「かばん」6月号が届いた。
まず開いたページは「歌人・俳人・柳人合同句歌会レポート」(飯島章友)。
3月2日に新宿の喫茶室で開催されたが、断片的な情報は入ってくるものの、今までまとまったレポートもなく、どんな様子だったか気になっていたのだ。
この集まりは「かばんの会」主催で、「馬」という題または自由詠で短歌と五七五(俳句か川柳)を1作品ずつ提出、互選するもの。
参加者は「かばん」から東直子・佐藤弓生・澤田順、こずえユノ、白辺いづみ、川合大祐、鳥栖なおこ、飯島章友。俳人は西原天気、手嶋崖元、西村麒麟。川柳人は藤田めぐみ、倉間しおり。
まず、短歌作品からピックアップする。
自転車廃棄所の銀の光の中をゆく馬を欲しがる妹のため 倉間しおり
楽しくも寂しくも無き湖の向かう岸から馬が見てゐる 西村麒麟
駆け抜ける馬のかずかず現実の世界と同じ大きさの地図 西原天気
こんなにも明るい昼を走り過ぐ馬上の人のとけゆくほどに 東直子
星を見に行こうよ井戸に落ちた星、実感馬鹿なんかほっといて 佐藤弓生
肉食ひて肉と成したるおのが身を恥づれば馬の国のガリバー 川合大祐
最高得点は6票で、倉間しおりの作品。
「イメージのカッコ良さや映像の鮮明さ、置場ではなく『廃棄所』とした上手さ、サカナクションのようなテクノロックっぽさ、『馬』という聖と『自転車廃棄所』という俗の関係から光を見つけるところなどが高い評価を得、三分野すべての参加者から票が入った」と飯島はコメントしている。
次点は五票で、西村と西原の作品。
三位が東の作品だったという。
続いて五七五作品をピックアップする。
のどけさや君の桂馬が裏返る 鳥栖なおこ
開戦前ひづめは紅くなっている 藤田めぐみ
わたしって馬だし箸は持てないし 飯島章友
春の雪ぼくらしばらく木となりて 佐藤弓生
馬が突き刺してゐる春の雷 手嶋崖元
最高得点は五票で、鳥栖・藤田・手嶋の三作品。
ジャンルを超えた短詩型の実作会・批評会はこれまでにもいろいろ試みられてきた。他ジャンルの人が作った作品がそのジャンルの作品を読み慣れている者にとって新鮮にうつることもあるし、そのジャンルに習熟している実作者ならではの作品が順当に評価されることもある。実作を通して、それぞれの形式の手触りの違いが浮き彫りにされるのが越境句会・歌会の醍醐味だろう。「短歌がじっくり分析することに向いているのに対し、俳句や川柳は分析しすぎても詰らない」という感想が会の後で出たそうだ。
特集のひとつ、陣崎草子(じんさき・そうこ)の第一歌集『春戦争』にも注目した。「かばん新人特集号Vol.5」(2011年1月)以来、陣崎は何となく気になっていた歌人である。その時のプロフィールには「絵、絵本、短歌、小説をかいています。小説『草の上で愛を』で講談社児童文学賞佳作受賞。絵本作品に『ロボットボロたん』など」とある。その後も絵本『おむかえワニさん』や穂村弘の本の装丁などで活躍している。『春戦争』は2013年9月、書肆侃侃房刊。自選20首から。
スニーカーの親指のとこやぶれてて親指さわればおもしろい夏
生きることぜんぜん面倒くさくない 笑える絵の具のぶちまけ方を
好きでしょ、蛇口。だって飛びでているとこが三つもあるし、光っているわ
夢を見るちから失わないために吠え声のごと光らす陰毛
何故生きる なんてたずねて欲しそうな戦力外の詩的なおまえ
どうせ死ぬ こんなオシャレな雑貨やらインテリアやら永遠めいて
このひとに触れずに死んでよいものか思案をしつつ撒いている水
そういえば蛇口には飛びでているとこがあるなあ、と改めて思う。
今回の自選20首には入っていないが、前掲の「新人特集号」から何首か追加しておく。
皿を割って割って割って、割ってって 雪がほんとに積もってしまう
まっすぐに落下してゆく鳥がいまいるね ほら、函館の空
海亀の目は何故あんなおそろしい 人をやめてしまいたくなる
馬鹿にされたことは誇っていい 熟れたトマトを潰した手を忘れるな
ええとても疲れるしとてもさびしいでもクレヨンの黄はきれいだとおもってる
さて、最初に紹介した合同句歌会に参加した倉間しおりは、昨年川柳句集『かぐや』(新葉館出版)を上梓して注目された十代の川柳人である。「川柳マガジン」に連載のコーナーももっている。『かぐや』からいくつか紹介しておく。
ひとりでは月に帰れぬかぐや姫 倉間しおり
憧れてキリンに化けてみるバナナ
好きな色は緑だという人に逢う
大根の白さで殴りたいあの子
ひっそりと風呂でイルカを飼ってます
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