2022年3月26日土曜日

現代川柳クロニクル―2012年~2017年

この時評では「現代川柳クロニクル」と題してゼロ年代の現代川柳の動きを略述したことがある(2021年10月23日・29日)。その際、2011年9月の「バックストロークin名古屋」開催と11月の「バックストローク」36号の終刊で記述が終わっている。ゼロ年代の現代川柳の流れは2011年の「バックストローク」の終刊をもって一区切りとすると理解してのことである。次のテン年代の現代川柳について書かなくてはならないのだが、この時期については個人的な活動が中心となり、極私的な記述になることが避けられないので、ご了解いただきたい。

2012年は石部明が亡くなった年であり、喪失感とともに新しい動きがはじまった年でもある。
同年3月、仙台で大友逸星追悼句会が開催された。川柳杜人社発行の大友逸星遺句集『逸』から抜き出しておこう。

にんげんがややおもしろくなってきた  大友逸星
骨折の訳は言えない笑うから
アメリカのパンツを穿いて動けない
うっかりと握り返してしまったが
バス停をずらす誰も居ないので

4月14日「BSおかやま川柳大会」が岡山県天神山文化プラザで開催される。私は入院中の石部明の代選をした。「石部明さんの代選ということなので、明さんならどのような句を選ぶだろうと思いながら選句した。けれども、結局は自分なりの選をするしかない。その句の前で立ち止まり、なぜなんだろうと考えさせてくれるような〈読みのおもしろさ〉のある句を選んだ」というようなことを選後評で私は言っている。大会の翌日、病院に石部を見舞いにいったが、それが彼と話した最後となった。
「Field BSおかやま句会」23号から。

音声認証 ドアときどき壁或いは君  蟹口和枝
菜の花は悲鳴を映す準備です     小西瞬夏
風はまだリベルタンゴを暗譜中    内田真理子
徳利の首から下は皆女優       くんじろう
鳥の肝鳥のかたちにしてあげる    榊陽子

9月15日、「川柳カード創刊記念大会」が大阪・上本町の「たかつガーデン」で開催される。このとき「川柳カード」はまだ創刊されていない。創刊前に花火を打ち上げようという意図だったが、110名の参加があった。池田澄子と樋口由紀子の対談「素直じゃダメなのよ、疑うところからしか始まらない」11月発行の「川柳カード」創刊号にこの大会の記録が掲載されている。10月27日、石部明逝去。
2013年、3月発行の「川柳カード」2号は「石部明の軌跡」を特集。また4月20日には「石部明追悼川柳大会」が岡山県天神山文化プラザで開催された。
9月28日、第2回川柳カード大会。佐藤文香と樋口由紀子の対談「トレンディな俳句・ダサおもしろい川柳」。
2014年4月19日、「第3回木馬川柳大会(創立35周年記念大会)」が高知市で開催された。「ありえない十七音に逢えるかも」というテーマで、味元昭次と兼題「ゼロ」の共選をした。「川柳木馬」140・141合併号から。

ゼロの箱からふとん屋の声がする  樋口由紀子
ゼロじゃないまだ一本の松がある  藤本ゆたか
すずらんの頷くほどの自分探し   山本三香子
彗星だと言いはる筒状の冷気    内田万貴
午前中なら消印は海ですが     徳長怜子
帝国の版図を熱っぽく語る     古谷恭一
早送りしても私は紙吹雪      郷田みや

7月20日、「川柳ねじまき」創刊。

(せり、なずな)だれか呼ぶ声(ほとけのざ) なかはられいこ
敬老の日にいただいた電気椅子        丸山進
わたしたち海と秋とが欠けている       瀧村小奈生
歩いたことないリカちゃんのふくらはぎ    八上桐子

9月10日、『新現代川柳必携』(田口麦彦)発行。
「川柳カード叢書」として『ほぼむほん』(きゅういち)が9月に発行される。これに続き2015年1月に『実朝の首』(飯田良祐)、5月に『大阪のかたち』(久保田紺)が刊行。

ほぼむほんずわいのみそをすするなり きゅういち
経済産業省へ実朝の首持参する    飯田良祐
ぎゅっと押し付けて大阪のかたち   久保田紺

2015年5月 17日、大阪・上本町で「現代川柳ヒストリア」主催の「川柳フリマ」を開催。「文学フリマ」から刺激をうけて、川柳でもフリマができないかという試みである。「雑誌で見る現代川柳史」として、「鴉」「天馬」「鷹」「不死鳥」「馬」「川柳ジャーナル」「川柳現代」などの柳誌の展示と解説。ゲストに天野慶を迎えて対談「川柳をどう配信するか」。フリマの出店は7団体あり、瀬戸夏子と平岡直子の参加が大きな出来事だった。
9月12日、第3回川柳カード大会。柳本々々と小池正博の対談「現代川柳の可能性」。

2016年5月22日、第二回「川柳フリマ」開催。「句集でたどる現代川柳の歩み」の解説は石田柊馬。対談「短歌の虚構・川柳の虚構」のゲストは山田消児。出店は12グループ。
7月3日、第67回玉野市民川柳大会が開催される。男女共選の川柳句会で、全国から人が集まったが、この大会を最後に終了することになった。「川柳たまの」472号にはさまれた前田一石の挨拶文には次のように書かれている。
「玉野市民川柳大会は多くの川柳作家に可愛いがられ、親しまれ、また期待されてきましたが、この67回大会をもって終わらせて頂きます。参加された方々をはじめ、多くの仲間たちには誠に申し訳ないことですが、当玉野の会員の高齢化、減少は如何ともしがたく、ここ数年来の最大の問題点でありましたが、改善するに至りませんでした」
最後の大会の特選句を挙げておく。

「姿勢」新家完司選  車椅子押して姿勢を立て直す   畑佳余子
「姿勢」酒井かがり選 フィギュアの僕がおどけて少年A 北原照子
「化石」石田柊馬選  肉食系女子の化石に違いない   柴田夕起子
「化石」草地豊子選  出兵の父は化石になり帰還    原 修二
「太陽」きゅういち選 三回噛むとプチプッチとお日様  浜 純子
「太陽」長谷川博子選 太陽を今日は半分だけもらう   西村みなみ
「潜む」古谷恭一選  滝田ゆうわたしの路地に潜んでる 斉尾くにこ
「潜む」榊陽子選   潜むには大きな音を出すカバン  川添郁子
「高」 前田一石選  だらだらのばす七月の座高    中西軒わ

12月23日、墨作二郎没。91歳。

2017年3月、「川柳カード」14号で終刊。
5月6日、川柳トーク「瀬戸夏子は川柳を荒らすな」(中野サンプラザ)開催。このときはじめて暮田真名に会った。
11月4日、「川柳杜人」70周年
11月「川柳スパイラル」創刊。

書かなかったことも多いが、「川柳スパイラル」創刊以後のことは現在進行形であり、これからのことに属する。

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