2025年4月11日金曜日

雨月茄子春句集『おともだちパンチ』

3月15日に高槻市で開催された「第四回らくだ忌」に雨月茄子春が来ていて、句集『おともだちパンチ』を入手した。表紙絵では女の子二人が台所に立っていて、ひとりはこちらを見ている。イラストは、かわいみな。湊圭伍の解説が付いている。
以前、中崎町のラーメン屋で会ったときに句集を出すという話を聞いていたので、楽しみにしていた。楽しそうな句集であることは、湊圭伍が書いている。
巻頭の「名探偵」10句の中から5句引用する。

柵越えの名探偵にご用心     雨月茄子春
焼きたての名探偵はふたつまで
かつて名探偵だった雪が降る
左手も名探偵も添えるだけ
キタムラサプーソ、名探偵さ

「名探偵」の題詠で、自己紹介的に川柳の実力を示している。ひとつの題で多彩な切り口から言葉を並べてみせている。最後の句だけ意味不明だが、名探偵コナンが「君は誰?」と訊かれて「江戸川コナン、探偵さ」と答えるノリだろう。

カラダのピース。(大好きでしたな)カラダピス
途上国途中国途下国許可局
ふざけるのも大河にしてよ(魚もいる)
あらすじはいらないお造りさえあれば
例として「おみごと」などが挙げられる

「九十九句と一句」から引いたが、作者が川柳のことをよく知っていることがうかがえる。意味ではなくて言葉から川柳を作るというアプローチや「途上国」があれば「途下国」があるはずだという言葉遊び。大河だから魚もいるという視点のねじれやズラし。「例として」の前に何かが省略されているという「前句付」の感覚など、技術的な裏付けが何となく感じられるのだ。
作者の方法意識が読みとれるのが『90’s』よりの章で、2024年9月に発行された林やは編集の冊子に掲載されたもの。「暮田真名著『宇宙人のためのせんりゅう入門』で紹介されているクレダ流川柳の作り方を、ちゃんと実践した人ってまだいない説があるのでやりました」ということだった。

額縁法(ある単語が一番引き立つように作る) 
 「放塾」 放塾がナナをひとつの歌にした
コーディネート法(ある単語をもう一つの要素でコーディネートする)
 「おくちミッフィー」 阿蘇にでっかいおくちミッフィー
逆・額縁法(既存のフレーズを用いてつくる)
  ゴッホよりふつうに水平線がすき

吟行句もある。川柳は題詠が主流で、机の前で句を作ることが多いが、外にでて吟行をするケースもある。宮崎の西都原古墳の句を紹介しよう。

植樹ついでに野立てをしよう
ちょっとおしゃれしたくなったら考古学
チキン南蛮風味の矢尻
走れ!第五回はにわんグランプリ

ハンディな句集だが、多彩な内容と方法の句が収録されている。
「この本には、僕が2022年から2025年のあいだに作った川柳を295句載せました実際の川柳句会、大会に顔を出し始める以前のものがほとんどです」「なお、ここで言う『川柳』は、基本的には暮田真名に影響を受けて作られ始めた『暮田以後』の、特にネットを中心に書かれている川柳を指します」(「あとがき」)
「暮田以後」という表現、(他の人も使っているのかもしれないが)私が最初に目にしたのは雨月茄子春の文章からである。彼はまたこんなことも言っている。
「しかし一点、僕は超えてはいけないラインがあると思っている。それは『破綻してはいけない』ということ。コロケーションを試すのも、無為な発話をするのもいい。けど、その先にちゃんと『きみ』がいなければならないと思う。言葉をこねくり回していたらなんかできました、読んでみて反応ください。じゃあ駄目だってこと。何も語る気のない、何の感情も乗っていない、『きみ』がいなくても構わないような破綻したパッチワークなら、僕は絶対に見破れる」
こういうところ、私が雨月茄子春を信用している理由である。ネットで発信されているさまざまな川柳に、おもしろい作品もあればつまらない作品もあるのは、リアル句会で上質の作品と退屈な作品があるのと同様である。いまは過渡の時代で、今後もベテランや新人の句集・アンソロジーが次々に発行されていくのを期待している。

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