2025年1月11日土曜日

これからの連句

謹賀新年。今年もよろしくお願いします。
年頭の読み初めは『芭蕉文集』で、「野ざらし紀行」「笈の小文」「おくのほそ道」などを再読。芭蕉の転機となったのは、深川への隠棲である。

柴の戸に茶を木の葉掻く嵐かな  芭蕉
詫びて澄め月侘斎が奈良茶歌
芭蕉野分して盥に雨を聞く夜かな

昨年12月、深川の芭蕉記念館で「俳諧時雨忌」が開催された。コロナの影響でしばらく開催が見送られていたが、久しぶりの開催となった。主催も草門会から日本連句協会に移行した。
市中を離れて独居生活の中で文学表現をめざすというスタイルは、小豆島における尾崎放哉や其中庵の種田山頭火などがあるが、近代小説のなかでは中勘助が野尻湖の琵琶島で暮らしていた時期のことが思い浮かぶ。
「これは芙蓉の花の形をしてるといふ湖のその花びらのなかにある住む人もない小島である。この山国の湖には夏がすぎてからはほとんど日として嵐の吹かぬことがない。さうしてすこしの遮るものもない島はそのうへに鬱蒼と生ひ繁つた大木、それらの根に培ふべく湖のなかに蟠つたこの島さへがよくも根こそぎにされないと思ふほど無残に風にもまれる」(中勘助「島守」)
芙蓉の花の形をした湖が野尻湖で、そのなかの小島が琵琶島(弁天島)である。この島には宇賀神社があり、祭礼のとき以外は無人である。中勘助はこの離れ島にひとり島守として過ごして、『銀の匙』を書いた。明治44、45年ごろのことである。

さて、昨年発行された連句集に『爛柯』(幻戯書房、2024年12月)がある。別所真紀子と佐久間鵠舟の両吟連句集である。別所の主宰する「解纜」は昨年解散し、後継グループの「泉声」が現在は連句会を開催しているが、佐久間は「解纜」の会員として、別所の指導のもと連句の研鑽につとめた。『爛柯』はクオリティの高い連句集であると同時に、現代連句の指針・入門書としても有益である。連句形式も歌仙・半歌仙だけでなく、ソネット、胡蝶、二十八宿、短歌行、賜餐、獅子、箙・二十韻、テルツァ・リーマ、非懐紙、十八公、十三佛行、重伍など新旧の多様な形式が網羅されている。次に紹介するのは、別所の創案になる七曜という形式。日から土までを各4句ずつ、計28句並べた形式で、その火曜の部分から。

曼殊沙華野原いちめん火事となり  真紀
 折った頁に愛のメタファー    鵠舟
王宮をひそかに抜けし三の姫    真紀
 天衣無縫も齟齬は隠せず     鵠舟

堀田季何の主宰する「楽園俳句会」は連句にも理解があるが、昨年11月に『楽園』第三巻が発行されている。俳句だけではなくて、「猫の目連句会」の作品も掲載されている。連句人の静寿美子が参加しているほか、若手の日比谷虚俊も活躍している。ここではアントニオ猪木追悼連句興行「枯れぬ木」の巻の冒頭部分を紹介する。

蔵前に枯れぬ木もあり秋の暮  小田狂声
 獅子征く道に欠けぬ月あり 日比谷清至
稲妻と弓矢と痛み携へて       狂
 お花畠で延髄を斬る      虞里夢
夢を見て地平に兆す鷹となれ  高坂明良
 激化してゆく弟子の問答      至

昨年10月27日に開催された国民文化祭ぎふ2024「連句の祭典」の実作会作品集が届いたので、紹介しておく。岐阜は美濃派(獅子門)の本拠地なので、形式は各務支考の創案になる短歌行。「信長の人魚」の巻から。

信長の人形纏ふ菊赫し    佐々木有子
 落ちゆく鮎の城を見上ぐる 尾崎志津子
残る月投票場に急ぐらん   近藤とみ子
 鬢のほつれを映す手鏡     米林真
フィアンセとホットドリンクゆつたりと 津田公仁枝
 風邪移しあふ睦まじき仲    志津子

サザンカネット句会のアンソロジー2024「Montage」。これは自由律俳句のアンソロジーだが、その中に自由律連句が掲載されているので紹介しよう。半歌仙「ふわふわ」の巻(高松霞・捌)。

本心つるりと剥ける居酒屋きぬかつぎ  聡
 杯に月光飲み干す        はるか
垂直に飛ぶ黒猫草の穂        崇譜
 ふわふわをひたすら求める    はるか
乾燥機轟音のタイマー        崇譜
 凍ったままの嘘の窓       はるか

今年は現代川柳のフィールドで様々な動きがありそうだが、現代連句の世界でも多彩な言葉の付け合いが生れている。受信するためのアンテナの感度を上げることが必要だ。

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