2023年6月14日水曜日

川柳誌とネットプリント

「触光」78号に第13回高田寄生木賞が発表されている。受賞は木本朱夏「白椿のひと―森中惠美子小論」、入賞は滋野さち「社会詠として時事を詠む」、北村克郎「川柳が今、おもしろい」、原田隆子「隆子流『江戸川柳』考」。
高田寄生木賞は川柳に関する論文・エッセイを募集する川柳界で唯一の賞である。今回の受賞作、木本朱夏は「川柳界には二人のエミコがいる」という書き出しで、時実新子(旧姓・森恵美子)と森中惠美子を対照的に取り上げている。

墓の下の男の下にねむりたや  時実新子
子を産まぬ約束で逢う雪しきり 森中惠美子

入賞作の中では滋野さちの「社会詠として時事を詠む」に注目した。「時事吟は消え物か」「時事川柳は男性のものか」「時事をどう書くか」「批判をどう書くか」など体験に基づいた滋野の考えが語られている。
「触光」には時事川柳のコーナーがあり、濱山哲也が選をしている。何句か紹介しよう。

WBCわたしのよるのトピックス   勝又明城
鯨幕見ても涙のパンダロス     津田暹
政治家の公平さんの肩をもつ    まつりぺきん
産めよ増やせよタイムスリップしたみたい 鈴木節子
外野席から必勝しゃもじ振っている 滋野さち

「川柳木馬」176号。「木馬座の作家」として内田万貴と大野美恵が取り上げられている。

又してもバベルの塔が築かれる   内田万貴
体幹を支えていたのはゼリー質
差し色に清少納言の悪意など
木っ端仏に見入っていたら口説かれる
こんな時に届くワルツの沈殿物

仮の世の裏でカルマの耳打ちが   大野美恵
禁固刑でしょうか無菌室ですか
竹林に隠士の集う蝮草
空席に耳の形を置いてくる
二周目はない缶切りの潔さ

昭和54年(1979年)7月創刊の「川柳木馬」は高知県の若手グループ「四季の会」を母胎とする。誌名の由来は次の句によるという。

目覚めは哀しい曲で始まる回転木馬  渡部可奈子

「長尾鶏」「どろめ」「軍鶏」「土佐犬」などの案があったが、海地大破が掲出の可奈子の句を口づさんで誌名が決定したという。
同人作品からご紹介。

天使・悪魔それぞれの手に紙袋   湊圭伍
視界ゼロどこかで鈴が鳴っている  古谷恭一
器では二度目の味変が始まっている 山本三香子
スローモーションで君の時計を隠したんだ 高橋由美
木が燃える約束通りゆらめいて   清水かおり
月や星について行ってはだめですよ 山下和代

紙媒体の川柳誌二誌を紹介したが、このところネット川柳が元気だ。
6月に入って、成瀬悠によるネットプリント「Twitter現代川柳アンソロ」が発行された。短歌や俳句ではよく見かけるネプリだが、川柳でも試みてみようということで、成瀬の呼びかけに応じて63名126句が集まった(一人2句)。参加者一覧も掲載されているので、ネット川柳の現在を知るのに便利だ。何人かの作品を紹介しておく。

泣いていたから車幅灯だとわかる  Ryu_sen
押入れの口内炎が治らない     優木ごまヲ
ベランダで半分行方不明です    石畑由紀子
大丈夫じゃないと言えば良かったな 伊藤聖子
ブロックを嵌めたら夜の完成です  雨月茄子春
栞がない 湾岸で挟む       嘔吐彗星
息継ぎする度襲名しちゃう     栫伸太郎
ヘイトから届くゆるふわ母子手帳  西脇祥貴

ネットプリントの打ち出し期間はもう済んでいるが、秋には第二弾が予定されているという。
もうひとつ、まつりぺきんによる投稿連作川柳アンソロジー「川柳EXPO」が作品募集中。誰でも投稿できるが、ネット上の投稿ページからに限る。投稿作品は未発表の20句からなる川柳連作・群作(タイトルを付ける)。単発作品ではなくて20句セットなので、作者・作品の資質・特性が立ち上がってくることになりそうだ。募集は6月30日まで。
先日の朝日新聞「うたをよむ」(6月11日朝刊)の欄で染野太朗が「文学フリマ」の熱気について書いていた。5月21日の文学フリマ東京では出店者・来場者合わせて1万人を超えた。「文学フリマのたびに膨大な数の短歌が発表されるが、それが読まれる場はいまだにほぼSNSに限られているように思う。分断を越えて読みの場の拡大を、などと『べき』を掲げるつもりはないが、参加した一人として少しでも鑑賞や批評を残していきたいと思った」と染野は書いている。
川柳では文学フリマでの作品発表はほとんどないが、ネットでの作品発表は出始めている。読まれ語り継がれる作品と消えてゆく作品があるのは紙媒体でも同じだが、量産されるネット作品を整理・可視化する試みがいくつか出てきたのは、貴重な情報源となりそうだ。

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