018年秋号)を開いてみる。
巻頭言を清水かおりが書いている。清水は社会詠・時事句の高い山として渡部可奈子の「水俣図」と渡辺隆夫の作品を挙げている。あと、会員作品から紹介する。
花粉症王のくしゃみはピンク色 西川富恵
ありていに言えば二人は他人です
麦秋黙して君は中二病 畑山弘
桃缶とスタッカートで生きてゆく 岡林裕子
頬杖のままで千年 桜守 古谷恭一
まどろめば魚の貌につい還る 萩原良子
動線を隠して皇帝ひまわり 清水かおり
せいしょくきまっすぐな青の干物です 大野美恵
SPってスペシャルポテトなのかな? 山下和代
ルーターで私語する夜だ油断するな 小野善江
丸山進が書いている「木馬座句評」はさすがに的確に作品をとらえたものになっている。
「きょうと川柳大会」の際に、嶋澤喜八郎氏から句集をいただいた。「川柳作家ベストコレクション」(新葉館)の一冊である。
春の星を指揮する 嶋澤喜八郎
通り過ぎたら椿が落ちた
蛍かご大の闇提げていく
救急車蝶が先導してくれた
吐く息の白さで勝負しませんか
鳥になるチャンスだ誰も見ていない
一本の線が薄目を開けている
心臓をあげたら肝臓くれました
時を経て崩れるものは美しい
残照を浴びる単なる物として
嶋澤に自由律作品があることを知った。
嶋澤が毎月発行している「川柳交差点」11月号から。
露草の青ほど冷静になれぬ 山本早苗
八窓の茶室物静かに月が 小林満寿夫
雷はあれでけっこう淋しがり 嶋澤喜八郎
インチで考える落人伝説 森田律子
千切られた釦 証言台に立つ 笠嶋恵美子
私は句会否定論者ではないが、今の川柳句会がそのまま良いとも思っていない。句会・大会のなかで消費され消えていく大量の句のなかから、文芸として読むことのできる作品をどう掬い出していくのか、その方途が探られなければならない。
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