2015年3月20日金曜日

現代川柳ヒストリア―雑誌で見る現代川柳史

「里」144号(2015年3月)の特集は〈佐藤文香『君に目があり見開かれ』の開かれ方〉。
上田信治は「世界に『私』を与え直す」でこんなふうに書いている。

〈佐藤文香の第二句集『君に目があり見開かれ』のオリジナリティは「私性の持ち込み」と「文体の更新」にある。それは俳句が、詩として生まれ直すために、それこそ俳諧の成立以来何度となく行なってきたことだ〉

夜を水のように君とは遊ぶ仲
歩く鳥世界にはよろこびがある
知らない町の吹雪のなかは知っている
星がある 見てきた景色とは別に
町を抜けて橋に踊る海が見えた冬の

これらの句を挙げて上田は「私性」に関して〈その(作者の命名するところの)「超口語」が句に極私的な「つぶやく」主体を仮構している〉と述べている。また、「文体」に関しては〈個々の文節が五・七・五にズレつつ乗っていく感覚は、今どきの「譜割り」(旋律の各音に対する歌詞の割り振り)の複雑さを思わせる〉という。
特集には数名の論考のほか、佐藤文香による「出版記念特別作品22句」と「ぽえむ1篇(星とは何か)」が掲載されている。佐藤の新作から。

雪一面すすまぬ青はスキー我
肉塊として起き上がるスキー我

「里」の発行所である邑書林は3月に佐久から尼崎市に移転してきた。関西の俳人・川柳人にとっては「里」句会との交流がしやすくなる。

5月17日に大阪・上本町で開催される「現代川柳ヒストリア+川柳フリマ」の準備のため、このところ手元にある川柳誌を広げて、現代川柳の歴史をたどっている。
一般に川柳誌は消耗品なので、残されることが少ない。過去の川柳史に対するリスペクトがないというよりは、そもそも保存するという感覚を川柳人は持たないのだろう。
俳句の場合は「俳句文学館」があって、過去の俳誌のバックナンバーを調べるにも便利であるが、川柳の場合は「川柳文学館」のようなものはない。
川柳誌の実物を手にすると、過去の川柳人たちの息吹を実感することができるし、私たちがその流れのなかにいることが納得できるだろう。
宣伝をかねて、いま考えている内容をお知らせしてゆきたい。

現代川柳が中村冨二と河野春三からはじまった、というのが私の持論である。「東の冨二、西の春三」などと言われる。まず冨二の方から。
「鴉」は1951年1月から。(全27号)。同人は中村冨二・金子勘九郎・高井花眠・片柳哲郎・松本芳味。ガリ版刷で、当日は23号・25号の二冊を展示するが、触るとボロボロになってしまいそうので、残念ながら手にとって見ていただくわけにはいかない。また合同句集『鴉』も展示。

次に春三の方だが、まず「天馬」を展示。
「川柳ジャーナル」は比較的目にする機会があると思われる。
1966年(昭和41年)8月、「川柳ジャーナル」創刊。「海図」「鷹」「不死鳥」「流木」「馬」の各誌を統合して生まれた。「川柳ジャーナル」は終刊号を展示するが、「川柳ジャーナル」以前の5誌をあわせて見ることができるのはめったにない機会となるはずである。

河野春三の個人誌「馬」は1964年3月から1966年7月まで全15号が発行され、「川柳ジャーナル」に発展的解消された。毎号、特別作品が掲載され、6号に新子の50句、7号に草刈蒼之助50句、8号に春三の50句、9号に松本芳味の15句(多行作品「難破船」)、10号に春三の38句(黒縄抄拾遺「空蝉」)、11号に定金冬二の37句(「亡霊」)、15号は現代川柳作家自選集として56名が参加したという。
「流木」は1965年4月に京都で創刊。流木グループは橋本白史・宮田あきら・中奥治一郎・所ゆきら・上田枯粒・渡辺極堂の6人で、編集は宮田あきら。
静岡から出ていた「不死鳥」は1962年4月から1966年7月まで、全52号。私が見ることができた34号(昭和40年1月)を展示の予定。同人は中野柳窓、服部たかほ、稲村雀穂、森由旬、石川重尾の五人。
「海図」は編集発行人・山村祐。森林書房。
「鷹」は静岡の鷹集団発行。1964年~1966年7月。全33号。発行人・小泉十支尾、編集・片柳哲郎(30号から福島眞澄)。

「現代川柳作家連盟」(現川連)のことも触れておきたい。推進者となったのは岐阜の今井鴨平である。「現代川柳」は現代川柳作家連盟機関誌として岐阜で発行。1957年7月~1962年3月(全36号) 発行人・今井鴨平。しかし、現川連の会員たちは積極的な協力の姿勢をとらなかったため、鴨平は個人で「川柳現代」を発行することになる。1962年7月~1964年10月(全17号)。その「川柳現代」も1964年の鴨平によって終刊。第17号「今井鴨平追悼号」を展示する。

それ以後の川柳誌については省略するが、当日会場でご覧になっていただければ幸いである。現在、展示用の簡単なラベルを作成中。創刊から終刊まで何号あり、同人や発行人・編集人は誰かなど基本的なデータを記録するのにけっこう時間がかかる。
また、当日はパワーポイントを使って現代川柳史の流れを簡単に解説する予定。

当日は展示だけではなく、フリーマーケットを開催しているので、川柳句集を購入することができる。また、句集作者によるサイン会も予定。
あと、歌人の天野慶さんとの対談もお楽しみいただけることと思う。
フリマの出店は現在募集中。詳しいことは専用ホームページをご覧いただきたい。出店申し込みは4月末日までだが、会場はそれほど広くないので、お早めに申し込みいただけるとありがたい。

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