2023年12月15日金曜日

2023年回顧(川柳篇)

「川柳スパイラル」19号の特集は「石田柊馬の軌跡」である。追悼号とは銘うっていないが、同人・会員の作品に柊馬作品を踏まえた句が多く掲載されている。

夕暮れのポテトサラダという合図     畑美樹
コン・ティキもジンタも青い原っぱに   一戸涼子
にっこりと断言「妖精は酢豚に似ている」 悠とし子
もなかわっと泣いてから永久機関     兵頭全郎
むかつくぜネクタイ置いて逝くなんて   石川聡

また湊圭伍、畑美樹、清水かおり、飯島章友の追悼文が掲載されている。畑と清水はともに「バックストローク」35号に掲載された「だし巻柊馬」の企画で柊馬の自宅を訪れたときのことを書いている。同誌から石田柊馬の川柳歴を再掲しておくと次のようになる。

本名・石田宏。京都市生まれ。十代の後半で川柳と遭遇。「平安川柳社」入会。「川柳ジャーナル」1973年10月~1975年2月(終刊号)編集。「川柳サーカス」「コン・ティキ」を経て2000年「バックストローク」同人。以後も「川柳カード」(2012年)、「川柳スパイラル」(2017年)の創刊同人として現代川柳の第一線で活動をつづけた。句集にセレクション柳人2『石田柊馬集』(邑書林、2005年6月) 句集『ポテトサラダ』(コン・ティキ叢書、2002年8月)。共著『現代川柳の精鋭たち』(北宋社)『セレクション柳論』(邑書林)『はじめまして現代川柳』(書肆侃々房)。

柊馬は論・作の両面において現代川柳をリードする存在だったが、彼の仕事の全貌をまとまったかたちで知ることはむずかしい。句集については『ポテトサラダ』と『セレクション柳人・石田柊馬集』があるが、それ以降の句集はまとめられていない。評論については膨大な量にのぼると思われるが、川柳誌やネットの掲示板にそのつど発表されたもので、資料収集からはじめる必要がある。柊馬の仕事については今後、折に触れて語り継がれることが望まれる。

現代川柳のイベントとしては11月19日に東京・王子で開催された「川柳を見つけて」が注目される。暮田真名『ふりょの星』、ササキリユウイチ『馬場にオムライス』の合同批評会であるが、パネラーに穂村弘、平岡直子、川合大祐、郡司和斗を迎えて、それぞれの視点から語られた。
当日のレポートについてはすでに「ダ・ヴィンチWEB」に掲載されている(ライター・高松霞)。また来年3月に発行される「川柳スパイラル」20号にもイベントの記録が掲載されることになっている。 パネラーの平岡は暮田の句の言葉の見せ方について、「何の根拠もない組み合わせではなく、言葉と言葉との間に社会的文脈とは異なるつながりがある」「自分の都合より言葉の都合をきくことが優先されている」というようなことを語った。今年見聞きした川柳についての言説の中で最も印象に残る発言であった。

ネットを中心とした川柳の動きを振り返っておこう。
「川柳スパイラル」18号では「ネット川柳の歩き方」(西脇祥貴)を特集。Twitter(現在はX)、オンライン句会、オンライン講座、スペース、ツイキャス、川柳ユニットなどに渡って、ネット川柳を展望している。
まつりぺきんの編集発行による『川柳EXPO』は投稿連作川柳アンソロジーで、投句者51名(ぺきんの作品もプラスされて52名)、各20句だから1040句の川柳作品が集まった。第2集の募集もすでにはじまっている。
成瀬悠はネットプリント「現代川柳アンソロ」を第2号まで発行している。ひとり2句を募集してネプリで配信するという方法で、第1号63名、第2号57名の参加があった。
「川柳を見つけて」のイベントと前後して、川柳句集が次々に発行されている。森砂季の『プニヨンマ』、成瀬悠『序章あるいは序説もしくは序論』、南雲ゆゆ『姉の胚』、小野寺里穂『いきしにのまつきょうかいで』など。またササキリユウイチの第二句集『飽くなき予報』もすでに発行されている。時代のスピードが速くなってきた。

現代川柳への関心の高まりは歌人で川柳の実作をする人が増えてきたことと、ネット川柳の隆盛による。作者もヴァラエティに富んでいて、現代詩や演劇などさまざまな分野で活動している表現者が川柳に入ってきている。歌人の場合、従来は短歌の「私」と「私性川柳」の共通性が言われていたが、現在はむしろ短歌の私性が苦手な人が川柳に可能性を求めて実作に手を染めているケースが多いようだ。

「文学界」10月号の巻頭に暮田真名の「夢み」10句が掲載された。女鹿成二の写真とのコラボ。そのうちの5句をご紹介。

言いなりになって瑪瑙のアップリケ  暮田真名
本能で改編期だとわかるのよ
伝記的事実と寝てはだめだった
顔のまわりにハートがないの
筆算できみのこころが早わかり

今年も暮田真名の活躍がめざましかった。暮田の『宇宙人のためのせんりゅう入門』(左右社)が近日中に販売開始になる。

さて、既成の川柳人の側にはどのような動きがあっただろうか。
「アンソロジスト」vol.6(田畑書店)の特集《川柳アンソロジー みずうみ》は監修・永山裕美、川柳作品各20句でなかはられいこ・芳賀博子・八上桐子・北村幸子・佐藤みさ子が参加。樋口由紀子の解説が付いている。

文脈のどこを切っても水が出る   なかはられいこ
栞はらりと歳月のいずこより    芳賀博子
藤房のふるえる自慰に耽る舟    八上桐子
きれいごとセット郵便局で買う   北村幸子
でんわするちがう水路にいるひとへ 佐藤みさ子(以下5句)
行列に飽きた自分にも飽きた
B29をうつしたはずの水溜り
火口湖に生きた魚はおりません
空うつす湖面のようなこどもの目

あと、青砥和子『雲に乗る』(新葉館)も紹介しておきたい。

微笑みをまた間違えて然るべく   青砥和子
霙という半端なものが降ってきた
陸に杭打つから壊れていくんだよ
銃口の先に豆煮る人がいる
折鶴は重なるように睦み合う

ベテランの川柳人にはこれまでの経験と技術の蓄積があるので、句集のかたちで世に示すことが求められていると思う。

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