コロナ禍で川柳の句会・大会が中止になったり、誌上句会に切り替えられたりしている。9月19日に岩手県北上市の日本現代詩歌文学館で開催予定の「第7回現代川柳の集い」では第7回日本現代詩歌文学館長賞を受賞した新家完司の講演「人間を詠う・自分を詠う」があるはずだったが、これも中止となったようだ。
川柳人は句会・大会に集まって競い合うのが好きなので、そういう場が失われていくのは辛いところである。そんな中で句会が元気なのが、くんじろうが主催している「川柳・北田辺」である。同誌119号からこの句会の様子を紹介しておこう。川柳の句会には席題と兼題があり、兼題には題が出されているものと雑詠(自由詠)がある。まず席題「ありきたり」から。
逆さ富士からは密のカメラマン 茂俊
ベルリンの壁にらくがきした悟空 くんじろう
四畳半ひとま紫陽花も声変わり かがり
メイドインチャイナであった羊雲 きゅういち
どこが「ありきたり」やねん、と突っ込むところだが、この句会の雰囲気がうかがわれる句が取られている。次に兼題「雑詠」から。
ロココ調椅子で爪研ぐペルシャ猫 恵美子
右折から豆大福と同棲時代 彰子
四分休符が戻ってくる実家 和枝
薄紙の七枚目から魚市場 くんじろう
このときのリアル出席者は5人だったようだが、欠席投句者が6人。
続いて「川柳草原」116号を覗いてみよう。京都の川柳グループ草原が発行している。第一回草原賞が発表されていて、北村幸子が受賞している。選考の方法は誌上大会を前期(5月)と後期(6月)の二回実施して、その抜句数の合計で賞を決めるというもの。合点制の賞レースのやり方はいろいろあるが、投句者どうしで競い合いながら点を積み重ねてゆく方式はある意味で川柳人の体質に合っているとも言える。12点獲得した北村幸子の句から。
お義母さんと呼ばれて眉を描き直す 北村幸子
2メートル空けても伯母の静電気
転調を五回近づくほど遠い
このままでいいんだ路線図も君も
「垂人」は中西ひろ美と広瀬ちえみの二人が編集・発行していて、ジャンル越境型の同人誌である。俳句と川柳の接点があるとすれば、「俳諧」に求めることができる。「垂人」40号は特に俳諧を意識した誌面になっていて、「とびら」(巻頭言)で中西が「俳諧哥」について書き、鈴木純一が「超訳 芭蕉七部集『春の日(一)』伊勢詣での巻」を掲載している。ちなみに、かつて鈴木が書いた「一寸先へ切りかくるなり」(『セレクション柳論』邑書林)は私が惚れ込んだ出色の文章である。「垂人」40号から同人作品を紹介する。
乾いたら出会つてしまふ事がある 中西ひろ美
泡を吐く金魚の声が聞こえない ますだかも
息子の干し方とわたしの干し方 高橋かづき
えいえんはスノードームの島である 広瀬ちえみ
べとべとやぬるぬるたちのチームなり 同
入口に合わないときの鉋です 同
巻末に「風谷・鳴峯・走尾・垂人(2001~2021)目次総覧」が収録されている。「風谷」「鳴峯」「走尾」「垂人」と誌名を変えつつ疾走してきた、この20年間の中西の軌跡である。「垂人」は50号まで発行すると中西は言っているそうだ。
俳誌「奎」14号から細村星一郎の俳句を紹介していきたい。細村は暮田真名の「ぺら」句会で特選を二句取っている(「反社会的湖にお手紙です」「ベーコンと犬の家賃が払えない」)。俳句ではどんな句を書いているのだろうか。
うららかに草をくはえてみたりもす 細村星一郎
桜貝思ひ出したら伝へるよ
春を待つとき人間は上を見る
春が来て僕らはウルトラマンの子
焼野だと知つて前より好きになる
京都の川柳誌「凜」86号。同人作品から。
パブロフの犬を一枚ずつ脱ごう こうだひでお
誰も困らないからクジラは魚 同
いい嘘もあってときどき鏡拭く 桑原伸吉
エコ袋に入りきれない疲労感 同
髪染めておとな気取りの京都晴れ 辻嬉久子
珈琲の熱さをすする聖五月 同
同誌3月句会、雑詠から。
弓張月に似合う切手を選んでる 岩根彰子
ひなあられだけを飾って雛まつり 西田雅子
星を避ける三段変速ギア 森田律子
「きょうと川柳大会」が11月3日に予定されていて、事前投句締切が9月11日。無事に開催できるだろうか。
最後に、北海道の川柳誌「水脈」58号。「𠮷田久美子の世界」を浪越靖政が書いている。
くちなしよ私も欲しい弦一本 𠮷田久美子
葉鶏頭灯りは肉屋より洩れる
鳥小屋にうっかり宇宙の分娩室
黒揚羽割れた六月のオルガスム
同誌同人作品から。
湯と水の間合は詰めておきなさい 河野潤々
もがいているアマビエ@成果主義 四ッ谷いずみ
藤棚のフラッシュバック半跏思惟像 酒井麗水
ウイルスよ野心を捨てて去ることね 平井詔子
白亜紀のアンモナイトが君の椅子 一戸涼子
エロかっこいい不滅のアズナブール 麒麟
この星は、どうかしている。さようなら 落合魯忠
生まれて死ぬまで天然温泉 浪越靖政
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