10月30日
「紀の国わかやま文化祭2021」の「連句の祭典」吟行会のため白浜へ。JR白浜駅からバスツアーで、まず稲葉根王子へ向かう。熊野古道を本宮大社まで行くツアーで、ガイドさんも同行している。次の滝尻王子では熊野古道館の展示によって熊野古道の全体像が少し理解できた。古道館の横の細い道に「この道は熊野古道ではありません」という立札があるのがおもしろかった(その後、このような表示に何度も出会うことになる)。
滝尻王子のあとは一直線に本宮大社へ。本宮には来たことがあるので、私が行きたかったのは大斎原(おおゆのはら)である。ここに元の熊野本宮大社があったのだ。本来の聖地だから、何かアニミズムやスピリチュアルな雰囲気を感じることができるかと思って、感覚を開放して何かが降りてくるのを待ってみたが、都会生活者の私には聖域の感覚はそれほど得られなかった。同行の人々から少し離れたところに佇んでいたのは一種のポーズで、見苦しいことである。
本宮は一遍が参籠したときに夢に熊野権現が現れて阿弥陀信仰に導いたところだ。本宮の主祭神の本地仏は阿弥陀如来である。熊野と松山(一遍の誕生地)がつながる。
10月31日
「連句の祭典」当日。上富田文化会館で開催。
午前の部は開会式。表彰のあと記念公演「市ノ瀬夢芝居」と続く。当日配布された入選作品集から、まず一般の部・文部科学大臣賞受賞の二十韻「指先の」の巻(捌・名本敦子)のオモテ四句を紹介する。
指先の傷にはじまる春うれひ
籠にこんもり蕗の姑
入学式制服制帽まぶしくて
ペダルを踏めばこころ軽やか
ジュニアの部の文部科学大臣賞は表合せ六句「三が日」の巻(指導・鈴木千惠子)。中学生の兄弟の両吟。
はがき待ちポストに通う三が日
ポッケの左右入れる年玉
こち亀がずらりと並ぶ本棚に
猫の足跡続く裏庭
ソーダ水月といっしょに一気飲み
汗のにおいはクラスのにおい
午前の部の様子はYouTubeで同時配信された。限定公開なので事前に上富田町と日本連句協会のホームページにURLが掲載される。大会に参加できなかった方も楽しめたようだ。上富田町市ノ瀬の春日神社では毎年10月に奉納芝居が行われ、江戸時代中期から続いている伝統あるものらしい。歌舞伎のようなものかと思っていたが、大会当日上演された「置泥(おきどろ)」は落語のネタをアレンジしたもので、最後の方で「和歌山県の連句を育てる会」の会長も役者として登場、会場を湧かせていた。
昼食のあと午後の部は連句の実作。リアルの座が9座、リモートの座が1座で、計48名の参加。コロナ禍で会えなかった方々とも久しぶりに対面して連句を巻くことができた。Zoomを使ったリモートの座の方も、会場にパソコン2台を設置して、リモートの参加者と連絡をとった。実作の進行はリモート連句の参加者だけで行ったが、会場の連衆とリモートの連衆とが一座を組むハイブリッド連句も十分可能かと思った。
11月1日
熊野古道をひとりで歩く。タクシーで稲葉根王子まで行き、そこからバスで牛馬童子口まで。山道を登って箸折峠に着く。かねて憧れの牛馬童子と対面することができた。思っていたより小さな石仏で、左右に並んでいる馬と牛にまたがっているユニークな造型である。ここからは下りになり近露の里に出る。この日のコースのなかでは牛馬童子口から近露までが熊野古道らしい雰囲気があった。近露には民宿があり、中辺路を全部歩くなら、ここで一泊するのがよさそうだ。入ってみたいと思う喫茶店もあった。ここからの道はアスファルトが多く、歩いていてもそれほど楽しくない。楠山登り口から再び古道らしくなり、継桜王子まで行く。境内の野中一方杉は見事なものだ。ここで古道からリタイアしてバス道に下り、バスで本宮まで。途中、湯の峰温泉や川湯温泉を通過。川湯温泉には数十年前に宿泊したことがあるが、そのときの旅館が窓から見えた。
本宮のひとつ手前の大斎原でバスを降りる。一昨日とは別の入り口から大斎原に入る。再びここに来たのはいまひとつ納得できない気持ちがあったからで、聖地の雰囲気を感じとれるかどうか試してみたかった。けれども、参拝所の前の芝生のところで寝転んで話している若者の群れがいて、神聖な雰囲気は一昨日以上になかった。超越的なものに無縁な人間がいることは、それはそれで仕方のないことだ。河原の方におりてしばらく流れを見ていた。
11月3日
「`21きょうと川柳大会」に参加するため、ラボール京都へ。久しぶりの川柳の大会になる。
事前投句(雑詠)112人、一人2句投句だから224句を四人の選者が共選する。高得点句の一部を紹介する。
そうよねと話を聞いてくれたパン 新保芳男
弟がアベノマスクをつけている 福尾圭司
七割は風で有言不実行 斉尾くにこ
アリバイを程よく寝かす冷蔵庫 中林典子
赤い紐引けば口角上がります 長谷川久美子
熟さないトマトのように黙り込む 上西延子
オルゴールひらけば津波注意報 高橋レニ
傾けたワイン半音ずれている 矢沢和女
尻尾だけ揺れる弓張り月の猫 藤本鈴菜
風鈴も静かになって多数決 亀井明
バスを待つ指の形を変えながら 富山やよい
情報はそこまで湯切りさっとする 木戸利枝
当日の課題は「メニュー(蟹口和枝選)」「だます(岩根彰子選)」「手紙(ひとり静選)」「喉(笠嶋恵美子選)」「働く(藤山竜骨選)」。抜句数は平抜きが50句、秀句2句、特選1句の計53句。私の句はあまり抜けなかったが、久し振りに川柳大会の雰囲気を味わうことができた。川柳の句会は「題」という共通の土俵で腕を競い合うもので、自作が選者の好みに合う・合わないということはあるが、そこをねじ込んででも選者に取らせるだけの句を出すのが作者の力量である。選者の方も自分の好みの範囲で句を取る人もいれば、バランスよくさまざまな句を取る人もいる。句を読みあげる披講の仕方にも上手・下手があり、取った句には賛成できないが披講は上手だったり、選は納得できるが披講がイマイチだったりする。石部明は選も披講もすぐれていたなあと改めて思った。
会場での立ち話でウェブ句会「ゆに」の話を聞いた。芳賀博子のブログで立ち上げの案内を読んだことがあり気になっていたが、30数名の会員が集まったという。ゆに公式サイトもできていて、句会も行われているようだ。11月の会員作品から紹介しておく。
踏まれ邪鬼あの日の蝶を恋しがる 山崎夫美子
女子大の門をくぐると冥王星 朝倉晴美
今が大事ゴールポストの右狙い 海野エリー
還暦の顔がなんだかカマドウマ おおさわほてる
右手前に引けば鬱に戻る予感 岡谷 樹
狂わない時計を捨てに花野まで 笠嶋恵美子
落葉松の林抜ければ短詩型 川田由紀子
鎖骨から上は本音を語らない 菊池 京
呼応するように誤読をしてしまう 斉尾くにこ
林檎の皮のいつまでつづくバス通り 澤野優美子
少し向こうへ誠実な線を引く 重森恒雄
くるしみの中に一筋ある梨よ 千春
バッグにはスマホ、ハンカチ、秋銀河 西田雅子
頬杖を伝染し合ってはラフランス 芳賀博子
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