2022年12月25日日曜日

2022年回顧(連句篇)

年末に当たり、今年の連句界についても振り返っておきたい。
12月に日本連句協会創立40周年記念誌『現代連句集Ⅳ』が発行された。日本連句協会の前身である連句懇話会は1981年に創立。10年ごとに『現代連句集』を発行して、今回で4冊目になる。巻頭に「連句の愉しみ」(小津夜景)・「連句が好きだから」(堀田季何)のエッセイが二編。「日本連句協会の歩み」、座談会「現代連句の伝統と多様性」(小池正博・鈴木千惠子・宮川尚子・高松霞・門野優・山中たけを)のほか連句作品として「国民文化祭文部科学大臣賞等受賞作品」(第27回徳島~第36回和歌山)、各地の連句グループ作品84巻を収録している。
エッセイを寄稿している小津夜景は著書のあちこちで連句について触れている。小津と須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ』は連句の付け合いの呼吸で書かれているし、第二句集『花と夜盗』(書肆侃侃房)のうち「夢擬的月花的」(ゆめもどきてきつきはなてき)は連句の「月花(つきはな)の句」を一句立てにしたものである。月花の句は連句では春季扱いになる。

月を呑む花の廃墟を照らすため 夜景 
月と花比良の高ねを北にして  芭蕉

堀田季何は今年最も活躍した俳人のひとりだが、連句の心得もある。堀田の主宰する「楽園俳句会」は6月に冊子版を発行しているが、連句作品も掲載されている。この両人に限らず、連句に対する関心が広がりつつある。
「江古田文学」110号に浅沼璞が「『さんだらぼっち』にみる西鶴的方法」を書いている。『さんだらぼっち』は石ノ森章太郎の時代物漫画だが、西鶴のような俳諧(連句)的な方法が使われているという。そもそも西鶴が漫画的と言うこともできる。浅沼は連句以外のジャンルにおける連句的な要素を分析してゆく「連句への潜在的意欲」という方法をとっているが、小津や堀田のように連句への顕在的意欲を示す表現者がふえてきていることになる。

以下、各地の連句大会を紹介する。
3月20日に日本連句協会の総会と全国大会が両国の江戸東京博物館で開催された。リアルでの参加32名、リモートでの参加が24名というハイブリッド連句会となった。
4月29日、「第26回えひめ俵口全国連句大会」が松山の子規記念博物館で開催。愛媛県知事賞の歌仙「秋高し」の巻(高塚霞捌き)の名残りの表よりご紹介。

口髭に触れてかたびら雪の消え  徹心
 三代続く城の門番       忠史
香しき菓子を焼くのを趣味として 孝子
 南回りのけふのフライト    孝子
アメリカの株の上下にそはそはし 徹心
 桶屋儲かる仕組複雑     千惠子

6月12日、第二回全国リモート連句大会。(日本連句協会主催)
6月26日、第16回宮城県連句大会。コロナ禍の大会が中止になり、後日作品集が送付される。この大会は残念ながら今回で終了になるという。
7月27日~29日。徳島城博物館和室にて「夏休み子ども連句教室」が開催。一日目「俳句をつくろう」、二日目「長句に短句を付けよう」、三日目「句をつないでいこう」の三日間のプログラム。
9月11日、南砺市いなみ全国連句大会2022。
1993年に第一回大会が開催され、ほぼ4年ごとに回を重ね、今年で第八回を迎える。
富山県知事賞受賞の歌仙「冬夕焼」の巻の表六句。

かつてこのやうな恋あり冬夕焼  鈴木了斎
 慕情凍てつく文箱の底     杉本聰
除雪車の角曲がりゆく音消えて    了斎
 絡繰時計喇叭吹き出す       聰
月からの金糸銀糸に指からめ     了斎
 和紙に切り抜く芙蓉一輪      聰

10月は芭蕉にちなんんだイベントが続いた。芭蕉終焉の地・大阪では大阪天満宮の「浪速の芭蕉祭」。まず10月2日にリモートによるプレイベントを開催。浅沼璞と小池正博の対談のあとオン座六句と非懐紙の二座に分かれてリモート連句。一週間後の10月9日には大阪天満宮の梅香学院でリアル句会を開会。天満宮本殿参拝のあと、関西現俳協青年部長の久留島元をゲストに迎えての座談会と実作会。
伊賀上野では10月11日・12日に第76回芭蕉祭(伊賀上野)が開催された。
元禄七年(1694)、芭蕉の帰郷にあわせて、伊賀上野の門人たちが芭蕉実家の敷地に庵を建てる。芭蕉は8月15日に月見の会を催し、料理が振舞われた。芭蕉自筆の「月見の献立」が残っており、昨年、伊賀市に寄贈された。芭蕉祭の前日、10月11日の夜に「月見の献立歓迎会」がハイトピア伊賀で開催され、私も参加することができた。月見の献立にちなんだ料理が提供され、貴重な経験をする。
翌日の12日は俳聖殿の前で芭蕉祭の式典。連句の部では半歌仙「頓て死ぬ」の巻(梅村光明捌き)が特選になっており、その裏の一句目から六句目までを紹介する。

牧閉ざす馬柵遠くまでなだらかに   満璃
 逢へぬ日続き募るいとしさ     裕子
女子会のすぐ盛り上がる恋懺悔    光明
 ぐうたら亭主まづは槍玉      満璃
議員席スマホ居眠りここかしこ    裕子
 熱きおでんのコント大受け     光明

最後に、国文祭おきなわ(美ら島おきなわ文化祭2022)が沖縄県南城市を会場として開催された。10月29日吟行会。30日、南城市文化センターにて表彰式・実作会。一般の部、文部科学大臣賞は二十韻「大試験」の巻(富山県、杉本聰捌き)が受賞した。

大試験終えて少女の顔となる    宇野恭子
 たんぽぽの絮飛ばす道端     奥野美友紀
潮干狩りバケツそれぞれ手に提げて 北野眞知子
 母が伝授の結び三角       大島朋子

ジュニアの部・文部科学大臣賞は三つ物「かぜのしっぽ」(鈴木千惠子捌き)。

はるのかぜかぜにしっぽはどこにある  植田泰就
 にげられちゃったおたまじゃくしに  植田結衣
赤ちゃんの目が光ってるときかわいい    結衣

あと、ネットでは昨年スタートした季刊「連句新聞」が今年も春夏秋冬4号を発信。冊子版の特別編も準備中だという。
個人企画のイベントでは12月、東京アーツ&スペース本郷で高松霞による「連句の赤い糸」が開催。展示のほか連句ライブ、連句盆踊りが実施された。
座の文芸としての連句はコロナ禍の影響を受け苦境に立たされたが、リモート連句をはじめ工夫しながら進んできている。今後も連句は顕在的に・潜在的に続いていくことだろう。

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