2022年8月13日土曜日

「川柳スパイラル」15号と大阪句会

時評を更新する時間がとれないままに、ものごとがそれなりに進んでゆく。いろいろな想念が浮かんでは消えてゆくが、何もかも書くことはできないし、何が本質的なことなのか後になってみないと分からないことも多い。

暮田真名の発信力が目覚ましい。「ユリイカ」8月号の特集「現代語の世界」に暮田は「川柳のように」を寄稿している。現代語というテーマに関連して、短歌からは初谷むいが、川柳からは暮田真名の文章が掲載されているから、この両人が新しい表現者として注目されているのだろう。暮田は「現代川柳」というときの「現代」の意味、「現代川柳」と「詩」との関係について暮田自身の立場を述べたあと、何人かの川柳人の作品を紹介している。この文章から感じとれるのは暮田の「川柳愛」である。「詩」ではなくて「川柳」を書きたいということで、「川柳スパイラル」創刊5周年の集いでも、川柳が好きだという発言があった。現代川柳と詩との関係(いわゆる「詩性川柳」)には歴史的な経緯があるので、二者択一できる問題でもない。

7月23日に神戸で「現代歌人集会」が開催された。
村松正直の講演のほかパネルディスカッションに平岡直子・笹川諒・山下翔が出るので聞きにいった。短歌の読み方・読まれ方についてなのだが、作者に関するデータが作品の読みに影響するか、しないかの出口の見えない議論が続いている。当日のレジュメで笹川が「人生派」「言葉派」という分け方に疑問を呈しているのが印象に残った。「現代歌人集会会報」55号に笹川は「テーマに関連して最近思うこと」を書いているが、歌会で「短歌というより詩として読みました」という発言をする人があるらしい。このことも気になっている。

「川柳スパイラル」15号の特集は「暮田真名と平岡直子」。暮田の句集『ふりょの星』の句集評を我妻俊樹が書いているほか、一句鑑賞を8人の評者が執筆している。それぞれが取り上げた暮田の句を挙げておこう。

柳本々々   星のかわりに巡ってくれる
榊原紘    選球眼でウインクしたよ
笹川諒    ☆定礎なんかしないよ ☆繰り返し
湊圭伍    クリオネはドア・トゥ・ドアの星だろう
三田三郎   生い立ちの代わりに脱脂綿がある
大塚凱    やがて元通りに嘘になるだろう
瀬戸夏子   おそろいの生没年をひらめかす
中山奈々   飲食はみんながいなくなってから

編集人の方で調整したわけではないが、それぞれが取り上げた句が一句も重ならなかったのはおもしろい。また、柳本、笹川、湊の選んだ句に「星」が入っているのも後から気づいたことである。創刊5周年の集いで暮田が指摘したことだが、榊原の一句鑑賞では本文の中に「星」という言葉が出てくるのだった。
ゲスト作品も紹介しておこう。
佐伯紺「非常口」10句は「ここまでは闇ここからは暗い闇」ではじまり、「さいごまであかるいままの非常口」で終わる。闇から光へという構成である。特におもしろいと思ったのは次の句。

どの略歴もあなたは同じ年生まれ  佐伯紺

当たり前のことを敢えて書くことによって不思議な感覚が生まれる。佐伯紺はネットプリント「Ink」でも川柳を発表していて、現在3号まで出ている。

かきあげのアイデンティティ・クライシス 佐伯紺
目には目の歯にははるかなパンまつり
青魚の青さくらいで名乗りたい

もうひとりのゲスト、多賀盛剛はナナロク社の「第2回あたらしい歌集選考会」で岡野大嗣に選ばれている。「川柳スパイラル」には定型・自由律を取り混ぜて掲載。

こっちこないでください右の耳から橋が見えてて  多賀盛剛
口から出てくるその橋を渡る人についていった

不思議なユーモアがあり、長律作品に作者の本領があるのかなと思った。

現代歌人集会の翌日、7月24日に大阪・上本町で「川柳スパイラル」大阪句会が開催された。以下、句会作品の紹介。

兼題「踏む」
踏み倒すほどの未来のチョココロネ   中山奈々
星の生誕△金鳥の渦踏んで        金川宏
靴下の裏に貼り付く秘密基地      蟹口和枝
鐘の音を踏んでしまってからの棋士   宮井いずみ
猫たちよハイビスカスを踏みなさい   笹川諒
世へおいで靴のかかとを踏むために   橋詰志保
背表紙を踏んで八月やってくる     西田雅子
海の日に踏んづけ山の日に咲いた    芳賀博子
月面のコピー写真を踏んでいる     平岡直子
熱帯魚踏んでみたらばどうなるの    榊陽子
不法投棄された踏み絵の復讐劇     三田三郎
桔梗草踏めば昭和が盆踊り       まつりぺきん
蜘蛛の糸踏む蜘蛛がいて銀河の朝    兵頭全郎

雑詠
ビタミンのどれからも連絡が来ない   中山奈々
オーロラがゆっくり動く膝の裏     蟹口和枝
ゆるされず笑う間接照明        兵頭全郎
彗星です将来の夢は衝突です      三田三郎
七回も人間宣言したなんて       平岡直子
朝顔の顔から喉へかかる空       芳賀博子
カニ缶が全員亡霊だなんて       榊陽子
ぐりとぐらはなかよくそれをうめました 橋爪志保
流血をぬぐうぞうきん美術館      小池正博
ヒクイドリめくだんだら塾講師     宮井いずみ
この猫は雅語学校を逃げました     笹川諒
角砂糖の心中おまえが言うな      金川宏

「川柳スパイラル」の掲示板で紹介するべきだが、旧掲示板は7月末で終了し、新しい掲示板はまだ使い慣れていないので、この場で紹介しておくことにした。

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