「触光」63号(編集発行・野沢省悟)が届いた。
同誌62号に発表された第9回高田寄生木賞のことが話題になっている。
五十嵐進の前号鑑賞は〈「パチョピスコス」や「らいら」の存在を教示された前号だった〉ではじまり、芳賀博子の「おしゃべりタイム」では〈第9回高田寄生木賞受賞作は、森山文切さんの「古代ギリシャ柳人 パチョピスコス」。そのタイトルを見てびっくりしました。実は発表誌が届くちょうどひと月前のこと。他誌の連載でパチョピスコス氏こと森山文切さんに電話取材し、同タイトルの一文を書いたところだったからです〉とある。
芳賀の同タイトルの文章はまだ読んでいないなと思っているところへ、「船団」122号が届いた。(「船団」前号で坪内稔典が「散在(解散)」を宣言して世間をアッと驚かせたのは記憶に新しい。)芳賀の連載「今日の川柳」は47回目になるが、そのタイトルが「古代ギリシャ柳人パチョピスコス」。芳賀はこんなふうに書いている。
ここはアポロンの神託書。ある日、古代ギリシャ柳人パチョピスコスは神託を授かった。
「川柳を広めよ」
その瞬間「ピカ―みたいな、フワーみたいな」感覚に見舞われるも、神からの具体的な指示はない。そこで、
「取り急ぎTwitterなるものを始める。川柳に関する疑問は #教えてパチョピスコス で我に質問せよ」
パチョピスコスというネーミングの由来だが、川柳は難しくものではなく「パッとやってチョッとやってピッでできる」ということらしい。そういえば以前「川柳は紙と鉛筆があればできる」なんて言われていましたね。
芳賀が紹介している「僕は川柳の営業をやります」という発言は、私もその場にいて聞いていたが、確かに川柳には営業(流通)が欠けている。作品(商品)はあっても、それを売る人がいないのだ。森山は自ら営業マンを買って出た。
「川柳スパイラル」3号の「小遊星」のコーナーでは飯島章友が森山文切と対談している。森山が運営している【毎週web句会】の発信力は半端ではなく、川柳に関心をもつ層がずいぶん広がった。飯島と森山の対談の一部を紹介すると―。
飯島 さて【川柳塔】webサイトを拝見すると、「若手同人ミニエッセイ」の欄があるし、「同人・誌友ミニ句集」の欄では若い人の作品も閲覧できます。このあたり、やっぱり川柳塔としては意識的に行っているんですか?
森山 そうですね。意識的に行っています。おっしゃるように若手を押し出すことで活性化になると思います。人材育成の観点からも若手に積極的に参加してもらっています。若手同人エッセイの担当者はいわゆるアラフォーで、世間一般では中年です。この層がバリバリの若手というのが川柳界の厳しい現状です。私たちより下の世代がもっと増えてくるといいのですが、そのためにも結社内の若手を集めた企画の実施を通して、コアを固めておくことが重要と考えています。
「触光」62号に掲載された「古代ギリシャ柳人 パチョピスコス ―インターネットによる川柳の普及―」を改めて読み直してみると、「教えてパチョピスコス」に寄せられた川柳に関する疑問には次のようなものがあるという。
・結社に入るメリットとデメリットは?
・初心者が句会に出るための心構えは?
・選者制と互選の違いは?
・誌上句会とは何か?
川柳の句会がどういうものか一般にはあまり知られていないようだし、はじめての人が川柳句会に参加するのはけっこうハードルが高いと思われているのかもしれない。
森山の【毎週web句会】は平成28年4月にスタートし、投句者は6人。以下、二回目11人、三回目22人と増えていった。投句者の8割以上は結社に所属するなどの川柳人だったという。
転機は平成30年8月にやってくる。「いちごつみ」を実施したのだ。
前の人の句から一語選んで自分の句に使い、次の人も同じことを繰り返してつないでゆく。尻取りとは違うので、前の句のどの語を選ぶかは自由である。
「いちごつみ」はもともと短歌の界隈で流行っていたので、短歌をしている層の目にとまり、投句者が50名前後に増えたという。
以上のような経験から、森山は川柳の普及に必要な事項を三点挙げている。
・サイトやSNSなどネットなどネットによるアピールは有効である。
・活動を継続すること。
・きっかけを掴むこと。
句会に自足するのではなく、森山のように川柳の発信について戦略的に考える川柳人が現れてきたことは心強い。来年1月19日に開催される「文学フリマ京都」では、「川柳スパイラル」と「毎週web句会」のブースが隣接配置されることになっている。文フリへの川柳の出店がはじめて複数になるが、そのことによって川柳の存在感を少しでもアピールできればいいと思っている。
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