「本の雑誌」7月号に八上桐子句集『hibi』が紹介されているというので、書店に見に行った。多和田葉子をはじめとする数冊を三省堂書店神保町本店の大塚真祐子が取り上げているのだが、最後に『hibi』についても「言葉の可動域をひろげる希有な作品群」として言及されている。大塚が引いているのは次の句。
「おはよう」とわたしの死後を生きる鳥 八上桐子
『hibi』は刊行されてから半年足らずで完売したというから、川柳句集としては豪勢なものだ。この句集は今後ますます貴重なものとなりそうだ。ひょっとすると書店の店頭にまだ残っているかもしれないので、見かけたらご購入をお勧めする。
ネットプリント「ウマとヒマワリ4」が発行されている。我妻俊樹と平岡直子の二人誌だが、今回は我妻の短歌と平岡の掌編小説という組み合わせ。6月17日までコンビニでプリント・アウトできる。
平岡は砂子屋書房のホームページで「一首鑑賞・日々のクオリア」を連載している。染野太朗との交互連載だが、現代短歌の読みを知るうえで刺激的である。平岡の鑑賞で取り上げられているのは、たとえば6月13日は虫武一俊、6月15日は大田美和。先月のことになるが、5月25日には、なかはられいこの短歌も取り上げられていた。短歌の鑑賞は川柳人にも参考になるはずだ。
ネット連載といえば、春陽堂のWEBサイトで「今日のもともと予報―ことばの風吹く―」が5月から始まっている。柳本々々のことばと安福望のイラストのコラボレーションで、365回続くという。
5月に発行された「オルガン」13号では、白井明大と宮本佳世乃の対談が話題になったが、7月に「オルガン」のメンバーが大阪に来るらしい。すでに7月22日に梅田蔦屋書店で記念トークが開催されることが発表されている。
このように短詩型文学の世界はさまざまに動いており、このほかにも無数の動きがあると思う。言葉の世界に対して現実世界も激しく動いており、この世界はますます生きづらくなってきている。そんな現実や社会を風刺するのが時事川柳である。
俳誌「船団」に芳賀博子が「今日の川柳」を連載していて、すでに42回を数える。6月に発行された117号(特集「山が呼んでいる」)では時事川柳が取り上げられている。芳賀が紹介しているのは青森で発行されている川柳誌「触光」(編集発行・野沢省悟)の時事川柳コーナーである。この欄はかつて渡辺隆夫が担当していたが、現在の選者は高瀬霜石である。芳賀が引用しているのは次のような作品。
「夜空ノムコウ」にはそれぞれの明日 船水葉
「好き」という盗聴マイクらしいから 滋野さち
改ざんも日本の技術だったとは 濱山哲也
教会へ行きますポケットのピストルも 鈴木節子
党名にモザイクかけて立候補 青砥和子
文中に「よみうり時事川柳」のことが出てくる。時事川柳のひとつのメッカだった新聞の投句欄である。東京の紙面では川上三太郎・村田周魚・石原青龍刀・楠本憲吉・尾藤三柳などが歴代選者をつとめ、大阪では岸本水府が選者をしていた時期もある。私の手元にあるのは『時事川柳百年』(1990年12月、読売新聞社編)。70年代~80年代の作品から10句紹介しよう。
一年の計は石油に聞いとくれ 寿泉 昭和49年
五つ子のうぶ声高く春を呼び 春代 昭和51年
鬼ごっこ逃げる年金追う老後 あざみ 昭和52年
秋風にキャッシュカードの面構え 常坊 昭和53年
ニセ物が出てブランドの名を覚え 久直 昭和55年
サラ金と墓場のチラシ抱き合わせ 定治 昭和58年
詐欺商法静かに老いはさせぬ国 駒女 昭和60年
サミットに疲れダイアナ妃に憑かれ なもなくて 昭和61年
ザル法の穴でうごめくエイズ菌 肇 昭和62年
重い手で静かに昭和史を閉じる 一夫 昭和64年
読んでいるとその時代のことが甦ってくるし、現実政治はいつの時代も苛酷だったこともわかる。私は自分では時事川柳を書くことはほとんどないが、時代の反映としての時事川柳にはそれなりの関心をもっている。
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