青森で発行されている川柳誌「触光」(編集発行・野沢省悟)が50号を迎えた。年5回発行だから10年ということになる。
高田寄生木が「『触光』50号オメデトウ」という文章を書いていて、「触光」創刊号の野沢省悟の言葉を引用している。野沢はこんなふうに書いている。
「―川柳を何故つづけるのか?それは〈川柳が好きである〉との一言で言おうとすれば言えるが、単にそれだけで川柳をつづけているのではないと思う。客観的にみるならば、川柳をつづけることは〈のっぴきならないことであるのだ〉」
野沢のいう〈のっぴきならないこと〉に促されて、「触光」は10年続いてきた。「触光」以前にも彼は「双眸」や「雪灯」を出している。
巻末に「触光500号記念・触光推奨作品集」が掲載されている。創刊号から49号までの490句が掲載されていて興味深い。その中から次の15句を選んでみた。
牛の耳ピクリ軍靴か竜巻か 木暮健一
ともかくも一人は減った独裁者 瀧音末男
手は母を殺めてないが高瀬舟 大塚ただし
水面にローレライ水底にガンジー 濱山哲也
魍魎の匣を開ければ偽偽偽偽 中山恵子
この国で歳をとってはいけません 濱山哲也
記憶かくにん指はかまれた金魚は噛んだ 宮本夢実
買って飲む水を文化と思い込む 瀧 正治
おりづるのいきたえだえのかぞえうた 高田寄生木
口パクの君が代のあとワンコそば 渡辺隆夫
かぐや姫優待券を隠し持つ 鈴木修子
にんげんを食べる診察券だろう 勝又明城
ジュラ紀ではぼくたちだって飛んだ空 落合魯忠
くろやぎさんをきづかうためのいくさです 柳本々々
図書館は濡れないように立っている 猫田千恵子
「時事川柳」のコーナーでは渡辺隆夫から高瀬霜石に選者が交替、「誌上句会」では次号から広瀬ちえみから芳賀博子へ選者がかわるということだ。
また、「触光」では「第7回高田寄生木賞」として「川柳に関する論文・エッセイ」を募集している。評論・作家論賞というのは川柳界では稀有のことである。締切は2017年1月31日、4000字以内。川柳論を書いてみようという方々は応募してみてはいかがだろう。
熊本の川柳誌「裸木」(らぎ)は、いわさき楊子によって編集・発行されている。11月末に4号が出た。いわさきのほか、同人は上村千寿(熊本)・川合大祐(伊那)・北村あじさい(熊本)・久保山藍夏(福岡)・阪本ちえこ(熊本)・樹萄らき(伊那)というメンバーである。「くまもとメール川柳倶楽部」が発展してできた川柳誌。同じ地域にいなくても、メールによって全国の川柳人とつながることができる。同人作品のご紹介。
ムササビ飛んだビートはイイかんじ 樹萄らき
モルフォチョウの裏側の方で待っている 久保山藍夏
鎌でしょうカマキリでしょう嘘でしょう 阪本ちえこ
砂を吐く貝はクリーンになったのか 北村あじさい
体内のフィラデルフィアとカトマンズ いわさき楊子
卵産むところ探して陽が落ちる 上村千尋
強大な堀北真希が降りて来る 川合大祐
「くまもとメール倶楽部」は今年の春で100回を超えたそうだ。「裸木」に参加していない部員の句も紹介しておく。
褒められました腹がたちました 柴田美都
箱売りの小鰯 抵抗の重さ 竹内美千代
順番がきましたさてと行きますか 猫田千恵子
耐性をウイルス並みにつけてやる 徳丸浩二
いわさき楊子は「後記」にこんなふうに書いている。
「揺れ以来、何ごとにもゆるくなった判断(いいんじゃない)で今年も発行することができた。つづけるという束縛からは離れてそのつど考えることにする」
野沢省悟のいう「のっぴきならないこと」といわさき楊子のいう「そのつど考える」。それぞれの川柳誌がそれぞれの場で発行されてゆく。
先日、東京で瀬戸夏子に会ったとき、彼女が「雑誌はそれを出したいと強く思う人がいれば出るものだ」と言ったことが印象に残っている。
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