「川柳スパイラル」23号が発行された。
新同人のエッセイ、林やは「あなたと」と猫田千恵子「流されるままに」が掲載されている。林やはについては清水かおりが「同人作品評」でこんなふうに書いている。
「 夢幻さが流れるからだ抱かれたい 林やは
以前、川柳界に俳句の柴田千晶のような手触りの句が少ないと書いたことがあったが、林やはの作品にその手触りを感じている。生の過程での性の感覚を言葉に置き換えながら、どこか詩的でもある。さりげなく使われた口語が読者に感性の交歓を促してくる」
林の川柳から柴田の俳句を連想し、詩的な感性を言いあてているのは清水の慧眼である。久しぶりに『超新撰21』(邑書林、2010年)を取り出し、柴田の句を読み直してみた。
(ちなみに『超新撰21』では柴田千晶の次に清水かおりの作品が収録されている。)
夜の海鋏のごとくひらく足 柴田千晶
縛られ地蔵目隠し地蔵朧にて
快楽はオートマティック紫荊
からつぽの子宮明るし水母踏む
円山町に飛雪私はモンスター
円山町は東電OL殺人事件の起きた場所である。柴田には『生家へ』(思潮社、2012年)という本もあって、俳句と詩のコラボを試みている。たとえば、こんなふうに。
「 縛られ地蔵目隠し地蔵朧にて
助手席には乱雑に領収書が積まれていた。男は無造作にそれを掴んでダッシュボードに押し込んだ。足元に落ちた領収書を拾うと『斎藤正』という名前が記されていた。斎藤さんというのですか? と尋ねたが、男は何も答えてはくれなかった。この男はほんとうに黒崎課長を知っているのだろうか、ふと疑問が浮かんだが、他に手掛かりはなかったので、男についてゆこうと思った」
「川柳スパイラル」23号の話に戻ると、読みどころのひとつは特集の「十四字作品集」である。十四字は短句、七七句とも呼ばれ、五七五定型と並ぶもう一つの定型である。38人の作品が掲載されている。
殉死に耳を舐められている nes
稲垣足穂宇宙万才 宇川草書
表ホワイト裏はブラック 津田暹
血は姉を吐く ヒャクネンマッタ 金川宏
蓋は開かない朧夜のこと 重森恒雄
沢田君まで寒いと言うか 宮井いずみ
本妻(5さい)負債(6さい) 西脇祥貴
編集後記には「今後も現代川柳のアンソロジーや句集が続々と刊行されることが期待される」とあるが、すでに次のような作品集が発行または近刊予告されている。
兵頭全郎『白騎士』
川合大祐『ザ・ブック・オブ・ザ・リバー』
まつりぺきん編『川柳EXPO2025』
石田柊馬作品集『LPの森/道化師からの伝言』
6月1日の「川柳スパイラル」大阪句会では石田柊馬の作品集についての話し合いも行われる予定である。