10月19日(日)
大阪天満宮の梅香学院で「浪速の芭蕉祭」が開催された。
芭蕉終焉の地である大阪にちなんでスタートしたこの連句会も今年で八回目を迎える。
主催の「鷽の会」は天満宮のお使いである「鷽(うそ)」を会名にしており、「鷽替え」という俳句の季語もある。
今回は28名の参加者があり、本殿参拝のあと、授賞式と講評、四座にわかれて連句の実作を楽しんだ。
献詠の連句・前句付・川柳を事前に募集しており、連句の部では、大阪天満宮賞(選者・臼杵游児)として、非懐紙「束の間の」の巻(捌・福永千晴)、大阪天満宮宮司賞(選者・佛渕健悟)として、十八韻 順候式雪月花「夏怒濤」の巻(赤坂恒子・岡本信子両吟)が受賞した。
束の間の逍遥遊や虹の橋 千晴
端折る裾も軽き早乙女 美奈子
富める者易き眠りの得難うて 秋扇
打てば響ける会話愉しく 緋紗
仕組まれし宴まばゆき良夜なる 将義
ナルシスト等は囮籠持ち 美奈子
「束の間」の巻の最初の六句。非懐紙は橋閒石が創始し、澁谷道などが継承している。現代連句の究極のかたちとも考えられ、今回の「浪速の芭蕉祭」では三席にも非懐紙「思い出し笑ひ」の巻が入選している。歌仙を巻き尽くしたあとにはじめて見えてくる、連句精神だけで付け、転じてゆく世界である。この大賞作品は尻取り式になっていて、遊戯的要素を取り入れたのがよかったのかどうか、評価は微妙に分かれるだろう。
夏怒濤くちびる別れ告げにけり 岡本信子
夾竹桃の赤き残像 赤坂恒子
もうひとつの大賞十八韻・順候式雪月花「夏怒濤」の巻は発句と脇だけを挙げておく。
ほかに大阪環状線の駅名を詠み込んだ「佳き月を」の巻(木村ふう独吟)、半歌仙「戦の日」の巻 (洛中落胡・迷鳥子両吟)、押韻定型詩を連句に取り入れたテルツァ・リーマ「聖衣」の巻(捌・渡辺柚)など注目すべき作品は多い。
前句付の部(前句「女子高生にモテモテのキャラ」、下房桃菴 選)の大賞作品。
仙人が猿の腰掛けぶら下げて 矢崎硯水
そして、川柳の部(兼題「満」、樋口由紀子 選)の特選。
無理やりに割り込むおばちゃんがいて満月 徳山泰子
連句関係のイベントとして、11月30日(日)には伊丹の柿衞文庫で「和漢連句に親しむ会」が開催予定である。
10月26日(日)
「びわこ番傘川柳会60周年記念大会」が滋賀県草津のボストンプラザホテルで開催。草津ははじめてなので午前中に到着し、本陣などを観光した。ハロウィンの催しがあり、カボチャの仮面をかぶったり、魔女の格好をした子どもたちが街中を走り回っていたのには驚いた。
「びわこ番傘」は「番傘」のなかでも独自の行き方をしている。番傘であって番傘にあらず。とはいえ披講を聞いていると、やはり「番傘」だと思ったり、いや「番傘」ではないと思ったり、どういう句を出せばよかったのかと迷った。
当日もらった今井和子句集『象と出会って』(あざみエージェント)から。
横にいて時々水をかけてやる 今井和子
入り口でウツボカズラに睨まれて
群れて飛ぶやがてひとりになっている
壱岐島で赤いポストに入れました
マネキンの裸なんでもないはだか
グアテマラの元気ないろを買いました
ざわざわと帰ったあとの金魚鉢
人生の残りは柿の木になろう
10月29日(水)
大阪・宗衛門町のロフト・プラス・ワン・ウエストで枡野浩一と藤井良樹のトーク・イベントがあり、行ってみる。藤井は『プリズン・ガール』などの著書のあるライター。
第一部は枡野と藤井のトーク。
「枡野短歌教」以後のことはあまり知らないので、枡野がお笑い芸人になっているというのには驚いた。サブカルの話にはよく分らないところもあった。
第二部に入り、会場から天野慶と正岡豊が参加し、短歌プロパーの話になった。こちらの方は私にもよく理解できた。
「20年短歌で食ってきた」というのがメイン・テーマだったようで、歌壇と距離をおきつつ、枡野が戦ってきた軌跡がわかった。
マーケットが成立しない川柳の世界とは無縁の話だという気もするが、この人たちが短歌のためにいろいろやってきたことは人ごとではない。さまざまな努力や試みは徒労に終わることが多いが、短歌や俳句を横目にあとから走っている川柳人にとっては、まだできることが残っている。
「MANO」19号に書いた拙文「河野春三伝説」について、大井恒行は「現代川柳はまだまだ希望を胚胎している詩形」と書いてくれたが、様々な試みをやり尽くした短歌・俳句にくらべて、まだ素朴な川柳には「希望」があるのかもしれないと勝手に思った。
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